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    kawa2wa5

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    dress(十空)

    #十空
    tenEmpty

    ■dress

    「動かないでくださいね」
     そう言って空却さんの陶器みたいな肌の上にパフをさっと滑らせる。ファンデーションなんていらないくらいに真っ白な肌だけど、やっぱりベースメイクがあるのとないのとではポイントメイクの映え方も違うし、ファンデは地肌を守ってくれたりもするから大事なんですよ、って言ったところで空却さんが大きなくしゃみをした。唾が顔に飛んできて最悪、最低。これだから空却さんは。
    「お前が変な粉ぬってくるからだろうが」
    「変な粉じゃなくておしろいっす!」
     顔に飛んだ唾を拭って、気を取り直してアイメイク。
    「目、閉じてくださいっす」
    「ん」
     素直に閉じられた瞼の上に、ラメの粒が大きいアイシャドウを乗せていく。その上から発色の良いブラウンを重ねて、睫毛に近づくにつれて濃くなるようなグラデーションに。つけまつ毛もマスカラさえもいらない、空却さんの長い長い自前の睫毛。目を瞑れば、目の下に睫毛の影ができてしまう。羨ましくて仕方ない。
    「まだかよ、拙僧飽きてきたんだが」
    「まだっす」
     あんまり時間をかけていると、せっかちな師匠は我慢できずに動き出してしまうから、慌ててアイラインを取り出して、二重の幅を埋めるように太めに引く。今日は空却さんが気に入っている朱色のアイシャドウをしない代わりに、アイラインを髪とお揃いの赤にした。目尻の部分は睫毛のカーブに合わせて上向きに跳ねさせたら、一気に小悪魔感が増して可愛くなる。
     可愛いと言うと拳が飛んでくるから心の中でだけ。可愛いって褒め言葉なのに、空却さんはいつだって怒る。
    「目、開けていいっすよ」
     ぱちりと開けられた目。アーモンドの形をした金色の瞳がまっすぐに向けられ、思わずゴクンと喉が鳴った。真剣な目で見つめられると途端に心臓がバクバクとうるさい。誤魔化すように咳払いをして、アイラインと同じ、赤いライナーを手にとった。
    「目の下、アマンダとお揃いのマーク入れてもいいっすか?」
    「好きにしろよ」
     同じステージに立つのだから、メイクと衣装は自分に任せてほしいとお願いした時、始めはこれでもかってくらいに面倒臭そうな顔をされたけど、楽屋まで来れば空却さんは大人しくなって、メイクも衣装も自分の好きなようにさせてくれた。なんだかんだ言って優しい。そういうところが本当にずるい。
    「ほっぺ触りますね」
    「ん」
     メイクをして、高級なお人形みたいにつるりとした頬に触れる。頬を固定し、右目の下に雫型を描いた。次に顎を持ち上げて、雫の中を塗りつぶす。
     顔を触れられることに慣れていない空却さんは、無意識に身体に力が入っていて、目を瞑って唇を尖らせ固まっている。
     まるでキスをねだっているみたい。
    (キスしたら怒られるかな)
     頭ではそう考えていたのに、気づけば本当にキスしてた。
    「サカんなよ」
    「盛ってないっす、まだ」
     ステージの上に立つ空却さんは、きっとカッコいい。
     たくさんの人に、この人の格好良さを知ってもらいたいような、知ってほしくないような。これが自分のマスターだって見せびらかして自慢したいような、隠して全部独り占めしたいような。そんな複雑な気分だった。
    「もう終わりか?」
    「最後にこれだけ」
     立ち上がろうとする空却さんをパイプ椅子に座り直させ、首筋に顔を近づけて歯を立てる。ゆっくりと皮膚に歯を食い込ませれば、白い肌に歯型がついた。


    「テメェら、しっかり頭振れよ!」
     見えないところにつけた独占欲に、空却さんは満足そうに笑ってた。
     客席を煽りに煽る空却さんの白い首筋。自分とアマンダとお揃いの襞襟の下には、己がつけた歯型が隠されているんだと思えば、優越感で満たされた。
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