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    魈空。1日クオリティ。捏造・流血・BL表現有

    #原神
    genshin
    #魈空
    xiaother

    貴方のために その日は璃月で任務があった。空はパイモンと共に天穹の谷付近を歩いていた。
     
     
     この頃空は、度重なる依頼、そして蛍について―今自分がこうしているとき、蛍は何をして、考えて、見ているのだろう…と―考えることが多くなり、寝不足だった。パイモンも、そんな様子の空に「もっと寝ろ!」等ということは言えなかった。
     
     


     ふとファデュイの蛍術師の気配がした。
    (これは…雷元素か。)
    パイモンはすぐさま木の陰に隠れ、空は剣を構える。
    「あら~噂の旅人さんじゃな~い?」
    蛍術師は艶やかな声でそう言いながら、空のもとに近づいてくる。空は無言で剣を構えたままだ。それでも構わず蛍術師は続ける。
    「ああ、そうそう。旅人といえば…魈という名の仙人を召喚できるんでしょう?」
    空はファデュイがその事を知っていることに少し驚いたが、まあそうか…と納得する。
    (これまで何度か窮地に陥った際に魈の名前を呼んだことがあるし、ファデュイがそれを見ていてもおかしくないな…)
    蛍術師はそれをみてにっこりと微笑む。
    「やっぱりそうよね~。その仙人を呼ばれると、手がつけられないって聞いたわ。」
    「俺はこれ以上お喋りを続けるつもりは無いんだけど。」
    空はキっと蛍術師を睨み付ける。しかし彼女は続ける。
    「私はね、面倒なことが嫌いなの。自分が傷つくことも考えたくないわ。だから…!」
    直後、悲鳴が響いた。
    「パイモン!!!!」
    パイモンが蛍術師の腕にとらえられていた。見えなかった。空はすぐに、パイモンを助けようと駆け出す。しかし
    「ストップ~止まらないと、この子、殺すわよ。」
    蛍術師のその声に空は止まることを余儀なくされた。
    「空…ごめん……オイラ…」
    パイモンは半泣きになりながらも空に謝る。空はかぶりをふった。
    「大丈夫パイモン。俺がすぐ助けるから。」
    「そんな余裕なんてあるのかしら。私は戦闘力はそんなにないけど、速さはファトゥスの皆様にも認められているのよ。」
    蛍術師がクスクスと楽しそうに笑う。
    「さて、この子をどう痛めつけようかしら~」
    「っ!?約束が違う!パイモンには手を出すな!!」
    「あら~。殺さない、とは言ったけど、傷つけないとは言ってないわ~。」
    「くっ…!」
    空はパイモンを助けたい。しかし近づけばパイモンは殺される。いや、近づかなくても危害を与えられてしまう。いつもはこんなに苦戦しないのに…と空は歯をくいしばる。
    (自分の不注意のせいだ…)
    魈を呼ぶか?ああ…しかし、魈はこの頃忙しそうに見える。それに空は、魈にばかり頼るのが申し訳なく思えるのだ。
    空が迷っているとふいに、蛍術師が攻撃をためはじめた。あたりが雷の影響でバチバチとし始める。空は必死に打開策を考える。魈に迷惑をかけたくない、その考えに至ったため、もはや魈を呼ぶなどということは考えていなかった。
    (どうする?どうしたらパイモンを無傷のまま救出できる?)
    考えをめぐらせる。しかし、つかみあぐねる。背には冷や汗が伝い、そんな時にも蛍術師は攻撃をためている。最悪だ。
    「タイムアップね。」
    蛍術師が攻撃を放つ。空の思考は完全に停止した。





