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    緋夏✌️

    @Higa_374

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    緋夏✌️

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    2.0時点妄想
    両片想いだったレイチュリが結ばれ、その日のうちにお別れする話。

    戦闘中に髪の毛切れちゃった系のネタを考えていたところ思いついた話を書き殴ったら髪の毛ネタが関係なくなっちゃった(´;ω;`)
    umnkにめっちゃインスパイアされてます

    小さな魔法 それは突然のことだった。突如、レイシオの元にアベンチュリンから「会いたい」との連絡が来た。日時は指定されており、指定された時間にはちょうど少しの空きがあった為、その誘いを受けることにした。
     仕事の話か、また何か厄介な案件の手伝いの打診か。ピノコニーのことを思い出して頭が痛くなりつつ、まだそうと決まったわけではないため、「了解した」とだけ返信をした。

     当日、レイシオが指定された時間に指定された場所へ向かうと、そこには少し雰囲気の変わったアベンチュリンの姿があった。ほんの僅かな変化ではあるが、彼特有のギラギラとした眩しさは何処へやら、輪郭が薄いような、そんな儚さを感じさせた。ただ、それは一瞬のことで、レイシオに気づくといつも通りの雰囲気に戻った。
     よく見ると、少し伸ばされていた襟足が、後ろ髪と同じ程度に短く切り揃えられていた。おおよそ、戦闘中に切れたり、焦がしたりしたのだろう。存護の運命を歩む彼ならば、あり得ない話ではない……、と思った矢先。レイシオが何も言わないうちに、アベンチュリンはその答え合わせをした。

    「失恋して髪を切ったんだけど、似合ってるかなと客観的な意見を聞きたくてね」

     そんなことを言いながらいつも通りの胡散臭い笑顔を浮かべるアベンチュリンに、やはりほんの少し違和感を感じる。その“失恋”とやらの影響かは分からないが、どこかしおらしく見える。煩わしくないのは良いことであるが、なんだか調子が狂うなと、レイシオは小さく溜め息を吐いた。
     彼の仕事は外見による第一印象が重視される内容が少なくはない。第三者に自分の見た目の印象を確認することは何らおかしなことではないが、よりにもよってなぜ自分なのかと疑問に思う。部下は忖度するだろうが、彼の同僚であればズバズバと容赦なく客観的な意見を言ってくれるだろうに。聞いた上で、外部の人間の意見も聞きたい、ということなのだろうか。

    「印象に殆ど変化はない、気にする必要はないだろう。話は終わりか?」

     え、あ、うん。とアベンチュリンは同意し、礼の言葉を投げかけてくる。レイシオはこの後の用事のことを考えながら、技術開発部へ向かおうとしたが、その袖をクイ、と控えめに引かれたことで立ち止まった。この部屋には二人しかいないのだから、誰がそんな行動をしたかは確認せずとも分かる。
     それでも普通ではないその行動に振り向けば、引き留めた当の本人も無意識のうちの行動だったのか、驚いたような表情を浮かべていた。すぐにそれはいつもの笑みに戻り、パッと手を離し「ごめん」と謝られる。

    「なんでもないよ。話は終わりだから、君は開発部の方へ行くといい。この後ミーティングの予定が入ってるのは知ってるから」

     引き止めてごめん。そう謝罪してアベンチュリンはレイシオを部屋からそれとなく追い出そうとする。けれど、今の彼の行動でその違和感を確信したレイシオはその場から動かない。徐にアベンチュリンの手を取り、僅かな震えを感じ取ると、ただ髪の長さが似合ってるかどうかの確認をするだけに呼び出したのではないことに気付く。最悪の想像に蓋をし、その特徴的な瞳を見据えれば、僅かにたじろぐのが見えた。

    「……本当に、なんでもないんだ。もうこんなことはしないから、勘弁してくれないかな?」

     自分の呼び出しのせいで予定に遅れたとなれば、技術開発部の連中に文句を言われかねないからと、アベンチュリンはレイシオに退室を促す。今度は穏便なものではなく、無理矢理にでも部屋から追い出そうと、鋭く睨みつける。手を振り解こうとするが強く握られているせいで、アベンチュリンの力ではブンブンと振り回すことさえできない。

     もうこんなことはしない、という言葉でレイシオが蓋をした筈の最悪の想像が溢れ出してくる。推理ですらない、ただの想像。ミステリーならば御法度だと怒られるであろう思考。

    「君、まさかもうすぐ──」
    「言わないでくれ」

     普段よりも強い語気のアベンチュリンの声によって、その言葉は遮られた。ぐらぐらと不安定に揺れる瞳を前に、これ以上はもう言わずとも聞かずとも分かると、口を噤む。これ以上は無粋だと。それを暴いたところで、彼も自分も何も得られない、何も幸せになれることはないのだと、レイシオは察した。
     記憶喪失にでもならない限り、知的生命体は知ることはできても、知らないことはできない。知ることは不可逆であり、何かを知れば知るほど、ありとあらゆる余地が失われることは嫌というほど理解している。それは一長一短といえど、今この瞬間、この事実については無理矢理にでも暴き、確定させる必要が一切ないことは確かだった。

    「僕は、しばらく君と会えなくなる。遠くの星系への出張でね、大きな案件だから帰れるのはいつになるか分からないんだ」
    「……」

     それが嘘だということはすぐにわかる。真実に気付いてしまったレイシオを傷つけないための、優しい嘘。ポーカーフェイスも崩れ、声も震えている。それだけ、この選択には勇気を要したのだろう。

