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    まどろみ

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    まどろみ

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    芸i能パロ七灰。ピン芸人七と劇団員灰だけど設定を生かせていない。

    げいのうぱろ七灰「あっはっは!」
    「笑いすぎだ」
    七海の話を聞いた灰原は思わず大笑いをした。

    ***

    事の起こりは約二年前。うなだれていた七海に灰原が声をかけたのが始まりだった。
    「どうしたの七海?」
    「灰原…」
    くたびれた雰囲気の彼から差し出されたのは一冊の少年向け雑誌だった。
    「めずらしいね、七海がマンガ読むの」
    「付箋のページの話を読んでくれ」
    言われた通りのページを開く。それはあるマンガの表紙だった。今人気でアニメ化も実写化もされているものだ。最新話に何かあったのかと疑問に思いながらパラパラと軽く読んだ後、七海がうなだれている理由に納得し灰原は憐れむような眼を向けた。
    「…まあ、よくあることだから」
    肩を軽く叩くと、七海は目に見えて肩を落とした。

    ***

    ドラマやアニメなどのメディアミックスとその原作が同時並行の場合、原作に設定が加わり関係者が大慌てするのは業界ではよくある話。善人だと思っていた役が黒幕だったり、演じていた役が突然方言を話しだしたり。それらに対応するのも役者の仕事と聞いたことはあったが実際に直面するのははじめてだった。

    七海建人28歳。上記のマンガ実写化に出演しているピン芸人だ。役者ではない。最初はゲストキャラとして一話のみの出演だったが、撮影後マンガのほうでそのキャラが再登場し、人気があったらしく準レギュラーにまで昇格していた。そのため今後もまた撮影に呼ばれる可能性があるといわれた直後に今手元にある問題が始まった。
    マンガには○○編など章区切りに副題がつくことがある。今回は過去編だった。それ自体は珍しい話ではないのだが問題は自分の役。七海がゲストキャラとして演じた役は少なくとも外見は七海が演じても違和感のないキャラである。成人男性。筋肉質。クオーター。しかし、過去編の彼は。
    「そもそも年齢が違うし、細身だし、美人だし、私では無理だ」
    過去編に登場する彼は高校生。その姿は華奢だが肉付きに十代特融の丸みが残る。骨格からして化粧や衣装ではどうにもならないのは明白だった。
    「まあ、過去編って本編とは別なわけだし、実写化の話があるとは限らないし、あったとしても七海に声がかかるとは限らないよ」
    「そうだな…そうだよな…」
    取り越し苦労だといいなと思いその話題を終えた。

    ***

    …のが二年前。忘れたころに悪夢はやって来る。例のマンガの過去編実写化が決定した。そして七海にも声がかかった。
    「まさか声だけとはね」
    一通り笑い終えた灰原は七海が持つ台本を覗き込む。守秘義務!と言いながら七海は台本を慌てて閉じた。

    過去編が始まるということで継続キャストで試しに衣装などのあわせをやってみたが、先輩2人と違い自分だけはどうしても原作の再現は無理だった。だが原作の彼も既に声変わりを終えた少年で、全くの別人を呼ぶのも…という話になり、別の役者に七海が吹き替えをするという事態になってしまった。
    「過去編の彼は子役がやるの?」
    「そうらしい。オーディションはまだらしいが」
    「へえ」
    決まったら教えてね、おやすみと笑いながら寝室に向かう灰原を見送って台本を見直す。キャストのページに書かれているのは先輩芸人2人が演じる主役と準主役、2人と行動を共にする女性2人、敵役の後ろに後輩役の自分の役とその友人役。自分の役の下には二行の欄があり片方に『声・七海建人』と自分の名前がある。その隣の『役』と書かれた部分と友人役はまだ空欄だった。

    ふと思い立ち壁掛けカレンダーを確認する。同棲を始めた時に二人のスケジュールを記入すると決めたものだった。灰原の予定と手元の撮影スケジュールを確認し関係者に電話をかける。それはふとした出来心からの行動だった。

    ***

    「はっはっは!」
    「笑いすぎ!」
    灰原のオーディション合格の報告を聞き七海は久しぶりに大笑いした。あの日、灰原が所属する劇団と事務所とドラマ責任者に確認を取った後友人役のオーディションに灰原の履歴書を送った。忖度されないように自分が送ったことは秘密にするように箝口令を敷くのも忘れずに。結果、書類が通り、最終選考まで進み、友人役-高校生役に決まったと複雑そうな顔で灰原が報告してきた。
    「七海のせいだからね」
    「書類のあとの選考は自分の意志で行っただろうに」
    「せっかく選んでもらったのに断るのは悪いでしょ」
    律儀なところは彼の利点だ。おめでとうと本心から七海は言った。
    「この年で学ランはきつい…」
    「…恋人の贔屓目を抜いても、灰原はあの頃とあまり変わらないと思うぞ」
    「子供っぽいってこと!?」
    もー!と頬を膨らませる姿は今も昔も可愛らしい。高校で出会い、付き合い始めてもう10年。声だけとはいえ共演できて嬉しいと告げると恋人は顔を赤らめた。

    後日、子役とのツーショットをSNSにあげていてモヤっとしたのは別の話。

    ***

    七海建人(28)
    ピン芸人。祓本と同じ事務所で後輩。
    高校時代に灰原と恋人になり大学生の頃から芸人の道に進んだ。
    同棲を提案したのは七海から。

    灰原雄(28)
    劇団員。メディア活動上の事務所は七海と別。
    高校時代に七海と恋人になり大学はそれまでの演劇部の経験から演劇系の学部に進んだ。
    告白をしたのは灰原から。

    七海建人(仮)(17)
    モデル。役者は初挑戦。子役というにはタッパがでかい。
    常にほがらかに笑う子なのでしかめ面は大変だった模様。
    灰原と仲が良い。

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