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    パイプ

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    承の部分。そんなに大きくお話は動きません。(そんなに大きくお話が動かない時間ながくない??)

    #ひよジュン
    Hiyojun

    九尾の日和と人の子ジュン失礼な日和の物言いが聞こえなかったのか、聞こえた上でフル無視しているのかはジュンには分からなかったが「それでは早速、村を案内させていただきます!」という茨の申し出を「きみよりもぼくの方が詳しいね。」というひと言でバッサリ断った日和の間にバチバチと火花が見えたのは気のせいではなかったように思えてならない。「行くよ」とだけ呟き席を立った日和を追って立ち上がると、あれよあれよといううちに村に連れ出されてそこから十五分ほど歩いただろうか。社の近くにあった村は小さなものだったようで田畑や里山を除いて既にその殆どを見終えてしまった。
    とは言っても、いつもなら五分と黙っていられない日和がただ静かに歩き、時折足を止めて辺りを見回すものだから、ジュンは日和の様子ばかりが気になり、村の景色など殆ど目に入ってこなかったのだが。

    村の中心であろう大きな通りに着くと日和が本格的に立ち止まったので、ジュンも漸く辺りを見渡す。人の住まわない村は廃退が酷く、家屋は屋根の一部が抜け落ちていたり蔦や雑草に覆われていたりして、あの鬱蒼とした社の外観が小綺麗に思えるほどだった。ジュンが近くにあった建物の外壁を指でなぞり、簡単に壁が剥がれてしまうことに驚いていると日和が静かな声で話し出す。
    「そこは村の長の家だったね。とても快活なおじいさまで老若男女みんな彼のことが好きだった。あっちの崩れてるおうちは村一番の力持ちさんのお家。困ったことがあるとあの家に駆け込む姿をよく見たね。その向かいには勤勉な若者が住んでいて、寡黙なのにどうしてか子供たちに慕われてよく賑わっていたね。」
    数百年前の話を昨日のことのようにすらすらと話す日和と目の前の退廃した現実にジュンは寂しさや辛さ、悲しさをこれでもかと言わんばかりに含んだ痛烈な胸の痛みを覚えた。そうやっていつまで経っても鮮明に語れるほどに深く付き合った村人に襲われたのだ。ただでさえ寂しがりで愛されたがりのこの人が受けたショックは計り知れない。日和から過去の話を聞いた時も大きな衝撃を受けたが、実際に当人たちの暮らしの跡を見ながら聞くと目の前のリアルも相まって、もう自分の感情をどうすることもできずにただ涙がすっと流れた。つらいのは日和なのにと分かっていても止まらない涙を拭う気にもなれず俯く。ジュンには日和にかけてやれる言葉が見つけられなかった。

    「・・・泣いてくれてるの?」心配になっちゃうくらい、優しくていい子に育ってくれたね。ありがとう。と、いつになくへたくそに笑いながらジュンの涙を攫う日和の手の温度に驚く。———冷たい。いつもおひさまみたいにぽかぽか温かい日和の手が冷たくなっている。
    「・・・おひいさん、手。」
    「ん?あれ?ごめんね、冷たかった?」
    ジュンに言われて初めてそのつめたさに気づいた日和がサッと引っ込めようとした手を両手で捕まえて握りしめる。言葉は未だ見つからないけれど、何も言わないままではいられなかった。
    「・・・おひいさん。おひいさんが強いこと、分かってます。オレのちからなんてなくても本当はなんだってできることも。でも、それでも、オレはおひいさんのことを守りたいです。おひいさんの心の弱い部分はオレが守ります。だからえっと、その、」
    言いながら日和の冷えた手をぎゅっと握るジュンの両手の力は少し痛いくらいだが温かくて心地良い。
    「ありがとう、ジュンくん。ほんとはね、ぼく、退廃してしまったこの村を見るのが少し怖かったね。ぼくの記憶には鮮明にこの村の人たちのことが残ってるのに、ここにはもう何もない。何もなくしてしまったことのきっかけはこのぼく。「っ、それは、」ううん、そこにどんな誤解があろうと理由がぼくであることに変わりはないね。だからぼくはこの村に向き合わなきゃいけない。———でも。ジュンくんがいてくれれば大丈夫。ひとりじゃない。だから、」
    このまま手を繋いで歩いてくれると嬉しいね。という日和の言葉に、おひいさんのせいじゃないって続けることがとんでもなく野暮に思えて、代わりに日和の右手をぎゅっと握る。その笑みは相変わらず下手くそだったけど、少し安心した表情にも見えたから。

