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    零凪/小説/たまにイラスト

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    星を見に行く零くんと凪砂くんのお話。

    同じ内容の小説をpixivに上げております→ https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21623523

    #零凪
    reinagi

    Heartbeat of the stars 最初の一言はほんの気まぐれだった。星について語る凪砂の横顔があまりにもキラキラしていて、この空高く光る惑星に想いを馳せる彼の願いを叶えてあげたいと思った。
    「じゃあ、一緒に星を見に行くかや?」
     そう言うとぽやっと見上げる彼の表情が見たことないくらい驚いていて、こんな顔も出来るんだと心の中で思った。



     時は一時間前に遡る。つむぎにオススメされた『星占いから見る経営術』というお世辞にも面白くも役にも立たない胡散臭い本を返しにブックルームに立ち寄った時だった。
     時刻にして十九時を過ぎた頃。あと三十分ほどで閉館するブックルームは既にスタッフの姿も来場者もおらず、しんと静まり返っていた。
    「青葉くんのやつめ……」
     誰もいないと思い舌打ちをすると乱暴に返却口へ本を放り込んだ。
     昔から彼は西洋術やら魔術やらの類にお熱だ。だからこそ夏目に惹かれているのは重々承知だが、星占いで経営が上手くいくなんてどう考えても馬鹿げている。
     知識を取り入れることは得意なのだが、もう以前ほど本を読まなくなったと伝えても相変わらずつむぎは自分に読書を勧めてくる。彼のそういう純な心は好きだ。しかし、人の察してほしいという気持ちがイマイチ伝わらない所にいつも頭を悩ませていた。
    深くため息をつきブックルームを出ようと扉へ向かおうとすると、突然肩を叩かれた。
    「……本は大事にしよう朔間くん」
    「どぅわあ!!」
     誰もいないと思い込んでいたはずの空間に突如人が出てきて、大袈裟だがブックルームで大声で叫び驚いてしまった。振り返ると、そこには自分と背丈の変わらないEdenのリーダー、乱凪砂が立っていた。
    「ら、乱くんかえ! 青葉くんかと思って寿命が十年縮むところじゃった。いたのなら我輩が入ってきた時点で声をかけて欲しかったわい」
    「……声をかけようかと思ったけど、舌打ちしていたしいつもより行動も荒々しかったから様子を見ていたんだよ。ふふ……私が夢ノ咲学院にいた頃の君みたいで懐かしかったよ」
    「うっ……さっきの事は忘れておくれ」
     ほとほと彼の洞察力や観察力には参ってしまう。
     乱凪砂という人物は不思議な男だった。彼がかつて旧fineに所属し、夢ノ咲学院に在学していた頃はほとんど会話という会話をしたことはなかった。元生徒会長という権限でちらりと身の上を調べた事もあったが、幼い頃幽閉されていたという時代錯誤な過去が明るみになるだけで何処で何をしていたのやら、全く情報が出てこなかった。産まれたての雛のようにずっと巴日和の後ろに隠れ、言葉すらたどたどしかった凪砂。その彼と数年後、お互いの所属ユニットのリーダーとして交流が深まるとは思いもしなかった。
     あの頃より喋り方や動作、振る舞いは完全に年相応の落ち着きを見せている。元々同級生より一つ歳上の自分と凪砂のこの穏やかな空気感はどことなく似ていて、零は一緒にいると安心した。
    「……この本は、星占いの本かな」
     乱暴に放り込んだおかげで返却口の入口で引っかかっていた本を凪砂が取り出す。彼はアーカイブスに所属し、本好き故にここの管理も任されているらしい。そんな人の前で本を雑に扱うなんて今更ながら申し訳なくなって「すまんのう」と頭を下げた。
    「……別にいいよ。それより朔間くんが星占いに興味があるなんてびっくりした」
    「青葉くんからオススメされただけで我輩は占いなんぞ信じておらん。そりゃあ昔はちょっと天文学を齧っていたがそういう空想的な話は逆先くんの方が詳しいぞい」
    「……天文学?」
     普段から感情の起伏が少ない凪砂が前のめりになってその単語に食い付いてきた。
    「あ、ああ。海外の宇宙飛行士と知り合いじゃから一時期それなりに勉強してた時もある……って、乱くんなんじゃ! 近い! なんか距離近いのじゃ!」
     じりじりと詰め寄ってくる凪砂に思わず零は後退りした。表情さえ変わらないが珍しく興奮しているようで、その目は爛々と輝いている。返却口から取り出した星占いの本を何故かパラパラとめくり始めた。
    「……朔間くんは十一月二日生まれだったよね」
    「そうじゃが……おぬし、まさか知ってる人の誕生日全て覚えておるのかや?」
    「……全てではないけどね。少なくとも親しい間柄の友人はみんな覚えてるよ」
     親しい間柄の友達に自分が入っている凪砂はさそり座のページを開くと零の方へそれを向け、楽しそうに語り始めた。
    「……私は十月生まれなんだけど、朔間くんと私、実は二人ともさそり座なんだ。星座占いにおけるさそり座は粘り強くて共感力に長けているみたい。その由来とも言えるギリシャ神話では、オリオンがサソリを恐れるようになったと言われ……──」
    「(いつになくよく喋るのう……)」
     正直言うと、凪砂のこのような表情を初めて見た気がする。同じEdenの巴日和曰く、本来の凪砂は興味のある事に対しよく喋りよく笑い子供のような無邪気さを見せるらしい。勿論普段の凪砂を知っていればそのような彼は想像出来なかったのだが、今まさに好きな物を語るキラキラとした凪砂に何とも言えぬ気持ちになった。
     彼に語られなくともさそり座の由来は知っている。何をしても奇人のように知識を吸収してしまう零が知らないはずがなかった。しかし楽しそうにしている凪砂の話を折るなどしたくなく、ただ黙ってそれに相槌を内にくすりと笑みが零れた。
     だから気付けば口に出していた。
    「じゃあ、一緒に星を見に行くかや?」
     どうしてだろう。ぽやっと見上げる凪砂に対し、愛し子たちを思う気持ちとはまた違う感情を抱いてしまった。



