「昨晩、利吉くんを抱きましたよ」
その言葉が落ちた瞬間、空気が弾けた。
土井は言葉も返さず、一閃、忍び刀を抜いて斬りかかる。
鞘を捨てた斬撃は、感情そのもの。怒りが刀を駆けていた。
「おや、冗談が通じませんね」
雑渡はくるりと身を翻し、棒手裏剣を数枚、扇状に投げ放つ。
土井は即座に身を伏せてかわし、地を蹴って斜めに跳び、距離を詰める。
「ふざけるな、貴様……ッ!」
追撃とともに、刀が唸る。雑渡は手裏剣を抜いて防ぎながら、わずかに後退。
金属と金属が激しくぶつかり、火花が飛び散る。
斬撃。回避。打ち合い。足さばきが地を鳴らし、互いの影が交錯する。
雑渡は笑みを浮かべたまま受け、かわし、時折棒手裏剣で牽制を放つ。
その余裕が、土井の怒りをさらに煽る。
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