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    tennin5sui

    @tennin5sui

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    POIPOI 43

    tennin5sui

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    絵描きさんのイラストから小説を書かせていただきました
    むらさきはとさんのこちらのイラストから( https://twitter.com/pigeon_purple03/status/1619630304242851842?s=20
    ありがとうございました!

    #マリビ
    malibi

    いいシャツだなそれ。そう?余ってるから今度持ってきてあげる「あ!ちょっと待ってて!」
    とアパートのエントランスで蜜柑のことを呼び止めたのは見知らぬ婦人で、玄関扉を開けて入ってきた蜜柑の顔を見るなり、廊下を引き返していく。
     アパートの住人と仲良くしていた記憶はない。むしろ、つかず離れずを意識して、会えば挨拶をするが、それ以上の関係性を築かせないだけの態度を持って生活をしてきたはずだ。この婦人を待つことが、これまで守ってきた秩序を崩すのか、保つのか、どちらか逡巡しているうちに婦人が戻ってくる。先程までトートバッグだけ肩にかけた軽装だったが、全国に広くチェーン展開している手頃なブランドの大きな紙袋を小柄な体に抱え、はい、と差し出す。
    「これね、約束してたやつ。何着か入れておいたから。いらなかったら捨てちゃっていいから」
    渡されて受け取らないわけにもいかず、すみませんと当たり障りのない言葉を返すと、それじゃあ、と急ぎの用事にも見えない気楽そうな様子で出掛けていく。なぜ人違いです、と断らなかったのだろうか、と反省する。仕方なしに、自分の部屋まで紙袋を持ち帰る。

     寸暇を惜しむかのように、タバコ買いに行っただけなのになんだよその荷物は、洋服か、いつの間にそんなどこまで行ってきたんだよすげえスピードだな、と立て続けに言葉を浴びせられる。そう来るだろうとは思っていた。
    「もし俺がおまえの立ち場なら、同じことを言っただろうな」
    「そりゃそうだ。何カートン買ったらタバコ一箱がそれだけのデカさになるんだよ」
    「五つくらいじゃないか」
    ローテーブルの上に散らばった書類や空き缶を端に寄せ、やや手狭なスペースに紙袋を置く。早速、檸檬が袋の中身を検分し始める。
     檸檬も蜜柑もさほど大衆向けのブランドに詳しいわけではないが、到底流行のデザインとは思えない、奇抜な衣類ばかりが取り出される。細かなキノコ柄の服があるかと思えば、目玉がアクリル素材で出来た、愛らしいとは言い難い猫の顔のシャツなど、人に着られるという意識の薄い服ばかりで、どうやったら流通ラインに乗るのか疑問しか浮かばない。中には使い勝手の良さそうな白いシャツなどもあるにはあったが、逆に洋服界の異端児たちの中に紛れ込まされていること自体が異様に思え、やや敬遠してしまう。
    「これは、あれだな」
    「なんだよ蜜柑」
    「顔を覚えられたく時に着るなら、便利かもしれない」
    「着るのか?」
    「着ないな」

     たしかに大袋ではあったが、思いの外数多く詰め込まれている洋服たちに、婦人の収納能力の高さを思い知らされる。もう、まとめて捨ててしまえばいいか、と飽きがきたところで檸檬が嬉しげに2枚のTシャツをつまみ上げる。
    「これはいいじゃねえか」
    果実の断面図を全面プリントしたデザインらしく、レモンとミカンがモチーフのようにも見え、檸檬の意図するところを察する。
    「これがどれだけ貴重なものかわかるか。レモンとミカンはな、意外と同じ商品ラインにのらねえんだよ」
    そう熱弁する。
    「そうか。おまえの注意力には感心するばかりだよ」
    蜜柑は一枚受け取ると、しげしげと眺め、
    「外に着ていったら捨てるからな」
    と宣言した。
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