     伝えないか、正直に伝えるか、バレバレな嘘を吐くか。伝えずとも、どこかしらから伝わるだろう。伝えれば、ほぼ確定でレイシオはそのまま受け取るだろう。そして、嘘を吐くのは賭けで、受け入れるか受け入れないかの二択。
     アベンチュリンは、嘘を吐く選択をした。そして、受け入れてくれることに賭けた。どれを選ぼうと最終的な結果はきっと変わらない。レイシオにとっては、きっと、厄介なビジネスパートナーが一人消えるだけ。奇跡も希望も無いけど、それでも、少しだけでも奇跡に賭けてみたかった。
     だって──。

    「僕は、君のことが好きだ。経験が浅いから、それがLoveなのかLikeなのかは分からなくて申し訳ないんだけど……」
    「返事は、した方がいいのか」
    「しなくていいよ。君がしたいのであれば、止めはしないけどね」

     ──彼が、どうしようもなく好きだから。
     自分のことなんて忘れて、今まで通りに過ごしてほしい気持ちと、忘れないで一生引きずってほしい気持ちがあった。
     返事はいらない。この賭けの結果は、シュレディンガーの猫の、箱の中の猫のように、レイシオの心の中にだけしまっておいてくれたら良い。そうしたら、希望や奇跡の余地が残るから。優しく聡明なレイシオならば、たとえ自分のことを嫌っていたとしても、それくらいは察してくれると思った。察して、配慮してくれるだろうという、無意識の内に期待をしてしまっていた。

    「もし君が、僕のことを好ましく思ってくれているのなら……、僕のことを覚えていてほしい。君のその貴重な記憶の容量を、少しだけ僕にくれないかな」
    「……、わかった。君がそれでいいのなら、僕は君の意思を尊重しよう」
    「ありがとう、教授」

     アベンチュリンの予想通り、レイシオはそれを察して受け入れた。自分の心の底に、箱にしまって閉ざすことを選んだ。それでいい。

    「今晩、発つんだ。最後に君に会えて良かったよ」

     それじゃあね、レイシオ。と、そう言おうとした時、レイシオが意を決したように口を開いた。その口から溢れた予想外の言葉に、アベンチュリンは思わず固まる。

    「──」

     意図せず知ったアベンチュリンのかつての名で呼べば、少しの間を置いて破顔した。薄っぺらく胡散臭いものではない。歳相応の、むしろ実年齢よりも幼さを感じさせる柔らかな笑み。困ったような、けれど喜んでいるような、そんな珍しい表情を見せた。

    「……、ッハハ、それじゃあ実質返事みたいなものじゃないか。あーあ、せっかく確定させないでおこうと思ったのに」

     でも、奇跡が起こったならまあ、いいや。
     今日、この場だけでいくつかの賭けをしていたけれど、勝ったり負けたりと大忙しだ。レイシオと過ごす最後が、こんなにも波瀾万丈だとは思ってもみなかった。予想外の展開の連続に、アベンチュリンは顔を綻ばせる。

    「ねぇ、ベリタス。最後に一つだけ」

     邪魔をするかのように、不意に部屋に鳴り響くコール音。レイシオはそれをノールックで切り、そのまま仕事用の通信機器の電源を落とす。そして、控えめに紡がれるその言葉に耳を傾ける。着飾っていたものを全て取っ払った、本当のアベンチュリンの声と言葉を、一言たりとも聞き逃したくはなかった。
     少しの躊躇いの後、アベンチュリンはレイシオを見上げながら瞳を閉じた。これ以上は何も語る必要はない。レイシオはそれに応え、彼の身体を優しく抱きしめる。触れるだけのものでも、二人には十分だった。

     名残惜しさに後ろ髪を引かれながらも、二人は別れた。お互い、永遠の別れになることは分かっているが、それを表には出さない。いつも通りに振る舞う。それが、お互いにとってのベストであるから。

    「また協力が必要になったら連絡するね」
    「協力するかどうかは、君の態度次第だ。忘れるな」
    「酷いなぁ、恋人同士だろ?」
    「公私は混同しない」

     それじゃあ、とお互いに反対の方向へ向かって歩き出す。

     何が起ころうと、この世界が存在する限り、時間は進み、陽は沈み、夜は明けていく。誰が泣こうが笑おうが、そんなことは関係ないと、日々が訪れては過ぎ去っていく。何も変わらない一日が待っているだけだ。
     移りゆく時の中で、周囲の人々がどんどん変わっていくのは当然のこと。今までも、これからもそう。来る者もいれば、去る者もいる。そのうちの一人が、今回はアベンチュリンだった、というだけの話だ。

     それでも、レイシオにとってこれは永遠の別れではない。信じ続ける限り、きっといつか、アベンチュリンがひょっこりと帰ってきて、また煩わしくピーチクパーチクと囀る可能性は消えない。奇跡は、信じれば必ず起きるというものではないが、信じなければ絶対に起こらないことだけは確かだ。
     だから、アベンチュリンは真実をそっと箱にしまった。そしてレイシオも、その受け取った箱の蓋を開けない選択をした。嘘を嘘と分かりながらも、その嘘を信じた。お互いに、お互いへの愛があるからこその選択だった。
     優しい嘘と、それを受け入れる愛と、ほんのちょっぴりの呪い。切なくも暖かいそれを魔法と呼ぶのなら、これはきっと小さな魔法だろう。

     レイシオは少しの喪失感を胸に、とうに開始時刻の過ぎてしまった技術開発部とのミーティングへ向かうのだった。
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