(一応)あーるっ!「七海、これ受け取って欲しいんだけど…」
「雄…」
恋人が上目遣いで渡してきたのはハートのシールが張られた封筒。今月三枚目のそれにあからさまにため息をついた。
「いい加減、身元のわからない人間からのラブレーターを渡す仲介役になるのは止めてくれないか!?」
悲鳴に近い叫びが教室中に響いた。
***
「身元…って、三組の鈴木さんって言ってたけど」
「人物詳細を聞きたかったわけじゃ…って同じクラスなら何故直接来ない!?しかも私のクラスに鈴木さんは男一人しかいないぞ!?」
あまり接点がなくてもクラスメイトの顔と名前くらいは把握している。鈴木さん(くん)はゴリゴリのラグビー部員だ。
「…言われてみれば、僕より体格良くてスカートの下にズボンを履いていたような…?」
「その時点でからかわれていることに気づいてくれ!いや、男とか女とかそういう問題ではなくて!」
「なくて?」
問題の本質がわかっていない雄が首をかしげて真意を問うてくる。可愛いなと言うのをぐっとこらえてこちらの疑念を伝えた。
「雄には私の彼氏である自覚はあるのかと聞いているんだ!」
そう、両想いであることに疑念を持ったことはないけれど、雄には恋人であるという自覚が少し足りないと思うことがある。今日みたいにラブレターの仲介役をしたり、他人が粉をかけてきても平然としていたり。
「確かに七海の彼氏は僕だけど、彼女はいないよね?」
とんでもない爆弾発言に周囲が浮足立つ。
「灰原は一夫多妻制賛成派だったか」
「七海なら可能だよな」
「外野は黙っててください」
野次を一喝し雄の肩を掴む。彼のまっすぐな瞳に嘘が無い事を確認して説得モードに切り替えた。
「私は雄以外を恋人にする気はないし、ましてや一夫多妻なんてもっての他だ」
「既に小中学生のハーレム作っているのに?」
「誤解を生む表現はやめてくれ!」
確かに自分は沢山の小中学生に慕われていて、中には雄を新参者扱いして怪訝な顔をする子供もいる。だがそれは所謂前世の自分の言動の結果であり、今の私の徳ではない。
周囲のこちらを見る目が少し厳しくなった気配を察し、早急に畳みかけることにした。
***
「とにかく、私が聞きたいのは雄の心持ちについてだ」
「心持ち、ねえ…」
僕は七海が好きで、七海も僕が好きで、恋人同士であることはわかっている。でも、たった十七年しか生きていない彼が、女性を好きになることは無いとは言い切れないわけで。そんな考えを見抜いているのか、七海の瞳はこちらをまっすぐと射抜いてくる。
「私の恋人である自覚があるのか、ないのか、どっちなんだ!?」
できればこの話題はなしに、少なくとも先延ばしにしたい。どうにか誤魔化せないかと時計を確認し、タイミングを見計らって仕掛けることにした。
「パワー!」
右手を左に持って行きながら握り拳を作ると静寂が周りを包んだ。その空気を確認しとどめを刺す。
「ヤー!」
言い終わると同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
***
「なかやまくんさんはあるのかないのかどちらかえらんでからのぱわーのはずだからねたとしてなりたたないのでは?」
「急にどうした気持ち悪いな」
「いや、お笑い好きとしての血が…」
「情熱はわかるが真面目すぎてお前には向いてねえぞ」