折衷案で渋谷でばら撒くことになりました「一口飲む?」
「いただきます」
鍛錬の後、休憩中に灰原から飲みかけの炭酸飲料が差し出される。七海は彼女の問いに即答し自分が飲んでいた炭酸飲料と入れ替えた。
「…なんで同じ飲み物交換してんの?」
「んー?」
その様子を見ていた五条が疑問を投げかける。灰原は一瞬『なんでだっけ?』という顔をした後、はっと何かに気がついたような顔で回答を口にした。
「癖?かな?小さい頃の建人くんってば、一緒に飲み物飲んでると『ひとくちください』って必ず言ってきたんだ。同じ物を飲んでても『ゆうねえのがほしいんです』って珍しく駄々こねちゃって。それからずっとこんなかんじ」
「へえ、駄々こねる七海ねえ…」
「…」
五条がニヤニヤ何か言いたげなのを無言でやり過ごす。こういう状況の場合、厄介なのは単純な五条より心の機微を読むのが上手い夏油のほうだ。案の定、それまで我関せずだった彼が灰原の隣に立った。
「ゆうねえ、七海はきっと…」
「それ以上言ったらこの間の文化祭での黒ビキニの写真を新宿でばら撒きますよ夏油さん」
「おっと、怖い怖い」
下手な演技で引き下がった夏油を確認して胸を撫で下ろす。と同時に五条がずりーぞと夏油に絡み出す。
「そん時は俺の白ビキニ写真も一緒にばら撒けよ!」
「なんで乗り気なの悟?」
それから話は逸れに逸れ最初の話題に戻ることはなかった。
***
小さい頃の自分がなんとか間接キスをしようと必死で口をつけた後の飲み物を狙っていたなんて、情けなさすぎて灰原には絶対知られたくない思い出だった。