出張先が記録的豪雨で、童貞後輩と突然相部屋になったあれこれ(マジか……)
出張先でやっと取れたホテルは、たった一部屋。しかもベッドダブル仕様だった。外は大雨と強風が激しく吹いている。俺たちは一晩をここで過ごすしか、選択肢がなかった。
◆
かなり大きめの案件の受注は、隣のシマと合同でやると決定になった。
聞き入れる社内のメンバーの雰囲気がピリッと固まるのがわかる。その理由は俺と隣のシマは常に成績を競い合っている。あとは何より、
「……ふぅん。おいクソ偽善者の山田一郎くん、俺様の足引っ張んなよ」
「はあ?そっちこそ偉そうにするのはいいけど、パイセンの尻ぬぐいはしねえからな」
「言ってろ」
触発寸前のような会話は日常茶飯事だ。社内で犬猿の仲だと思われる俺たちはいつもこんな感じの関わり合いになる。
俺は席に座り、仕事を続きをする。左馬刻は不機嫌な顔のまま煙草を吸いに喫煙所に行った。
(中略)
天気予報を確認すると、台風13号が急速な速さで接近している。そのせいで予約していた新幹線は早々に計画運休になった。そのうえタイミングが悪い。何かのアーティストのファンミがあるとかで近隣のホテルの空きが少ない。
三郎に連絡を入れなんとか部屋を一つだけ確保できた。だけど部屋に入るとベッドが一つしかなかった。
「……チッ」
左馬刻は鞄と上着を置いて部屋を出ようとする。
「どこ行くんだよ」
「煙草。部屋ん中で吸えねえからな」
そうだよな。今どきのホテルは大半が禁煙だ。一人やることのない俺は、冷蔵庫から水を取り出し口をつけた。
前の会社で、俺を指導してくれたのが左馬刻だった。最初に働いたクソブラック会社とは違って、厳しくもしっかりと教えてくれたことには感謝している。あの頃の俺は純粋に先輩として慕っていた。
『左馬刻さん!』
一緒にいると懐かしさが込み上げてくる。親切で美人で近くにいくと高そうな香水の匂いがした。スーツ姿も、定時終わりの飲みに連れて行ってくれて、酒に酔う介抱も何度もした。
たぶん、好きになった。初恋の人だった。
あの楽しかった思い出の会社は、業績悪化から上場廃止になり潰れた。俺の初恋も消え失せてまさかの転職先で出会った。俺は左馬刻と再会できて嬉しかったのに、左馬刻は何故がいつも突っかかってくる。
色々と思い出に浸っていたらドアが開いた。ほんの10分程度は左馬刻は髪とシャツがかなり濡れていた。
「……何見てんだ」
「アンタ、……インナーとか着ないのかよ」
雨に濡れたせいで肌に張り付いた白シャツから、乳首が透けて見えた。外回りをするくせに白い肌と、その下に見えるツンと立つ乳首はどう考えても目の毒だ。
「シャワー浴びるから、のぞくなよ」
(中略)
「な……に、盛ってん、だ」
「いいだろ。左馬刻が俺のこと童貞ってバカにしてるなら、俺が童貞じゃなきゃいい」
左馬刻が誰かと電話をしてるのを聞いていた。
『一郎のダボと二人で一部屋でも、何もある訳ねえだろ。童貞野郎が俺様に手出せっかよ。ん、その件は銃兎に頼む。帰ったら高い酒、奢ってやんよ』
同じチームで働く入間さんと話すときは、俺とは違って楽しそうで腹が立つ。グラグラ怒りが湧くのが分かる。俺が何もしないとタカを食ってるのもいい加減にしろ。
左馬刻をベッドに押し倒した。ここは出張先の地方、台風のせいで他に行くところはない。一晩俺と過ごさなきゃいけない。
──左馬刻、俺はアンタが欲しいんだ。