押し問答 元気出しなって、と桃に手渡された紙袋はちょうど雑誌が入るくらいの大きさで、何だこれは、と一応聞くと「ポルノ雑誌」という想定済みの答えが返ってくる。
「ポルノ雑誌屋が、つまらないものですが、って出せるものなんか、ポルノ雑誌しかないでしょ」
「いらない」
「プレゼントを返して寄越す人間がどこにいるのよ」
あんたの好きそうなの選んだんだから、と押し付けられそうになる。押し返す。桃は、はぁとため息を漏らす。
「あんた、あんまり怒ってるとこんな顔になっちゃうわよ」
などと子供を叱る調子で、カウンターの上にあった、どこかの薬局が置いて行ったらしいブロックメモにペンを走らせる。こんな顔に、と示されたイラストを見れば、下駄のような四角形に目鼻がつけられ、不機嫌そうな顔つきの男が描かれている。輪郭こそ角ばっているものの、蜜柑の似顔絵だな、と理解できる程度には似ている。
「ほら、そっくり」
「似てはないが、意外に上手いな」
「上手いでしょ。最近姪っ子にアンパンマン描いてあげてるからね」
「姪なんているのか」
「冗談」
褒められて気を良くしたらしく、四角形の蜜柑の隣にギザギザとした輪郭の人物を描き始める。目は吊り上がっているが、満面の笑み、といった顔立ちだ。蜜柑も、それが誰だか一目で分かった。
「檸檬か。似てるな」
「似てるでしょ」
やはり得意そうに、指先でペンをもてあそぶ。
「じゃ、これも一緒につけちゃおう。ほら、持っていきな」
「いらない」