    …しかし
    衝撃があった。空の口に。
    「ぐっ…うああああ!!」
    蛍術師は、パイモンを攻撃すると見せかけ、空の口を攻撃したのだ。
    (痛い!痛い痛い痛い痛い!)
    自分のあげる悲鳴で開かれる口が痛い。ビリビリと裂けていくような感覚がする。血がボタボタと地面に落ちる。
    「仙人を呼ばれると厄介だから。」
    蛍術師は嗤う。
    「空!!空!!!!」
    パイモンが叫び、空のもとへ近づこうとする。蛍術師は自らの腕の中で暴れるパイモンを鬱陶しそうに見つめ、遠くへと放り投げた。
    「静かにしてもらわないと困るわ~。折角、私は今優勢なのだから。こんなチャンス、滅多に…いえ、一生無いかと思っていたもの。」
    蛍術師はパイモンを威圧するように睨んだ。パイモンは、ヒュッと息を飲み、そのまま動けなくなってしまった。
    (こいつ、今まで旅人が会ってきた蛍術師の中でも一番強いんじゃないのか?…そういえば今日の依頼…討伐対象は確か…)


    思い出す。

    時は遡り、冒険者協会にて。



    「今日の依頼は、最近妙に強くなっているファデュイについての調査と討伐です。旅人さんには蛍術師をお任せしようと思います!」
    「うん、わかった…。」
    「旅人さん?大丈夫ですか?」
    「あ…最近よく眠れてなくて…」
    「…申し訳ありません旅人さん。旅人さんの意向に沿っているとはいえ、やはり多くの依頼をあなたに任せてしまっていますね。」
    空はここ最近、いつもより多く依頼を自分に回してほしいとキャサリンに頼んでいた。
    「俺が望んだことだよ。それにこの依頼が終わったら流石に少し休もうと思ってるし。」
    「…それを仰ったの、もう何回目ですか。」
    「そうだぞ空!無理するなよ!」
    「あはは…でも……」
    (でも……俺は…ずっと弱いままだ。)
    空は焦っていた。自分が毎日悠長に暮らしている今この時にも、蛍が自分から遠ざかってしまうのではないかと。大切な大切な妹。空は、そんな蛍に見限られたくなかった。必要とされる存在になりたかった。

    ―蛍、俺をみて。俺はお前のお兄ちゃんだ。お前の力になれる。だから…俺と一緒に帰ろう―

    そんな焦燥が空の原動力となる。己の肉体の疲労など二の次だ。会いたい。長い旅をともにしてきた、たった一人の妹。そしてこれからもずっと一緒に旅をする唯一無二の存在。
    空は何度か魈からも、無理をしすぎだと言われていた。空は、魈に自分のことを心配されると弱いため、心配される度に心が痛かっただろう…




    (やっぱりそうか!)
    パイモンは確信した。同時に体から血の気が引いていく。
    (この蛍術師は、キャサリンが言っていた"最近妙に強くなっているファデュイ"の一人!だとしたら、オイラたちは…危ない!!)
    自分が動かなければ。腰を抜かしている場合ではないのだ。不幸中の幸いか、パイモンは無傷だった。動ける、いや、動く!蛍術師は強化されているとはいえ、やはり弱い。自分の強さに自惚れている。自分がこの場の王だと思っているのか、空の目の前でファトゥスに認められた自分の速度を自慢している。空は苦しそうな顔をしながらも、必死につけ入る隙を探している。しかし正面に向き合っているとなると難しいだろう。
    ならばパイモンだ。
    蛍術師は先刻の威圧でパイモンが完全に動けなくなったと思い込んでいるのか、こちらに興味も関心もないようだ。忘れ去っているのかもしれない。だからこそ今、動け。空のために!
    パイモンはそっと、宙に浮く。怖くないといえば嘘になるが、さっきまでの怯えは消えていた。
    呼ばなければ。魈を!