     薫には少し凪砂を借りると手短に伝えて寮を出ると冷たい夜風が頬を掠めた。こういう時、凪砂の部屋に同じユニットの相棒がいて良かったと思った。特に深堀もせず「あんまり遅くならないようにね」と送り出してくれて有難い。これが彼の相棒、七種茨が同室であればひとたまりもないだろう。鬼のような形相で「閣下をこんな夜更けに何処へ連れて行く気ですか!!」と誘拐犯の如く怒られてしまいそうだ。
     いつもの正門ではなく、裏口に通じる小道から外へ出た。こちらへ出たら予め借りておいたレンタカーへ乗るため駐車パーキングに向かった。
    「……朔間くん。車の運転免許持ってるんだ」
    「ESにいたら交通機関も充実しておるし自家用車を持つ必要はないけどのう。昔は海外へも行っておったから何かの役に立つかと思ってある程度の免許は持っておる」
    「……流石だね」
     何の免許を取っているのか根掘り葉掘り聞かれたが、零の持っているものは大型二輪だったり船舶免許だったりどれも乗り物がないと意味のない免許だった。凪砂の実力や学力であれば免許は難なく取れたとしても勝手に乗り物を購入する訳にもいかず分かりやすく項垂れた。
    「そうならずともバイクであれば我輩のを貸すことが出来るぞい。寮に移ってからしばらく乗っておらぬがメンテナンスはちゃんとしておる。乱くんが免許を取ったらいつでも言っておいで」
    「……へえ、バイクは乗ってみたいかも」
     相変わらず興味の対象が海のように広い男だ。彼の挑戦してみたい、という言葉は必ず叶うためにあるようなもの。明日にでも七種茨に自動車学校へ行きたい懇願する姿を想像するとおかしくて吹き出してしまった。
    「……朔間くんはなんで笑ってるの」
    「くくく、なんでもない。それよりこの車じゃ。レンタカーじゃから乗り心地は悪いかもしれんが我慢しておくれ」
    「……ありがとう。大丈夫だよ」
     特になんのこだわりもなかったため黒いボディの普通乗用車を選んだ。男性の中では大柄の部類に入る零と凪砂が乗るには軽自動車だと手狭だったからだ。二人で車に乗り込むと零は手馴れた様子でエンジンをかけ、パーキングエリアから車を出庫した。
    「……静かだね」
    「最近の車はエンジン音も気にならんし燃費も良いし変わってきておる。せっかくの旅路じゃ。音楽でよければ接続するぞい」
     予め繋げておいたBluetoothでスマホを操作すると、移動の際たまに聞いている洋楽がスピーカーから流れ始めた。無論、UNDEADの曲や同じESのアイドルソングを聞くこともあるのだが頭を空っぽにしたい時や歌の収録が無い時はたまにこうして海外の曲を聞くことがある。男性ミュージシャンが奏でる歌は切なく悲しいラブソングだった。
    「(……なんだか無駄に緊張するのう)」
     ニューヨークへESメンバーと飛び立った際は二人きりで喫茶店に入ったり映画を見たりすることもあったが、後輩もいたし完全に二人の空間というわけではなかった。どちらかといえば引率にきた同僚の教師という気分だったのだが、今は何とも言い難い気分が零の心を渦巻いた。
     凪砂は薫のように甘えられる存在でも、お世話を焼いてもらう立場でもない。どちらかと言えば世間の事に不慣れでどこか危なげな凪砂を見守ってあげたいという気持ちが強かった。だから星に興味があるという凪砂の願いをせめて叶えてあげたかったのだが、文字通り彼といると調子が狂ってしまう。いっその事、凛月を甘やかすようなスキンシップを取るくらい振り切れば楽なのだがそういう仲でもなく、零は珍しく会話に困っていた。
    「(ま、無理して話すような相手でもないし、このまま行くか)」
     当の本人は流れるBGMと共に鼻歌を歌い、ES内の夜景を楽しんでいる。こういう空気も悪くない。やはり一際騒がしい同世代たちと比べると凪砂の空気感は心地良く零も黙ってラブソングを聞きながら車を走らせた。