    村は一通り歩き回ったので、今度は比較的朽ちていない家屋の中を探索することにした。うさぎを探していたはずが、囲炉裏に機織り機と、見たことのないものが沢山存在する家の中はジュンにとってまるで異世界で、日和はそのひとつひとつを紹介し、なんとか使えそうなものは動かして見せた。その度に輝くジュンの瞳はとても綺麗で、日和の気分も上を向く。家屋にお邪魔するのも数件目となり、そこまで目新しいものも見えなくなった頃、ジュンがふいに立ち止まり、日和の手を引いた。
    「おひいさん、今の・・・聞こえました?」
    「ん?何かあった?」
    「寂しいってしくしく泣いてる声が、ほら、こっち・・・?」
    声が聞こえるというジュンに手を引かれながら耳を澄まして歩くが、日和にはまだその声は聞こえてこない。狐の耳をもつ日和がジュンより聴力が劣るとは考え難い。まして妖の声となると、ジュンに聞こえて日和に聞こえないことがあるとは思えなかったのだが、ジュンが嘘や冗談を言っている様子ではないので大人しくついて行くことにした。
    ジュンはその声が例のうさぎだと確信した様子で「どこにいるんですか?」「あなたを出してあげたいんで姿を見せてください」と人気のない空間に声をかけ続けるが、やはりどこからも反応はなく、そうしているうちにうさぎの声は聞こえなくなってしまったらしい。

    「確かに聞こえてたんですけどねぇ」
    う〜むと唸りながら考え込むジュンは熱中してしまっていて、いつの間にかかなりの時間が過ぎ辺りが闇に侵食されてきていることに気づいていない様子で。「あっちの方も見てみましょう」と明かりもなく、かなり見えづらくなったはずの部屋を進もうとするジュンの手を今度は日和が引いてジュンをとめる。
    「ジュンくん、日が落ちてしまったから今日は帰ろうね。また明日、探してみようね。」

    辺りをきょろきょろと見回し、まだ探したりないとでも言いたげなジュンの手をそのまま引き凪砂の社までの帰路に着く。だが、日和も気になっていることがないわけではなかったので、繋いだ手はそのままに意識を思考へ飛ばす。———同じ妖である日和には聞こえず、ジュンの耳にだけ届く声。またジュンの巻き込まれ体質が発動してなきゃいいけれどと思わずにはいられない。いくら妖の多い土地に住んでいるからといって、日和の加護の効いたあの山で少し歩いただけでほいほい妖に出会うはずがないのに、ジュンは日和が少し目を離すと妖に追われているような体質なのだ。どうしてそんな事になっているのか、そもそも体質と言ってしまっていいものなのかも日和には分からない。分からないから警戒するしかない。非力なうさぎといえど、人の子であるジュンは更に非力だ。・・・気は向かないけれど、これはあの毒蛇にもう少し詳しく聞く必要がありそうだね。
    ぐい、と大きく引かれる手に強制的に意識がジュンに向く。日和がバランスを崩しかけて不覚にも「わ、」と短く発声してしまったことに気づきもしないジュンが嬉しそうに社を指さす。
    「おひいさん!いい匂いがしてきましたよぉ〜!これは魚ですかね?あ〜、なんか腹が減ってきちまいました。早く帰りましょう!」
    日和の懸念や驚きを他所に能天気に笑うジュンに無性に腹が立ったので、その頬を繋いでいない方の手でびよんと伸ばしてやった。

    今のはぼく、悪くないからねっ。
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    パイプ

    PROGRESSお久しぶりです。
    久しぶりすぎてこの世界観に帰ってこれてないかもしれない...
    今回、一旦最終章となります。
    生きる時間の違う九尾と人の子は果たして同じ時間を同じ気持ちで生きていくことはできるのでしょうか?
    九尾の日和と人の子ジュン「燐音先輩。」
    「きゃはは!どうしたァ?ジュンジュンちゃんよお。そんなマジな顔しちまって。遂に俺っちにホレちまった?」
    「人の子って大人になっても変化していくもんですよね?」
    「は?」

    日和が会合とやらで出掛けていると風たちが噂しているのを聞き付けた燐音がジュンで遊んでやろうとこの家に遊びに来たのが凡そ一時間前。ところが今日のジュンはどこか浮かない顔をしていて、いつもならやれやれと言う顔をしながらも燐音の悪戯や遊びに付き合うジュンだが今日はそれさえもなく、やっと口を開いたかと思いきや先の一言だ。

    「ナニそんな当たり前のこと聞いてンだ?成長して老化して死んでいくっしょ?ニンゲンなんてモンはよォ?」
    その当たり前さえコイツは知らないままここに来たんだっけかと燐音が思い直しているとジュンは「そっすよね」と知っていたような口ぶりで返して視線を完全に窓の外へとやってしまった。
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