監督生出生リリア・ヴァンルージュ視点七百年近く生きて、その噂は何度も耳にしたことがある。
「神霊の禁術」
そもそもそれに挑戦するものは殆ど見たことがない。
かつての元老院の奴等はそれが書かれた魔導書を厳重に保管したというが、何者かがツイステッドワンダーランド中に写しをばらまいたらしくなかなか見つからない。
ここで危惧されるのが、非魔法士が禁術のやりかたを知ってしまうことだ。
殊に身の回りに優秀な魔法士がいた場合は。
往々にして、多くの生物は嫉妬をする。
すべてというわけではないが、兄弟や幼馴染で見られることが多いように感じる。
セべクとシルバーも……いや、やめておこう。
嫉妬は過ぎると恐ろしく変貌する。
権力者ならば国をひとつ滅ぼしたり、殺人を隠蔽したりできる。
そこまででなくても、対象の株を下げたりするくらいならば子供でもできるのだ。
今までは嫉妬の心が他者へ向かうことを考えたが、おそらく監督生は違う。
嫉妬心が羨望へと変わり、それを叶えるためにあんな行為をしたのだろう。
そうでなければ、まだほとんど解明されていない禁術など試すわけがない。
監督生はどこでそれを知っていたか。
例の禁術が書かれた魔導書の写しは、「やはり」ナイトレイブンカレッジにあった。
知っていたのだ。
賢者の島のどこかにそれがあることは、500年前にはもうわかっていた。
それを処分することも、この学校に来た理由のひとつであったから。
禁術が成功したと聞いたその夜、わしはオンボロ寮に赴いた。
結界どころか鍵すらついていないそこに少々驚いたが、中に比べればまだましだった。
蜘蛛かなんだかが足にひっついて気持ちが悪い。
二階の監督生の部屋のドアを開ける。
空気が、明らかに変わった。淀んでいる。汚いきたないキタナイ
息を止めて我慢する。
そうしてボロボロのベッドに近づき、監督生の黒髪の部分に触れる。
「全ては過ぎ去る日のように。どこへ向かうか瞬きの間よ 『遠くの揺りかごまで』」
記憶が頭の中になだれこんでくる。
気持ちの悪い、陰湿な記憶。
ああ、お主は、
なぜこれを秘密にする?
魔導書の写しは『冥府の番人』に預けた。
監督生自身も、生活に支障が出ない範囲の代償らしい。
現状は。
なぜわしは、いつも一足遅いのだろう。
わしのせいで、
マレノアも、
レヴァーンも、
バウルも、
マレウスも、
監督生も。
すべては、もう手遅れだ。