     郊外を抜け車が山道に入ると道幅は一気に狭くなり道路の舗装が悪くなった。地面の溝にタイヤがハマり車内が大きく揺れ出す。辺りも街灯は一切無くなり車だけのライトだけを頼りに前進して行った。
     「大丈夫かや?」と凪砂に聞くと意外な事に普段から石や地層の発掘でこういう山道を訪れるらしく、至って平気そうに大丈夫だと頷いた。黙っていれば地上に舞い降りた神のような風貌なのに、とても作業着を着て土だらけになっている凪砂を想像出来ずまたも笑いが込み上げた。
    「……朔間くんは私の話にすぐ笑うね。私、何か変な事を言ったかな」
    「くくく。乱くんが面白くてのう。我輩の周りに発掘を趣味にしている人はいないからなかなかに愉快じゃ」
    「……朔間くんも今度してみる? 大学の研究チームのみんなと一緒に調査をしてるんだけど、みんな優しくて色々助かってるよ。二週間に一回は山へ入ってるんだ」
    「おぬし、そのペースで発掘へ行って七種くんに怒られるぬか?」
    「……大丈夫。ちゃんとスケジュール管理は茨に任せてるよ。たまにこっそり行く時もあるけどね。その時の茨はまあ……鬼のように怒ってる」
    「ぶはっ」
     柄にもなく大きな笑い声が飛び出し零は口を押さえた。今まで想像していた凪砂は神ではなく、紛れもない人間だ。冗談を交えたり笑いを誘うような言動をするあたり、夢ノ咲にいた時のような彼は微塵も感じられない。零はなんだか嬉しくて隣にいる凪砂の手を思わず握った。
    「……朔間くん。道路も悪いし私と手を繋いでしまったら片手で運転するのはちょっと難しいと思うよ」
    「そういう問題じゃなく……まあよい。しばらくこのままでいさせておくれ。もうすぐ山頂じゃ。一気に景色が変わるぞい」
     山道を登り切り、しばらくするといきなり綺麗な舗装道路になる。木々たちが開けたそこには車内からでも分かるほどの夜景が広がっていた。
    「……わあ」
    「今夜は快晴で良かったのう。ほれ。そこが展望デッキになっておる。駐車するぞい」
     比較的綺麗に整備された展望デッキは木製作り。山頂から突き出すように設計されており、小さなベンチやテーブルもあったり観光スポットとなっていた。幸い駐車場には他の車は停まっておらず、歩いて来ることも出来ないこの場所は自分たちだけの貸切である事を示していた。
     エンジンを停めると慌てて飛び出て行こうとする凪砂がえらく可愛らしい。「乱くん!」と引き止めると零が車の後ろから荷物を取り出した。
    「ここは地上より少しばかり気温が低い。これを付けてなさい」
     手持ちのマフラーを巻いてやると嬉しそうにお礼を言われた。薄着で出掛けてはよく茨に注意され、無理やりマフラーを巻かれているらしい。その点朔間くんは優しく巻いてくれるから有難い、と笑うものだから普段から茨の苦労が目に見えて分かった。
    「……すごいね」
     凪砂が感嘆のため息を漏らした。
     展望デッキへ降り立つとそこには永遠とも呼べる広大で莫大な星空が瞬いていた。まるで世界の何もかもがそこにあるようで、神秘的だった。冬の夜空がこんなにも綺麗だとは。二人して言葉は無くとも息を飲んでると分かるくらいの沈黙が続いたが、くるりと凪砂が振り返った。
    「……朔間くんはよくここへ来るの?」
