佐藤 綾人の話。何においても中の中、ちょっと出来ても中の上。
なんの取り柄もない俺だけど、ずっと願ってた。
些細なものでよかった、でもそれでも叶わなかった。
だから、全部諦めてしまった。
昔の俺は今からは想像できないくらい、活発な子供だった。ガキ大将なんて呼ばれることもあったっけ。弱いものいじめが許せなくて、そういう奴がいたら戦ったりもしていた。そんな俺にいつも付き添ってくれていたのが、幼なじみのルカとりっちゃんだった。
「あんな奴らほっとけばいいのに。」
ルカはよく面倒くさそうに言っていたが、何だかんだいつも俺に着いてきてくれていた。
「綾人といると飽きなくていーよな!」
りっちゃんは笑いながら率先していじめっ子を成敗していた。まああれは正義感というより、暴力的だったというだろう。
「あーゆーやつ見るの、やなんだよ。」
周りの人達がみんな平和に暮らしていけたらいいと思っていたから、厄介事にもよく首を突っ込んだ。やれやれって言いながらも2人は俺についてきてくれていたし、他にも慕ってくれる友人もそれなりにいて、皆と上手くやれていたと思う。
これが俺の黄金時代だ。
それが崩れるきっかけとなったのは、りっちゃんが事故で死んでしまったことだった。
いつも遊んでいた俺達の秘密基地近くの崖から足を滑らせたらしいりっちゃんは、全身を強打して即死だったらしい。それを見つけたのは、ルカだった。
「なんで、なんでりっちゃんが……っ!」
「不幸な事故だった、仕方ないって、律のお母さん泣いてたな。」
そう泣く俺の肩を抱き締めるルカの肩も震えていた。
いつもそばにいた存在の喪失は幼い俺には堪えた。大切にしているものほど、なくした際に悲しい。この経験から、少し他人と関わることが怖くなった。
だがそうも言ってられないことが起きる。
「海外に、転校……?」
「うん…パパが、海外にいたらしい。」
ルカが親の都合で海外に転校することになってしまったのだ。りっちゃんが死んじゃってからすぐの事だった。
「ルカまでいなくなっちゃうのか…」
「傍にはいられないけど、帰ってきた時には絶対会いに行くから。手紙も書くし電話もする。アヤには俺がいる。」
ギュッと手を握りしめ、いつになく真剣な顔でそう言ったルカはその言葉通り、ずっと俺と交流を続けてくれた。それを心の支えにしつつ、一度に傍からいなくなってしまった友人の代わりを探すように、色んな人と交流した。
それからしばらく時は経ち。
過去の功績や新たな縁で、そこそこに仲がいいやつが出来ながら学生時代を過ごした。
そしてその日々の中で俺は痛感する。
俺達ダチだよなと言いながらも俺は呼ばれない誕生会。
お前といるのが一番楽だと言いながらドタキャンされる約束。
いつもは呼ばれないのに、人数足りないから助けてくれと言われるサッカー。
遊びに行こうぜと集まった先でいつの間にかやらされているまとめ役。
紹介した友人と友人が仲良くなり、俺はいつの間にか輪から外されている。
どいつもこいつも口では友達だと言いながら。
まるでそう言っておけば許されるかのように。
でもその言動を追及することなく、時には笑ってやり過ごす。1人になるのはもう嫌だったから、全てを享受していく。昔だったら怒り出してただろうな、と数年ですっかり大人しくなったもんだと自嘲する。
誰かのために何かをする事は、本当にいい事なのだろうか?
友人なのだからそいつの力になりたかったから、無理なお願いじゃなければ大体のことは聞いてきた。だが、その結果がこの立場なのだとしたら。
些細なものでよかった、何かで誰かに認めてもらいたかった。特別だと言って欲しかった。
でも、もう疲れてしまった。他人に期待するのも、自分に期待するのも。
「……もういいか。」
ポツリと呟いた言葉が全てだった。
全てを諦めてしまおう。何にも無関心でいればこんなぐちゃぐちゃな気持ちになることもない。期待するから傷付くし落ち込む。
だから、全部捨ててしまった。
「もしもし?どうかしたか?」
『特に何も〜?アヤ、元気?』
「うーん、まあぼちぼち。」
あれから更に時は経ち、大学生になった。ルカだけはあの頃から変わらない。いや、少し昔より明るくなったかもしれない。
『ぼちぼちか〜じゃあ大学はどう?』
「特に変わったことはないな、いつも通りだ。」
『まあ、何事もないのが1番だよね。』
「……そうだな。」
それなりが1番なのだ、何事も。
もう周りにも、自分にも期待はしない。
適当にやり過ごして、適当に生きていけばいい。
『俺にとってはアヤに何も無いのが、一番いい事だよ。』
「そーかよ。」
そう笑うルカに俺も笑うのだった。