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    tennin5sui

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    絵描きさんのイラストから小説を書かせていただきました!
    🤧さんの、あの洗面台の前で朝の身支度をしているイラストです

    ありがとうございました!

    #マリビ
    malibi

    夏休み 複数人で暮らす時に、不便で困る場所はトイレ、リビング、そして朝の洗面所だ。時間のない朝は誰にとっても同じように訪れ、そして、忙しい時間は大抵の場合、被る。そうなったら、お互いの距離感を測り、気を使いながら支度をするしかない。例えば、洗面台を使う前に、キッチンに行ってお湯を沸かす、といった日頃一番にやらない行動をとったりして時間を調節し、場合によっては洗面台の使用を諦め、代わりに流しを代用することもあった。
     蜜柑も檸檬も、最初は煩わしさに閉口した。しかし、よくよく考えてみれば、洗面所が混雑するのは、水道を複数人で使おうとしているためだ。洗面台の前に二人で陣取ったとしても、一人ずつ水を使えば困ることはない。そうして生活しているうちに、自然と二人は同時に洗面所を使用する術を身に付けていた。こうして他人の部屋に居座って一週間もすれば、嫌でも慣れるものだ。

     一週間前、二人は謹慎処分を言い渡された。組合や組織に所属しているわけでもない二人にとってはなんの拘束力もない申し渡しだが、相手がそれなりに名の通った仲介屋だったので、桃からの助言もあり、顔を立てることにしたのだ。仕事自体は上手く済んだはずだったのだが、不興をかってしまってはやむを得ない。もっとも、ろくに組織に所属したことのない二人にとっては謹慎など初めての経験だったために、面白がっていたことは否めない。
     早速、謹慎のための部屋を要求し、相手が所有しているアパートの一室を提供を受けた。最低限の家具や家電は備え付けてあるので、二人の手荷物はバッグ一つに収まる予定だった。
     一週間の謹慎ともなれば相当暇になるはずだ、と主張したのはどちらが先だっただろうか。気づけば退屈凌ぎの品々をあれこれと詰め込んでいて、両手にボストンバックを引っ提げて入居する羽目になった。檸檬は当然のように持参したコップを棚にしまい、蜜柑は普段は買わない入浴剤を風呂場に設置した。入浴剤など入れれば、浴槽の掃除が面倒になるが、人の部屋なのだからそんなことを気にする必要はない。パッケージを確認せずに買ってきた入浴剤は、湯に広がるとかなり派手な青色に発色した。面白がった檸檬と連れだって、薬局まで行って入浴剤を吟味までしたので、今では気に入りの大袋を設置している。

     仕事をせずにいるのは、存外暇だ。筋トレは欠かさず行って身体的な衰えはないものの、退屈を紛らわせるための趣味ではないため、たとえば平日の博物館で木彫りの像なんかを眺めたり、ネズミ花火を買い込んで蟻を脅かしたりした。無為である。それでも一週間は着実に過ぎた。

    「蜜柑、謹慎ってのが解ける時は、電話でも掛かってくるのかよ。それとも、ご丁寧に郵便でもくるのかな」
    「さあな。あの口ぶりだと、電話でも掛かってくるんじゃないか。向こうも、もう俺たちとは話をしたくもないだろうが」
    神経質そうな仲介屋が、顔を真っ赤にしながら「こんな仕事をするんなら、謹慎でもしていろ!」と二人を怒鳴りつけてきた光景を思い出す。じゃあ謹慎するから部屋貸してくれよ、と平然と返した檸檬には、呆気に取られていたようだが、自ら言い出した手前、持ち前の神経質さから断れなかったのだろう。あるいは、そうして建前を大切にする性格だからこそ、仲介屋などという人事の緩衝剤のようなことをしているのかもしれない。
    檸檬は窓の下に設えたソファに座りながら、タバコを灰皿に置きながら、
    「部屋、買い取れとか言わねえよな」
    と呟いた。まさか、と蜜柑も笑う。
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