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    季節外れ 春の鋭百
    賢くも可愛くもない二人

    ##鋭百

     ひら、と視界の端をマユミくんにはちょっと似合わない色が掠めた。そういえば今日はやたらと風が強かった。気づかなかっただけで僕の髪にも付いてるのかもしれない。せめてシャワーとまでは行かなくても、夕飯一緒に食べたりしてればわかったかもしれないけど。
     真っ暗な廊下に腕組みをして立ってたマユミくんに声をかけられて、玄関の鍵を開けると同時にいつもなら絶対言ってくれる「お邪魔します」もナシに寝室まで直行、そのくせちゃっかり後ろ手で鍵は閉めてるし、余裕あるんだかないんだかさっぱりわかんない。そういう「お誘い」のメッセージを送ったのは僕の方からだから、別にいいんだけどね。

    「……、っ……ん、く……」
    「は、……ぁ、……、ももひと」

     息継ぎのために唇を離す度に、上からはらはらとマユミくんの髪についてた桜の花びらが落ちてくる。それはなんだかすごく、まあ、僕達には似合わないメルヘンチックなシチュエーションだけど。(まるで祝福されてるような錯覚で、涙が出てきそうになるけど。)
     秒速何センチメートルだかで、ずっとくっついてたマユミくんから離れてくれる小さなかわいいピンクの可燃ごみよりも。じっと奥底を炎で温めながら僕を見つめてくる彼とのキスのほうがずっとずっと、大事だ。

     ぷは、と酸素を取り込んで、また塞がれて。その繰り返し。じれったさで擦り合わせた膝も、背中に爪を立てそうになってなんとか外そうとした腕も、それを怒られるのも、いつものこと。

    「ん、ぅ、くふ……っは、ぁ」
    「だ、っ……から、我慢しないで、爪くらい立てていいと、毎回」
    「はっ……じ、ぶんの手、傷つけなきゃ、いいんでしょ。ちゃんと、シーツつかんで、るよ」
    「屁理屈を捏ねるな、ヘロヘロになっているくせに」
    「キスだけでガッチガチになっちゃってるソーローのマユミくんに言われたくないなぁ」
    「……。あんまり減らず口を叩かれると、手加減できなくなるんだが」
    「最初からそのつもりだったんでしょ、素直になりなよ」
    「お前の方こそ」

     ほらね、結局いつも通り。ロマンだのメルヘンだの甘い雰囲気だの、そんなものでお腹は膨れないし性欲も満たされない。こうやって至近距離で濡れた唇で軽口を投げ合いながらなだれ込むくらいが今はちょうどいいんだ。きっと。そういうふにゃついた恋人らしいやりとりをするのは、もう少し先でいい。具体的に言うと、僕がマユミくんにこの部屋の合鍵を渡す覚悟ができるくらいまで。……そんな日が来るのかは、その時までキミが僕に飽きないでいてくれるかは、わかんないけど。

     こんな雰囲気になっちゃうのは、甘ったるく愛を囁かれるより本能に従って求められる方がほっとする、って僕が最初に伝えたせいもあると思う。それは嘘じゃないし、普段のマユミくんとも僕とも違う、イイコなんかじゃ全然ない、ピンク色なんて似合わない悪友みたいなやりとりは楽しいから、結構すき。

     だからごめんね、と心の中で笑って、シーツに散らばった花びらを力の抜けた腕で適当に払いのけた。
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