     

     空はパイモンがそろりと、音を立てず飛び去るのを見送る。
    (きっと助けを呼びに行ってくれたんだ。)
    確信する。目の前の蛍術師にばれないよう、安堵する。
    (俺もなにか力にならないと…)
    空は地についていた膝を立てた。蛍術師の口が止まり、深い笑みをつくる。
    「いいわね~。ここで終わらせましょうか?」
    空は無言だ。今空はなんとか立っているが、口からは血が滴り落ちており、全身から冷や汗が吹き出している。心なしか体温も上昇しているように思える。それでも…
    (このままなにもできないまま終わらせない!)
    それは空の固い意志。今にも倒れそうな空をささえる強固な杖。
    空はもう一度剣を構え、蛍術師を見据える。蛍術師はもう笑っていなかった。

     
     

     先に攻撃をしかけたのは蛍術師だった。目にも止まらぬ速さで空を狙う、閃光のような雷だ。しかし空も負けていない。咄嗟にそれを避け、剣を蛍術師に向かって振る。技量は当然空が上だ。蛍術師の頬を空の剣が掠める。蛍術師は驚愕を隠せなかった。はっきり言って、常人なら死んでもおかしくない状態なのに、空はまだこんなにも戦えるのか、と。しかし蛍術師も負けない。己の使役する雷蛍を召喚し、一気に仕掛ける。
    「ぐぅっ…!」
    空がくぐもった声をあげる。腕に足に、雷があたり、血が吹き出す。口も、声を出したせいでまた痛んだのだろう。空の顔は苦痛に歪んでいた。それでも空は剣を振る。勝機を探して。






    「魈!!!」
    望舒旅館に帰ってきたところ、パイモンが自分の名を呼んでいるところを見つけた。
    「我になにか用か。」
    背後からパイモンに近づく。
    「魈っ!」
    パイモンが振り返ると同時に魈はぎょっとした。
    「お前…なんだその顔は…。」
    パイモンの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。何回も呼んだんだからな~としゃくりながら告げる。そこで魈は気づいた。彼の姿がないことに。
    「おい、空はどうした?」
    少し焦ったような口調でパイモンに尋ねる。嫌な予感しかしない。
    「空は……うぅ、とにかく助けてくれ魈!説明してる暇は無いんだ。早く!」
    「…っ、案内しろ!」
    魈はパイモンのあとを駆ける。
    (一体何があった…。しかし無事でいろ…空!)




    「ゲホッ…ガハッ…う…」
    血を吐く。もはやそれの原因が何なのかわからない。激痛が走り、空は顔を歪める。立ち上がろうとするも…もう、足に力が入らない。
    (ここまでなのか、ここが俺の限界なのか?)
    頭が真っ白になる。
    「その様子じゃあ、もう立てないわよね。」
    嬉しそうに蛍術師が笑う。ふいに、空の意識が朦朧とし始めた。当たり前だ。こんなにも出血しているなかで、誰の助けも得ずに戦っていたのだ。肉体の限界だ。
    (嘘だ…こんなの…)
    ふと、頭をよぎる。―魈の微笑み。

    会いたいな。

    蛍がいない寂しさを支えてくれたのは、パイモンだけではない。魈もまた、空のことを想ってくれた。
    人に優しくすることに慣れていないだろうに、不器用ながら空の心を満たしてくれた。
    時に無理をしすぎた空をしかり、時に泣きたくなるような笑顔を空に向けてくれた。
    それに応えるように、空もまた、魈の支えになれるように努めた。
    無意識に二人は、お互いの存在を心地よく感じていたのだ。

    ああ、会いたいよ…魈

    失っていく意識の中で、魈が自分の名を呼んだ気がした。





    「空!!」
    パイモンに案内されて、随分と遠い天穹の谷までやってきた。目に入ったのは、跪き、倒れゆく血まみれの空と、満足そうに笑む蛍術師。
    「っ…!!」
    魈の額に血管がうきだし、体全体に覇気を纏う。パイモンは慌てて離れた。

    そうしないと、パイモンまでもが殺される気がしたから。

    そんな殺気に満ち溢れた魈に蛍術師が気づかないわけがない。蛍術師は魈に気づくや否や、恐怖で動けなくなった。自慢のスピードも、魈を前にすると全く役に立たない。
    「な…なんで…噂の仙人がここに…?あいつの口はちゃんと切ったはず…」
    「なんだと?」
    その発言はまさに火に油を注ぐようだった。魈がさらに殺気を増幅させる。空の口を切った?我を呼ばせないために?
    「お前、そのようなことをして、覚悟はできているのだろうな?」
    「ぁ…あぁ……」
    そこからは速かった。消えろ、魈のその一言。瞬きをしたあとにはもう、魈の槍が蛍術師の体を貫通していた。
    「あいにくだが、我はすぐに空を治療できる場所まで運ばねばならぬ。お前に構う時間などない。」
    魈は蛍術師に槍を突き刺したまま放置した。
    苦しませて殺すようだ。




