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    緋夏✌️

    @Higa_374

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    緋夏✌️

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    何も書けないので2.1前に書いたトパチュリのバレンタインネタをこちらにも……
    片想い→両片想い→両想い
    になるハピエン甘々短編です

    注意
    没ったやつです
    確認してないから誤字脱字多いかも
    捏造パラダイス
    尻切れトンボ

    遠回り なんとか午前で昨日までの出張の報告書が仕上がり、今日はもう退勤しても良いとの指示を受けた。散らかしてしまったデスクを片付け、荷物をまとめて退勤する途中、妙に社内……それも女性陣が色めき立っていることに気がついた。男性社員もまた、どこかソワソワした様子だ。何かイベント事があっただろうか、とスマホで日付を確認して、今日がバレンタインの前日であることに気がついた。
     とある星が発祥のイベント。元々は身近な人に感謝を伝える日だったそうだが、どうにも製菓会社の思惑に乗せられ、好きな人にチョコレートを贈る日になってしまったらしい。私も、日頃の自分へのご褒美に高価なチョコレートを予約注文していた。

     もうそんな時期か、と日々の忙しさに思わず溜息を吐いてしまう。気がつくと一日どころか一週間、二週間と経っている。休みも不定期であるため、日付感覚が狂ってしまいがちだ。
     明日は今日なんて比にもならない程に浮かれムードに包まれることだろう。部下がミスを多発したりしなければいいのだが、と去年のトラブルの数々を思い浮かべる。
     告白してフラれたのか涙を浮かべながら仕事を行う社員に、チョコレートを一つももらえなかったと嘆く社員、受け取ってくれないと泣くよ?なんて言いながら市販のチョコレートを押し付けてくる同僚……。

    「明日休もうかな……」
    「本命から貰えなくて落ち込んでるのかい?」
    「そんなわけないでしょ」

     やぁ、と商談帰りらしいアベンチュリンに声をかけられた。例の、毎年市販の高級なチョコを押し付けてくる同僚である。

    「君、女性社員にモテるんだから。当日に出勤して受け取ってあげないと可哀想じゃないか」
    「……気持ちは有難いんだけどね。今年からはもう渡さないよう、予め伝えてあるから大丈夫よ。当日の社内のギスギスした空気が嫌なだけ」
    「へぇ、じゃあ僕も今年は断られるのかい?」
    「……はぁ、どうせもう用意してるんでしょ?同僚からは渡してくれるなら貰うし、当然お返しもするつもり」
    「それならよかった」

     どうやら図星らしい。毎年、どれだけ待ったら買えるのか分からないほどのレアモノのチョコを渡してくるこの男のことだから、もう既に用意してしまっていたのだろう。苦手な相手とはいえ貰えるものは有り難く貰うし、お礼としてそれなりのものをホワイトデーに渡すつもりだ。

    「そうだ。君、確か今日はもうこの後は休みなんだって?」
    「そうだけど、それが何?」
    「実は今年、手作りのお菓子を渡そうと思ってる人がいるんだ」
    「へぇ。まさか、そのお菓子作りを私に手伝って欲しい、なんて言わないよね?」
    「流石はマイフレンド。相思相愛ってやつかな?」
    「……」
    「冗談だよ」

     そんなに嫌そうな顔をしないでよ、と宥めてくるアベンチュリンに、思わず本日二度目の溜息を吐いてしまう。まあ数えている限りだから、仕事中を含めれば本当はもう少し溜息を吐いているけど。
     それにしても、手作りお菓子か。まさか目の前の男が、手作りを……。あまりの衝撃に、面倒事に巻き込まれたくない気持ちと、この男と極力関わりたくない気持ちが、好奇心に負けてしまう。

    「市販のものですら、同僚以外のものは受け取らない君が?」
    「……、そうなんだけど、どうにも伝わってないみたいでね」
    「メッセージカードでも添えたら?」
    「それは、ちょっと……」

     痛いところを突いてしまったらしく、困りましたと言わんばかりに眉と口角が下がる。いちいちあざとい。
     いつもの仕返しを兼ねてるとはいえ、少し揶揄いすぎてしまったかなと、そろそろ引くことにする。恋心というものはデリケートだから、あまり他人に茶化されると傷付いてしまう。

