朝早くに起きた監暖かい夢を見た。
どこか懐かしい雰囲気のなか、えもいわれぬ浮遊感に身を任せる。
ゆっくり、ゆっくりと落ちていく。
洗剤の香りがわずかに残るシーツから身体を起こす。
わずかに開いたカーテンから、朝日が覗いていた。
悪夢を見なかったのは久しぶりである。
ふわふわする感覚のまま、オンボロなベッドを降りた。
傍でグリムが眠っているのを確認し、監督生——ユウは着替え始める。
デュースのお下がりの黒いカーゴパンツを履き、入学当初に支給された襟付きのシャツの上からワンサイズ上のピンク色のTシャツを纏う。顔を洗ってメッシュの入った髪を梳いたら、仕上げにリップクリームと匂い攪乱の香水をひと吹き。
鏡に向かってお決まりのアイシャドウを塗ると、いつもと違う自分が微笑んでいた。
階段を下り、談話室へと向かう。
ゴーストたちすら自室にいるような早朝なので電気もついていなければ話し声もしない。
晩秋のひんやりとした空気が胸を貫くのみである。
キッチンの棚から陶器のティーポットを取り出し、独特な香りの茶葉を入れる。
かつてここが寮であったときに誰かが使っていたのだろう、蓋がすこし欠けていたり茶渋が付いていたりしているそれはユウの宝物であった。白く輝く肌に描かれた黒い薔薇の絵、茨のような装飾のついた持ち手。
貰い物の茶葉を入れると、ふわりと薔薇の香りがした。
紅茶を蒸らしている間に、部屋から持ってきたノートを開く。談話室の机にあるペンをとって、曲線を描く。
レースにフリル、広がるスカート。傍に説明を書いたあと、紅茶をカップに注いだ。
キッチンから角砂糖とチーズのベーグルを持ってきて、ノートを閉じる。
代わりにスマートフォンを取り出し、動画を再生した。
あ、と小さな声をあげたあと先程のノートを破り、なにかを書きつける。
画面の向こうでは推しが、ヴィル・シェーンハイトが妖しく笑っていた。
イヤホンを接続し、ごろりとうつ伏せになる。
ダイヤ先輩の誕生日のメッセージ、どうしようかな。
誕生日プレゼントに香辛料なんて、ちょっとおかしいかも。
他愛のないことを考えながら、ゆっくりと目を瞑った。
今日は日曜日。
まだ誰も目覚めていない、特別な日曜日。