花のはなし① 土壌調査が終わったころにシンが持ち帰って来たのは、戦争で焼け出された人々と、船に乗る限りの物資と、シンドリアでは生きていけない一株の花だった。官民総出で仮設居住区の振り分けと荷上げに追われる傍ら、船着場に降り立ったシンが手ずから取り出したその植物の第一印象は、玄人庭師が好みそうな地味な花。麻袋に入った土に根を張ったちいさな花は、隅々まで潤いをたっぷりと閉じ込めているのがひと目で分かるのに、重たげな花頭を地面へ向けうなだれている。
「その花、元気がないですね。船旅が堪えたのでは?」
やわらかな表現に留めたのは、萎れた花をお披露目したシンが胸を張って得意げにしていたからだ。まあ、このひとは常日頃から意味もなく、人前では得意げにしているのだけれど。
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