    「空」
    魈が空のもとに駆け寄る。パイモンも続いた。
    (意識がない…。望舒旅館に運ぶか?いや、それでは恐らく混乱を招くだろう。 …あのとき、業瘴で気を失っていた我を助けてくれた不ト廬を頼るか?だが…また助けてくれるだろうか…。)
    しかし、迷う時間などない。空は今にも死にそうな状態なのだから。
    「お前のためなら…」
    魈は空を背負い、パイモンは魈につかまりその場を去った。苦しむ蛍術師をおいて。

    まもなく、彼女は死ぬ。





    「店主!助けてくれ!!」
    突然背に血まみれの空を背負った魈と、泣きじゃくるパイモンが入店し白朮は目を見開いた。が、空の状態を見るとすぐに適切な処置を施してくれた。七七も手伝ってくれた。
    「一体何が…」
    空の状態は酷かった。口や身体中が切れていて、体温は高い。傷の方は処理したが、熱がなかなか下がらないし、目もまだ覚まさない。
    なので七七は先刻、解熱剤の材料となる薬草を採りに出た。
    「すみませんが、空さんが目を冷ますまで見ていてもらえませんか?」
    白朮が魈に尋ねる。
    「ああ。」
    魈は短く返事をして、空の眠るベッドの近くの椅子に座った。



    「パイモンさんは寝てしまったようですね。」
    白朮はそう言いながら、自身の作業台に突っ伏して眠るパイモンに毛布をかけた。

    今日はまだ仕事があるからここが使えなくなっても問題はないです。今くらいはここをこんな風に使うことを許可しましょう。

    とのことだ。


    白朮が部屋を去る際に魈は声をかけた。
    「一度ならず二度までも、救ってもらい感謝している…」
    白朮は優しく微笑み、
    「人を助けるのが私の仕事です。それに、こう言うのはあまり好ましくないですが…璃月の一般市民はあなたたちのおかげで平穏に暮らせていますから。」
    それだけ言い、部屋を後にした。




    魈は空に向きなおり、そっと髪をなでる。
    「パイモンから聞いたぞ。我に迷惑をかけたくなかったんだとな。」
    声色はいつになく優しい。
    「迷惑などと感じるものか。もっと我を頼れ。貴様がいなくなったら苦しむのは我だ。」
    魈は空の手を優しく、ゆっくり握る。
    「早く目を覚ませ。また我に、笑顔を見せろ。」



    誰かに手を握ってもらっている。
    握られている、とは感じなかった。
    なぜなら…それは、とても心地よかったから。

    そっと目を開ける。魈が自分を見つめていた。
    「…!」
    彼の名前を呼ぼうにも、口が動かせない。
    「無理にしゃべらない方がよい。まだ痛むだろうからな。」
    空はうなずく。確かに、この状態では無理だろう。
    「まったく…危険だと感じれば、我を呼べ。」
    空は、でも、という感じに申し訳なさそうな顔をつくる。
    「迷惑など感じるものか。我はお前を助けたい。…我を必要としてくれ。」
    (あ…)
    空は感じた。似ている。
    (魈も…必要とされたかったんだ。)
    空はうなずく。肯定の意。
    危ないときは、魈を頼るという約束。
    空の目元は優しかった。
    魈は安堵する。そして、空の額に口づけをした。
    「もう少し休め。寝不足なのだろう。」
    そして魈は少し躊躇った後、
    「お前の妹の代わりにはなれないが…我は我なりにお前のことを想っている。」
    と言った。
    空はありがとう、と言う風に目を細める。
    「安心して眠れ。店主には我から言っておこう。」
    空は魈の優しい声に導かれ、眠りについた。
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