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    tennin5sui

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    2024年猫の日

    #マリビ
    malibi
    #マリアビートル
    maryBeetle

    猫の抱っこが下手くそ蜜柑 朝から雨が降った。
     日頃から仲良くさせていただいている野良猫は元気だろうか。寒い思いをしていないかと、足早に帰り道を歩く。登下校の道中には、あまり車の入っていない、ビルに併設された私用の駐車場がある。私のお気に入りの野良猫ご用達の日向ぼっこスポットだが、今朝は姿が見えず、アスファルトが濡れて黒っぽくなっていた。
     猫は灰色の体を駐車場に横たえて、私が近寄っていくと、無愛想な小さな目をこちらに向けることなく、やれやれといった顔で座り直す。隣に座ると、寒い日には、膝に乗って来ることもあった。
     雨が降るのは今日が初めてではないし、猫がいつもの場所にいないのも、もちろん初めてではない。私が心配しているのは、自動車を運転する人たちに向けた「野生動物に注意!」のポスターが、最近貼られ始めたからだ。
     どうも、野生動物との接触事故が多発しているらしい。私としては、こんな住宅街が近い場所に生き物がそんなにいるのか、という方が驚きなのだが、ハクビシンやら、タヌキやらが事故に遭っているという。中でも野良猫が事故に巻き込まれるケースが多発しているらしい。
     雨の日、多発する事故、姿を見せない野良猫。三拍子揃って心配するなという方が無茶だ。
     長靴を履いた足が、ひときわ大きな水たまりを踏んだ。あと少しで駐車場ってところなのに、といらいらしながら、こうなったらいっそ走って水が跳ねたって一緒だと、傘を畳んで駆け出した。
     元より人通りの少ない道だが、雨のせいか、無人の寒々しさがより際立っていた。そのせいで、駐車場からつかつかと歩いて出て来る人影が恐ろしく見えて、走っていたのを急ブレーキをかけて、無言のままその人の目の前に立ち止まってしまった。挨拶でもすべきか、と悩んだのも束の間、その人が胸の辺りに抱えている塊に目だけが吸い寄せられる。その塊はイキのいい魚のように身を反らせている。灰色の毛皮、通常よりも少し小さな目。
    「あ、その猫」
    ぽそり、と口から漏れた言葉に、その人は片眉をあげる。
    「この猫の飼い主か」
    その人の表情は読めない。だから、質問の意図もよく分からない。猫を放しておくなんて、管理不行き届きだと叱られるのだろうか。それとも、私の呟きに対する単なる世間話のようなものなのだろうか。私は飼い主ではないし、かといって知らない猫でもなく、はい、ともいいえ、ともつかない曖昧な声を出す。助け舟を出すように、猫がにゃあと鳴く。
     その人は面倒臭そうに、ほら、と猫を手渡してきた。厳密に言えば、手渡すというよりは、猫を腕から放り出すような格好で、よくさっきまで抱いていられたなと感心するほど受け渡しが下手だ。猫は私の腕の中におさまると先ほどまで抱かれていた相手にぷいと背中を見せる。
     猫に懐かれていることに少し優越感を覚える。その人はもう猫には関心がないらしく、レインコートから毛と雫を払い落としている。一通り払い終わったところで一台の軽自動車がすぐそばに派手に水飛沫を上げながら停車した。ウインドウが開いて運転席の男が顔を出し「待たせたな蜜柑。乗れよ」とこちらに目もくれずに、水気を払ったばかりのレインコートを再びずぶ濡れにした人に向かって話しかける。蜜柑と呼ばれたその人は、無言で助手席側に回り込むと乱暴にドアを閉めると、車はそのまま勢いよく走って行った。
     猫は寒いのか、私の脇に頭を捩じ込むようにして、全く腕から降りようとしない。さっきまであの人に抱かれていた時の暴れっぷりを思い出す。猫はこんなにかわいいのにねえ、と話しかけてみる。
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