    「まあいいけど。で?何時に何を持って、どこに行けばいい?」
    「いいのかい?」
    「面白そうだから」
    「そっか、ありがとうトパーズ。それじゃあ──」

     言われた時刻と場所をメモし、まだ仕事が残っているらしいアベンチュリンと別れる。彼の足音が聞こえなくなる頃には、嵐が去った後のように廊下は静寂に包まれた。
     これだけ立ち話をしていても誰一人として通り掛からない人気のない廊下で、よくもまあ一人であそこまで騒がしくできるものだ。
     ムードメーカー、と言っていいのかわからない。少なくともアレが素ではなく、わざと明るく振る舞ってることくらいはわかる。

     話の途中、ふとした時に本人の口から、真偽不明の情報が語られることがある。彼がカンパニーの奴隷であり、死刑囚であることは石心に選ばれた時に聞かされていた。だから、最初はかなり警戒した。
     軽薄な立ち居振る舞いで、お金だけが信用であり信頼できるものであるという言動。「僕のことは好きに使っていい」なんて自己紹介。とにかく胡散臭くて、警戒する以外の選択肢なんてなかった。
     それでも、少なくとも恩人が選んだ一人なのだからと歩み寄る努力はした。先輩としての教えは適切で、困った時にそれとなくアドバイスをくれたりした。歳が近いこともあって、次第に彼に対する警戒心は薄れていった。

     そんな時、身の上話を少し聞く機会があり、彼の言動の理由が分かった気がした。本当は誰よりも他人を警戒し、その心を許さない。胡散臭い言動をして、必要以上に自分の懐へと他者を寄せ付けないようにしていたのだろう。
     もしかしたら、案外それは私のただの思い込みかもしれない。良くしてくれた同期を疑いたくなくて、そんな風に自分に言い聞かせてるだけかもしれない。
     それでも、少なくとも彼が常に気を張り続けているのだけは本当であると思う。マイフレンドなんて言うけど、少なくとも、私に気を許していないことはわかる。彼の恩人でもあるダイヤモンドにさえ、本当に心を開いているかどうか。

     そんなアベンチュリンに、心が許せる人が居るのだとしたら、同僚として少し嬉しく思う。孔雀は夜間は木の上で眠るが、そんな彼にとっての止まり木があるのだとしたら、好奇心が元とはいえ、応援したくもなってしまう。

     私も絆されたかな、なんて、一つ大きく伸びをして、帰路に着いた。

    ──

     アベンチュリンに指定された時間、指定された場所に到着し、チャイムを鳴らした。すぐにバタバタと忙しない足音が聞こえてきて、ドアが開いた。
     中から出てきたアベンチュリンの格好に、思わずその場で固まってしまう。三角巾にエプロンという、何らおかしいことはない格好なのだが、彼がそれを着ているという状況に困惑してしまった。

    「……そんなに変かなぁ」
    「あぁいや、珍しいなって思っただけ」
    「そう?君の分も用意してあるから安心して」
    「ありがとう」

     細かな気遣いは出来るんだよな、と部屋の中にお邪魔する。普段は使ってない部屋らしく、まとまった休みが取れた時だけ帰ってくるとのこと。
     確かに生活感はあまりなく、高級なホテルのVIPルームのような雰囲気だ。キッチンはカウンタータイプで、程よい広さのリビングが一望できる。テーブルの上に購入したであろう材料が一式と、読み込まれたであろう痕跡の見えるレシピ本が一冊置かれていた。
     手渡されたエプロンと三角巾を着用し終えると、不意に閉じられたままのレシピ本を手渡された。まさか、とレシピ本から顔を上げると、スッと目を逸らされてしまった。

    「どれを作るかも、決めてないと」
    「……どれが良いかなぁ」
    「そのお相手の好きなものとか、逆に嫌いなものとかは?」
    「それが、あまりよくわからなくて困ってるんだ。君が食べれるものなら、多分その人も食べてくれると思うんだ」
    「……」

