ざあざあと耳を劈くほどの大ぶりの雨を眺めながらはぁ、とため息を付く。隣には腕を組んで不満そうな真島が居た。
雨が振る数分前、劇場前広場を歩いていた桐生は脳内にサイレンの音が聞こえるとすぐ、背後に気配を感じた。ぴったりと真島がくっついてヒヒッ、と不気味な笑みを浮かべている。
「アンタもしつけぇな…!」
今日で何度エンカウントしただろうか。手持ちの回復薬を確認しながら拳を構える。
真島との喧嘩は時間が掛かるが、得られるものも多い。何よりやはり桐生自身口では面倒くさそうにしながらも、内心喧嘩を楽しんでいる所もある。
だが、喧嘩が白熱した所に邪魔が入った。ざあぁと雨が突然勢い良く降り出したのだ。喧嘩で熱くなった体温はみるみる内に奪われていき、真島も白けたとばかりに構えを解いた。
「何やねん」
近くのクラブセガで雨宿りをすると不満そうに真島が呟いた。今日は雨の予報では無かったはずだが、天気予報もたまには外すこともある。
「っ、くしゅ」
ぼんやりと恨めしそうに立て続けに振る雨を眺めていると隣の桐生がふるりと震えていた。
グレーのスーツは水分を含んでぐっしょりと濡れている。
「何や、意外とかわええくしゃみするんやな」
「可愛いって何⸺くしゅ、ッ」
「ヒヒッ、桐生ちゃんと居ると退屈せんでええわ」
笑うと照れ隠しなのか肘で小突いてきた。気が付くと勢いが良かった雨は霧雨に変わっていた。
「寒いんならどっかで暖かいモンでも飲んでいくか?」
「…アンタの奢りか?」
「イケズな事言わんといてな」
肩に腕を回し、クラブセガを出ると喫茶アルプスを目指して歩いた。
ミレニアムタワーの手前に差し掛かった時空を見上げた桐生があ、と声を出した。
「虹だ」
「おぉ、ホンマや。久しぶりに見たのぉ」
虹がミレニアムタワーから顔を出して空に浮かんでいた。くっきりと浮かんでおり周りの住人たちも携帯を取り出し写真を撮っている。
「何や虹の根本に宝が埋まっとるらしいの」
「あぁ…」
幼い頃錦山がキラキラとした目で言っていた事を思い出す。虹の根本に向かおうとしたが途中で虹が消えてしまい、2人とも落ち込んだのはある意味思い出だ。
「行こうや!桐生ちゃん!」
「えっ、今か?」
「はよせんと消えてまうやろ!」
がしっと手首を掴んで引っ張られると慌てて真島の後を追った。
「(ホンマ、お前と居ると退屈せんでええわ)」
数分ぶりに顔を出した太陽がジリジリと2人を見守るかのように照りつけていた。