なまえ「桐生さんって実際俺の事どう思ってます?」
突然隣で酒を呑んでいる秋山に言われてぽかん、とした表情をする。暫く悩んだ後口を開いた。
「良いやつ、だな」
「良いやつですか…。まぁ、悪く見られてないなら良かったかなぁ」
項垂れるように秋山はテーブルに突っ伏した。秋山の望んでいた回答では無いようで困ったような悲しそうな顔をしている。だが何故こんな質問をしたのか気になった桐生は秋山に問うた。
「だって年下の人たちは皆名前で呼んでるじゃないですか〜…。俺は年下に見られてないのかなって」
思い返せば東城会の6代目である大吾やかつて闘った龍司も年下で桐生自身も名前で呼んでいる。だがそこの何が不満なのだろうか。ますます秋山の心の内が分からず眉間に皺を寄せる。
「谷村は年下だが名字で呼んでるだろ」
「ま、そうなんですけどぉ…。そうじゃないっていうか…」
ごにょごにょとはっきりしない秋山に桐生は内心もどかしさを募らせていた。始めの質問をした秋山の表情がやけに真剣味を帯びていた為深刻な相談かと思えば違ったようだ。
「はっきりしねぇなら帰るぞ」
酒を飲み干し椅子から立ち上がろうとすると腕が掴まれた。絶対に帰さないという秋山の視線が突き刺さる。
「桐生さんに名前を呼んでほしいんです!!!!」
秋山の叫びの後暫く沈黙が続いていたが我に帰ったのかハッ、と口元を抑えるも時既に遅しであった。
はぁ、とため息を付くと椅子に座りひと呼吸置いてから口を開いた。
「………駿」
どきり、と秋山の鼓動が跳ねた。心地よい低音が放つ己の名。名字ではなく名を呼ばれたというのに秋山の心臓は面白いほど跳ねていた。
「駿、……駿、か…良い名前だな」
「う、もう…勘弁して…」
確かめるように何度も連呼される名前に、体温が沸騰したかのように駆け巡り顔に熱が登るのが分かる。
「何だ、今更酔ったのか?顔赤いぞ」
そう言う桐生の口元は微笑んでおり秋山をからかっているようである。
その余裕ぶりが憎らしく、愛らしい。反抗するつもりで油断している桐生のジャケットを引き寄せてからかいの言葉を言えなくさせるように無防備な唇へ口付けた。