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    ぽやぽやしている鋭百🍎🍑

    ##鋭百

    ぐっすりべいびー「……あれ? マユミくん、まだ寝てなかったの」
    「…………ん……」

     起こさないようにと気を使ってそっと開けた扉。明日の準備や資料の確認がたまってるから先に寝てて、と寝室に送り出したのはもうずいぶん前で、寝つきの良いマユミくんならとっくに寝ているだろうと踏んでいたのに、予想に反して彼はベッドの上で寝返りを打っていた。
     毛布にくるまりだるまのようになりながら、ベッドの上を右から左へ。遊んでるようにも見える動きに苦笑しながら近寄れば、端っこで動きを止めたマユミくんがもぞりと腕を上げて毛布を広げた。
     入れと言う無言の催促に従って隣に潜り込む。それなりに体の大きい僕達に、一人用のベッドは少し狭い。でも毛布は二人が余裕でくるまれる大きいものに買い替えた。小さい子供の簡単な秘密基地のように同じ毛布にくるまって、はみ出ないようにくっついて、自分たち以外誰もいないのにひそひそと声を静めてする夜話は楽しい。

     だけど今日は、マユミくんの眉間にしわが寄ったままだ。先に寝てって言ったのが悪かったのかな。でもそんなことは今までに何度もあったし、送り出した時のマユミくんもいつもと変わらないテンションだった。空っぽのこの家には不必要だけど毎回律義に言ってくれる「お邪魔します」はピシッと固いのに、欠伸混じりの「おやすみももひと」は普段よりふにゃついてて、かわいいから好き。閑話休題。
     浅い眠りで変な夢でも見たのかな、そんな風に思いながら半分眠りの世界に片足を突っ込んだ僕の意識が不意に浮上する。

     胸元にぐりぐりと頭を押し付けながら、マユミくんが唸っていた。珍しく素直に甘えが滲んだ唸り声に、嬉しい反面何か悩みでもあるのか心配になる。

    「……どうしたの、マユミくん」
    「…………眠れない」
    「なにかあった?」
    「あった、……というか……」

     背中に回った手にぎゅっと力がこもる。すがりつくような抱き方に戸惑って、とりあえず同じように彼の背中に腕を回す。

    「……シーツが、ぬるい、な」
    「マユミくん体温高いしね。すぐほかほかになれて僕は嬉しいけど」
    「…………」
    「マユミくん?」
    「……………家でひとりで寝ていると、何故あんな冷たいんだろうな」

     同じはずなのに。
     そう呟きながらまた腕に力がこもった。

     つま先でねだられるまま脚を微かに浮かせると、するりと脚がからみついてくる。やっぱりマユミくんの方が体温は高い。触れたところからじわじわと、熱に浸食されて。……違う。僕がマユミくんの体温を奪って、そうして触れ合った皮膚は均等の温度になる。

    「寒くなってきたからだと、思っていたが……いくら毛布を被っても、冷たくて、……全然……眠れないことが、ふえた……」
    「…………」

     そう言いながら、マユミくんの目蓋はとろりと落ちかけている。じんわりと二人の温度に染まっていくシーツと毛布、それから二人の間の空気。一人寝では味わえない、この感覚。

    「……僕も、」
    「ん……?」
    「最近、よく眠れない」

     ……うそ。最近、じゃなくて。時々キミとこうして眠るようになってから、ずっとだ。元々眠りは浅いし、眠りたくないとぼんやりして、気が付いたら朝を迎えてため息をついた回数だって両手じゃ数えきれないけど。
     一人では少し大きいベッド、大きすぎる毛布。眠っていれば温度は染み込んでいくはずなのに、どんどん蒸発してしまうように布団は冷たいままだった。

    「覚えちゃったから、かなあ」
    「……何を?」
    「マユミくんの温度」

     二人で寝るの、きもちいいから。
     そう呟いた僕を映す瞳が、ゆっくりと幅の狭い瞬きを繰り返している。
     腕に力がこもれば二人の距離が近くなるのは当然で、隙間もないくらいぴたりと重なった体が心地好い。着ている服は少し邪魔に思う時もあるけど、触れ合っている部分の温度を意識できるからそこまで悪くない。

    (ああ、そっか)

     一人では得られない温度が気持ちよくて、安心できるから。それを覚えてしまったから。
     だからキミがいないと物足りなくて眠りが浅くなるんだ。
     そして、……キミも、同じように。

    「……ふふ」

     同じぐらいの身長で抱き合えば、お互いの吐息が耳にかかる。それすら、くすぐったいより先にあったかいと感じてしまう。うれしくて揺れた体を嗜めるみたいに、腕がするりと服の下に滑り込む。

    「ぁ、……まゆみ、くん?」
    「すまない。……今なら…ももひとにさわってるところからとけて、まざる妄想をしたら、…すぐにねむれそう、だと。……つめたくないか」
    「んーん、へいきだよ」
    「そうか」

     思わず体が強張ったけどマユミくんの方に下心はなかったらしく、寝ぼけ混じりにほやほやした口調で「あったかいな」なんて子供の様に笑う気配が耳元でした。安心したような、残念なような。
     じんわりと触れ合った部分から伝わる熱。マユミくんに倣って同じように服の下へ潜り込ませた腕は、絡んだ脚と同じように彼の熱を吸って同じ温度になって、そこから皮膚が溶け合っていく。

     部屋に満ちた冷たさが、冴え切っていた意識が嘘のように、急速に闇へとひきずられてく。確かに効果は抜群で、だからこそ余計に一人寝がさみしく難しくなりそうで。それが僕ばっかり、じゃないことが、うれしくて。
     僕なんかのせいでさみしがりになっちゃって、ざまあみろ、なんて軽口をたたいてみたかったけど、落ちかけている意識では難しかった。

    「……ももひと」
    「ん……」
    「おやすみ……」
    「……うん。おやすみなさい、まゆみくん」

     素直に眠気に身を任せる。一番好きなぬくもりと香りにつつまれて、これで安眠できないはずがない。今夜見るのはきっといい夢だ、……そうであってほしい。マユミくんがいる時には、できたら悪夢は見たくない。起きた時に心配させちゃうから。

     そんなことを思いながら、僕はそっと目を閉じた。
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