     仕方なくレシピ本の目次を開く。『料理研究家の選ぶバレンタインのレシピ20選』というタイトルの通り、20種類のレシピがズラリと並んでいた。
     完成写真をぱらぱらと見ていくと、確かに全部魅力的に思えて、選ぶのに苦労してしまう。アベンチュリンが用意した、購入した材料と分量をまとめた紙を確認すると、一応ここに載っているレシピは全て作れるようだ。本当に迷っているらしい。
     バレンタインは明日だから冷蔵保管をすれば日持ちはそこそこで大丈夫だろうけど、相手に中身がなまものであることを伝えるのは少し難易度が高いような気がする。メッセージカードすら恥じらうような乙女には尚更だろう。
     チラリとアベンチュリンの方を見ると、手持ち無沙汰でソワソワした様子の彼と目が合った。前髪を留めているせいか、なんだかいつもよりも幼く見えた。

    「渡すとなると、生菓子よりは焼き菓子の方が良いでしょうね。このマドレーヌとフィナンシェとか、どうかな。失敗もしにくいし」
    「君がそう言うならそれにしよう。必要ない物を片付けるね」
    「私はどれくらい手伝えば良いの?」
    「あぁ、レシピを読み上げてくれるだけで大丈夫だよ。あと、工程でわからないところがあったら、ネットで調べてもらえると助かるな」
    「了解」
    「あ。あと、試食」
    「はいはい」

     使わない材料を適当にキッチンテーブルの下に仕舞い込んだアベンチュリンが、「それじゃあ始めよう」とマスクをした上でフェイスシールドをし、ゴム手袋をはめる。そこまでするんだ、と思いながらも、自分がもらう立場だったら確かにこれくらいしてくれた方が安心かもしれない。

    「それじゃあまず全部計量して。やり方はわかる?」
    「はは、流石にそれくらいは分かるさ。分量は?」

     レシピに書かれている分量を、アベンチュリンのペースに合わせて読み上げていく。意外にも手際が良く、計量ミスの様子もない。彼に対するイメージを少し改めなければ、と思いながらその一部始終を見守った。

    ──

     粗熱をとったマドレーヌとフィナンシェに、最後の仕上げとしてチョコレートをコーティングし、ドライフルーツなどのトッピングを乗せ、なんとか完成に至った。
     途中、メレンゲの七分立てがどの程度か分からず二人揃って疑心暗鬼に陥ったり、焦がしバターの焦がしが足りなかったり、今度は焦がしすぎたりと、所々ハプニングに見舞われた。それでも、完成したものは少々不恰好ながらも、人に見せても──それこそ、想い人に見せても恥ずかしくない出来だ。もしこれを笑うような相手ならやめてしまえ。

    「あとは冷蔵庫で冷やして、ラッピングするだけね。その間に片付けようか」
    「……はぁ、流石に疲れたよ。こんな工程をほぼ毎日こなしてる製菓業の人達は凄いね」
    「結構ブラックだって聞くけど、そういうと私達も大概だよね」

     疲れた〜、とフェイスシールドとマスクを外しながら椅子に腰掛けるアベンチュリンは、だいぶ疲れた様子だった。普段使わない筋肉を使ったことだろうし、緊張もしていただろう。
     片付けを終え、冷蔵庫を確認するとコーティングしたチョコレートは既に固まっていた。試食後、再び厳重な装備をしたアベンチュリンが、アドバイス通りにラッピングしていき、最後に良い感じに箱に詰めて完成した。

    「冷蔵庫に入れていて、パサついたりってしないのかな」
    「一晩くらいなら大丈夫。ラッピングもしてあるし」
    「そっか。それならよかった」

     達成感を滲ませた声でそう呟く彼の顔を見ると、その特徴的な瞳から愛しさのような感情が見て取れた。その視線の先にあるのはラッピングしたお菓子で、これを贈る相手のことを彼がどれだけ愛しているのかが嫌というほど理解できた。微笑ましさを感じると同時に、ほんの少しモヤっとした。胸の奥につっかえる様な違和感。
     気のせいかな、と帰り支度を始める。気がつけばもう二システム時間半も経っている。もう半システム時間後までに部屋に帰って、みんなにご飯をあげなければ。カブも今頃拗ねていることだろう。

    「今日は本当にありがとう。お礼なんだけど」
    「要らない。用意したチョコを明日くれたらそれで良いから。それじゃあ、上手く行くよう願ってる」
    「うん。それじゃあ気をつけて。また明日」

