赤い丸が消えるとき《今、何をしていますか》
《どこにいますか》
《誰といるんですか》
そんなどこかの歌詞みたいなメッセージが、毎日のように寄越される。
《メシ食ってた》
《家》
《誰もいねーよ》
俺もそのたびに似たような短文を返し、アイツは一通り満足したのか既読無視。そして、さて寝ようかと思った頃に電話がかかってくる。どんなに忙しくても、顔を合わせない日が続いても、君島は俺の動向を把握しないと気が済まないらしく連絡を欠かさない。
けれど、それが突然ぷつりと途切れることがある。演技の仕事のときだけは、役に入るためにアイツは一切のやり取りを絶つ。メッセージだって未読のままだ。
本当に、勝手なヤツ。
《今日は鯖の塩焼きときんぴら》
《ホワイトシチューとマカロニサラダ》
《担々麺 色が良いだろ?》
未読のメッセージが、毎日少しずつ増えていく。いっそのこと飯テロ連投してやろうと、俺は献立と写真を読まれもしないトーク画面に投げていった。それはアイツが前に美味しかったと言っていたメニューばかり。別に腹いせのつもりなんかじゃない、ただの暇つぶしだ。料理は趣味でも得意なわけでもないが、いつの間にか自炊の割合が上がっていったのも、多分君島のせい。撮影が終わってスマホを開いたとき、あの男はどんな顔をするんだろうと想像するのが、意外と楽しかったりする。
今日でとうとうクランクアップ。夜には帰ってくると言っていたから、アイツの好きなパエリアでも用意してやるか。そう思ってトーク画面を開いた瞬間、メッセージが一気に既読になった。リアルタイムで送っているときは、数秒もかからず返信が来る。だが、この一分程度の時間で俺のくだらない一言や写真を逐一追っているのだろうと考えると、どうしても笑いが込み上げてきてしまう。そろそろか、というところで、けたたましい着信音がリビングに鳴り響いた。
「……よお、いい加減お前が寂しくて泣いてんじゃねえかと思ってたぜ、君島ぁ」
End.