べつべつのおうちで生活している、恋仲のロイテルさんとファリスさん。
※それなりにご近所
「たまには私がお邪魔しても良いだろうか」というロイテル様の言葉にファリスさん、飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。表情を変えないままで。
しかし動揺はしているファリスさん。
「…帰ります」
「何か気に触るようなことを言っただろうか!?」
「い、いえ、ロイテル様がいらっしゃるというのなら、お…お掃除しないと……」
そう。この女、部屋が汚いタイプなのである!!!
とりあえずオーケーであることをお互いに共有し、おとなしく見送るロイテル様。
家に帰ったファリスさんは死ぬ気で部屋を片付ける。共有箱から箒を取り出し、蜘蛛の巣やら染みやらを片付け、散らかった本を棚に収め、ごちゃごちゃとしたものを箱へ押し込み、蓋がないので適当な布をかけてお洒落に誤魔化す!
ぐっちゃぐちゃのベッドをしっかり整える!!
ついでにぬいぐるみの配置も整える!!!
※弊イルヴァのファリスさんは妙にぬいぐるみとか抱き枕とかが好きなタイプです。
花瓶を飾ったり、実家から送られてきたものの使うタイミングを逃していた香を焚いたりしちゃう!
最低限なんとかなったと半ば諦めつつ、恋人を迎える夕暮れ時。
「食事持参ってご近所さんっぽくて良いですね」
「熱いスープの夜…だと火傷するので気持ち冷ましてきたよ」
猫舌(弊イルヴァ設定)のファリスさんに配慮してヌルめのシチューを持参する男ロイテル。ここで問題が発生する――
「ごはんにシチュー、かけないんですか…!?」
「私はパン派だが…!?」
二人の間に緊張が走る。
価値観のぶつかり合いと擦り合わせ、妥協と受容は、恋人同士の試練であり、醍醐味だ。
「目玉焼きには醤油ですが」
「私は…ソースだ。加えて言うと、オムライスはケチャップだ」
「あ、オムライスは私もケチャップです」
シチューを食べながらそんな会話が続く。衝撃的ではあったが、拒絶する程のものではなかったのが幸いだった。
互いへの理解を深めたという充足感で、ふたりはすっかり満足してしまい――
「ではまた明日」
「はい。おやすみなさいロイテル様」
――健全にその日が終わり。
ふたりは我に返ったあと、それぞれ自分のベッドで一抹の寂しさを噛みしめたという。