許す、許される「それでね、その時、エリちゃんが」
厳しい任務の合間、束の間の休息時間。マイルームのベッドに肩を並べて座りながら他愛のないおしゃべりをしている。
…主に私が。隣に座っているロビンは時折相槌を打ったり頷いたりしている。
今の私たちはまがりなりにも彼氏彼女、恋人同士なわけなんだけど、二人きりが嬉しくてついついしゃべり続ける私に対して、ロビンはたたただ穏やかに聞き役に徹していた。
付き合う前はそれなりにロビンからもしゃべりかけてくれていたし、今だって他の人がいる時は普通に話す。私と二人の時だけ、ロビンは極端に口数が少なくなるのだ。
「ねえ、ロビン」
聞いてくれるのももちろん嬉しいけど、もう少しロビンからもしゃべって欲しいんたけどな。そんな気持ちを込めながら私が改めて名前を呼ぶと緑色の瞳がこちらを覗き込む。まるで『なんですか?』と尋ねるみたいに。
「…なんでもない」
ロビンは不思議そうに首を少しだけ傾げる。今度は『本当に?』と言っているみたいだ。なんだか視線の動き、ちょっとした仕草や表情の変化だけでロビンが何を言いたいかわかるようになってきたかも。
ちょっと面白くなって頬を緩めるとじっとりとした視線が飛んでくる。
『なんなんです?』って思ってるのかな。多分、当たっているだろう。
そして、気づいた。突然、腑に落ちるように。
付き合う前のロビンなら絶対にこんなにわかりやすいところを見せてくれなかった。もっと笑顔で完璧に線を引いて、よく話しはするけれど本音もうまく隠していたに違いない。
「さっきの話の続きなんだけど、エリちゃんが歌おうとして、ネロも張り合ってきてね」
話を戻した私にロビンは何度か瞬きを繰り返して、また同じように話に耳を傾けてくれる。
そう、気づいた。突然、腑に落ちるように。
これが、ロビンが気を許してるってことなんだね。
***
「なーんて、マスターは言ってたけど僕は言わなきゃ伝わらないこともたくさんあると思うけどね」
モリアーティが不定期に開くバーでグラスを傾けながらビリー・ザ・キッドがロビンフッドに苦言を呈する。
「そうよ、あの子の好意に甘えてんじゃないわよ」
尻馬に乗ったジャンヌ・オルタがカウンターの下でロビンフッドの足を蹴りつける。
ロビンフッドは眉をひそめながら二人の言い分を聞いていた。立香に甘えているのは十分承知している。けれど、許されるならこのままでいたい。
ロビンフッドにとって『話す』ことは渡世術のひとつで身を守る為のものでもある。だから無理に『話す』必要もなくマスターの話を『聞いて』いられるのは掛け値なしに幸せなことなのだ。
「君たち、君たち。ここは大人の店だよ、お行儀よく呑みなさいネ」
空いたグラスを片付けながら、ため息混じりモリアーティが注意を促したが、酒の勢いも相待ってこれからどんどんと騒がしくなるのだった。