     部屋まで送る、という申し出を断り、一人帰路に着く。エントランスから外に出ると、ひんやりとした空気に晒される。
     あの、胸の奥のモヤつきはなんだったんだろうか。初めての感覚だが、先月受けた健康診断で異常は無かったはずだ。今日は早く寝よう。明日のスケジュールは普段と比べるとだいぶ余裕があるとはいえ、一分一秒でも長く、寝れるだけ寝たい。

     夕暮れの街は、普段よりも甘い香りに包まれている気がした。

    ──

     翌日、時間通りに出勤すると、丁度アベンチュリンと出会した。概ね狙ってのことだろうけれど、昨日のこともあって不快感は感じなかった。

    「おはようトパーズ。昨日はありがとう。これが今年の分だよ」
    「ありがとう。お礼は例年通りでいいよね?」
    「あぁ、楽しみにしてるよ」
    「それで、本命には渡せたの?」
    「……あぁ、うん。もちろん」
    「?」

     一瞬の違和感。普段から痛いところを突かれると一瞬黙る癖があるが、その反応と似ているようで似ていない動揺。渡せたのは本当だろうが、来年からは要らないとでも言われたのだろうか。良くない想像が脳裏を過ぎるが、決めつけるのは早計すぎる。何より、ただの気のせいかもしれない。

    「それじゃあ僕はこれから会議だから」
    「わかった」

     そそくさと足早に去っていくアベンチュリンの背を見送り、自分のオフィスへと向かう。その道中、「食べ物じゃないなら良いですか?」という女性社員数名から、使い捨てのアイマスクやら、入浴剤やらの差し入れを貰った。まあこれくらいなら良いか、と渡してくれた社員たちをメモしておき、お返しのことを考えた。

     昼過ぎ、仕事にひと段落がついた頃、小型冷蔵庫からアベンチュリンに渡された紙袋を取り出す。例年よりも少し大きめで、本来ならば喜びを感じる筈なのに、胸の奥のモヤモヤは昨日から大きくなっていくばかりだ。
     昨日、彼が見せた愛おしげな瞳。それを向けられる相手がいて、それは私じゃないのだと思うと、苦しくなってくる。よく考えずとも、間違いなくこれは嫉妬だ。いつの間にか、随分とあの男に絆されてしまっていたらしい。

     彼の死刑は保留になっているだけだ。博戯の砂金石のおかげで、延命できているだけにすぎない。彼の身に何かあれば、おそらくすぐにでもそれは執行されるような状態。
     彼もそれを誰よりも分かっているから、直接気持ちを伝えられないでいるのだろう。相手の負担になってしまうことを、分かっているから。
     それでも、その相手が私だったのなら、残された時間が僅かだったとしても、その時間で……。いや、相手のことを詳しく知らない私が、彼の想い人を悪く言うなんて良くない。この気持ちはそれこそ、墓場まで持っていこう。

     決意を固め、紙袋から箱を取り出した。そして思わず固まってしまった。

    「──は?」

     見覚えのある箱。箱を縛るリボンにも見覚えがある。金色のスートのモチーフが用いられた緑色の箱に、質の良い金色のリボン。
     まさか、渡す相手を間違えたのでは、なんて考えは、リボンに挟まれた『トパーズへ』と書かれたカードによって即座に否定される。

     震える手でリボンを解き、恐る恐る箱を開くと、確かに昨日彼が作るのを目の前で見ていたマドレーヌとフィナンシェが並んでいた。間違いない。
     緩衝材の間に挟まれたメッセージカードを見つけ、それを読むと同時に、おそらくここ数年で一番大きな溜め息が出た。
     どこまでも遠回りで不器用なアベンチュリンと、この思わぬ展開に喜び、安堵してしまっている自分自身に対して。

    ──

    昨日はどうもありがとう。君のおかげで納得のいくものが作れたこと、感謝しているよ。
    君に手作りのものを渡そうと思うと、この方法しかないと思ったんだ。
    いつもありがとう。

    ──

     様々な感情が溢れ出して止まらなくなる。嬉しさ、安堵、愛しさ、それと少しの怒り。狙ってやっているのなら、本当に性格が悪いと思った。あんな顔を見せて、あんな姿を見せて、遠回しな告白としか受け取れないようにして。策士にも程がある。地盤をしっかり固めて、その上で賭けに出るのがあの男だということを、すっかり失念していた。

     この可愛らしさのカケラもない告白に、どう返答してやるか、しばらく悩むことになるのだった。
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