    「いや、昔一度立ち寄っただけで二回目じゃ。その時は昼間じゃったしここで星がこんな綺麗に見えるのも初めて知ったぞい」
    「……見えるか見えないか分からなかったのに誘ってくれたんだね」
    「そうニヤニヤしながら見るでない」
     見えるか見えないか分からないのに、よく思い立って凪砂をここに連れてきたと思う。嬉しそうにしている凪砂のこの顔を見たかった。ただ、それだけだ。一歩近付いて、寒空に晒されている頬をするりと撫でた。気持ちよさそうに凪砂が目を細めると、突然「……あ」と凪砂が何かを思い出しかのように声を出した。
    「……朔間くん。スープ飲む?」
    「このタイミングでそれを言うかのう?」
    「……ごめんね。薫くんが寒いから持っていったらいいって水筒を貰ったよ」
     こういう時、用意周到な相棒は流石である。伊達にモテる男を謳っているわけではない。凪砂が手持ちのバッグから取り出したのは薫がいつもUNDEADのツアー等に持ってきているロゴ入り魔法瓶で、これが薫の持ち物である事を物語っていた。
     展望デッキの端まで移動すると、木材を踏みしめる音が鳴り響いた。一番端には小さなベンチがあって、二人でゆっくりそこへ腰を下ろした。
    「……はい」
     コップに中身を注ぐと、暖かな湯気が巻き立つ。コンソメのいい匂いがして、凪砂からコップを渡されるとしばらくその暖かさで暖を取った。こうやって二人でゆっくりするのはニューヨークで観光した以来だろうか。凪砂と居て心地良いことは無駄に話さなくても同じペースでのんびり出来る所だった。一口コップのスープを飲むとじわりと温かさが体内を駆け巡る。口から出る白い息と、目の前の星空に酔いしれた。
    「あったかいのう」
    「……ねえ、朔間くん」
    「ん、なんじゃ?」
    「……実は私もここへ来る口実を作ってたんだ」
     そんな事だろうとは思っていたが、いざ凪砂から言われると気恥しさもある。横にいる凪砂はマフラーに顔が埋もれ、表情こそ読み取れないがたぶんきっと、自分と同じ気持ちになっているんだと思った。
    「……ごめんね。実はさそり座って冬の位置はオリオン座の真逆にあって見えないんだ」
    「そうか」
    「……うん。なのに朔間くんが誘ってくれた時に伝えなくてごめんね」
    「別にそれくらい良い。さそり座が冬に地上で見えない事くらい我輩も知っとるぞい」
    「……やっぱり知ってたんだ。それなのに連れてきてくれてありがとう」
    「それより、我輩を騙してまでここへ来た理由はなんじゃ? 他にもあるんじゃろ」
     そう言うと、凪砂がそれ以上の言葉を発さずに沈黙が続いた。どうしたことかと横を向くと静かに凪砂の顔が近付いてきて、唇同士が触れ合った。ほんの数秒だったが、その時だけ時間が止まったかのように感じた。
    「……言葉では難しいか、乱くんらしいのう」
    「……これ以上を表すちょうどいい言葉が見つからなかったんだ。強いて言うなら、朔間くん。こんな綺麗な場所、朔間くんと一緒に見れて嬉しいよ」
    「ああ……我輩も嬉しいよ」
    自然な流れで手を繋ぎ、二人で星を見上げた。二人の鼓動が混ざり合ったかのような、そんな不思議な心地だった。


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