梅の木で逢いましょう 04 俺の好きな奴には、その両手で抱きしめるほどの世界がある。
朝起きておはようの声とともに、腹の減るような米の匂いがする。飯椀を無言で押し付ければ、にこやかな笑顔とともに炊き立てのご飯がこんもりと返って来る。アイツが洗濯物を干せば、調子の外れたよくわからない唄を口ずさむ。あまりにも楽しそうなのでそれを茶化すものもいない。
そのあたたかな、郷愁すら呼び起こしそうな温もりのあるやさしい世界。それはアイツにはよく似合っていると心から思う。光忠はそんな世界に必要とされている。
だから――そんなお前の、”世界”を取り上げることができたらなんて。
俺は一体、何度その傲慢を思い描いて来たことだろうか。
活気のある宴会部屋を離れ、縁側の廊下を伝って静かな自室へと帰って来た。
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