さいなが その1カルデアで過ごす日々のなんて事ない会話から、たまに多少の言い合いも織り交ぜながら新八と一は部屋で過ごしていた。
2人はカルデアで召喚されてからこの方、所謂恋仲なのである。そうゆう仲になってから、こうやって2人で過ごす機会が生前と比べても増えていた。
そんな中ふと、一が言った言葉が事の始まりだった。
「なあ、新八。今夜いいか?」
新八が薄く曇った蒼い瞳を一の方へ向けると、相手も同じだったようで、返事を待つように一は新八をみつめていた。
それから新八は何か考え込むように一から視線を外して少しばかり沈黙すると、やがて頭を掻きながら口を開いた。
「…あーー、…わりぃ。…今日は無理だわ。」
「なんで?」
新八の返事に、一は間を置くことなく浮かんだ疑問を口にしていた。
ーーー
「だから、今日は駄目だって断ってんだろ。」
「理由は?」
新八が駄目だ、と伝えても相手はそれでは納得しないようで。
誘いを断った処、こうして押し問答になってしまっていた。
じりじりと新八の方へと一が近づいていく。一方、新八は同じ分だけ少しずつ後ろに下がっていく。
そうして、一と言い合っているうちに新八は部屋の壁際まで追い詰められてしまった。
「あっ、クソッ!」
退路がなくなったことに気づき、新八は小さく舌打ちする。
一から視線を逸らし、グッと堪えるように俯いた。
一はそんな彼をみつめながら新八の頭の横、空いているスペースに片手を添えてさらに距離を詰める。
自分の方が少しだけ背が高く、新八が顔を伏せているのもあり多少此方が見下ろす形になる。
確か、マスターがこんな風に相手に迫るのを壁ドン、だとか言っていたか。
(まあ、今そうゆう場面でもないんだけど)
「新八。」
じっと新八を黙って覗き込んでいた斎藤が先を促す様に名前を呼ぶ。
新八は顔を上げ目を合わせてから、ひとつ溜息をつく。
「…嫌って、わけじゃねえんだが。」
徐に、口を開いた。
「……あの、だな。今日はそうゆうの、無しにして欲しいっつうのは。今こうやってお前と話してるだけでもなんか、むずむずするっつうか。……まだ、落ち着かねえ、からよ。その、待ってほしいっつうかだな…。」
新八の声が最後の方になるにつれて徐々に、小さくなっていく。心なしか、新八の顔がうっすら赤くなっているようにみえた。
つまり昨夜の余韻がまだ残っていて意識してしまうから、落ち着くまで待ってほしい、と云うことだ
気恥ずかしかったのだろう。今夜の誘いを断った理由を言いたくなかったのも、合点がいった。
「…なるほどねぇ。」
それを聞いた一は一息、長めに息を吐くとゆっくりとした動作で新八から離れる。
「…斎藤?」
ちらりと一の方をみやる。
一は部屋を出ていくつもりなのか、此方に背を向け扉付近まで歩いていく。
一が扉の前まで着くと、やがてシュンッと静かに扉が開いた。
「一ちゃん、これから周回に参加組だから、この話はこれで終いな。」
片手を挙げてひらひらと振りながら、開いた扉を跨いで部屋を出ていこうとする最中。一は顔だけ永倉の方を振り返りると、
「じゃ、また後でな?」
一が一言そう言い残すと、部屋の扉は閉まった。
「は、」
1人残された新八は、一が去り際に残した言葉を半濁していた。
また、あとで
………って、いつだ?
「…あいつ、もしかして今夜来んのかッ…?!」
部屋を出た時、彼と視線が合った。一のあの様子は、新八を逃してくれるようにはみえなかった。
新八はどうしたものかと、手で顔を覆った。はあ、と息が漏れる。
幾分か熱くなった顔の熱はもう引いたはずだが、気のせいか、体温がじわりと上がった気がした。
おまけ
永「爺いの姿で断ってたら、良かったのか…?」
斎「それ、詳しく聞かせて貰える?」