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    kuusui

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    スープジャーのくりみつ01
    保温できるスープジャーはいいぞ!という話の影に匂う現パロ会社員くりみつのお話。大倶利伽羅さん本人は出て来ないので燭台切呼び。続き物で今回は光忠さんと御手杵君と乾燥エビと海苔のおかゆ(中華がゆテイスト)のお話。

    ##くりみつ
    ##スープジャーのくりみつ

     会社には色々な人が集まる。それは仕事が出来る出来ないに関わらず、仕事という山を乗り越えるごとに見えて来る素顔のようなものかもしれない。
     御手杵はこの会社に勤めて数年経っているが、大抵の人とはすぐ打ち解けられる性質を持つ。御手杵自身は大して仕事はできないと思っている。けれど気安く怒られたり、また困った時に拝み倒したりといったことを繰り返すうちに、元々の気質もあってそういうタチになってきたのかもしれない。けれど同じフロアにいる違う部署の二枚目の先輩、燭台切さんとはいまいち馴染めない。
     燭台切さんは美術品のように整った顔を持つ、いわゆるイケメンという奴だ。青鈍色を纏う美しい黒髪がその右目を隠しており、浮世離れした美貌からどこか近寄りがたさを御手杵は勝手に感じてしまう。けれど彼とたまたま目が合ったりすれば、人好きのする顔で気持ちのよいほどよく笑ってくれる。だからきっと普通にいい人なのだと思う。問題はその後だ。
     イケメンである彼が笑うと、周りの女性が彼にむける熱の籠もった視線もセット販売される。その空気が御手杵には馴染めない。ごく平凡な日常に身を浸して来た御手杵は、市井の人として穏やかに暮らしていきたい。結果、身の置き所がないような困った笑みで、申し訳なさそうに会釈を返すしかない。そして足早にその場を立ち去るのがいつもの常であった。
     しかし今日はツキがない。いやツキはあったのだと御手杵は主張したい。
     昼の時間になったので喜び勇んでコンビニに行き、一番人気の油淋鶏パスタをなくなる前にゲットできた。だからツキはあったのだ。
     喜び勇んで休憩スペースにそれを持ってきた時、そこに美術品のはずの彼がいた。全くもってツキがない。けれどキョロキョロと辺りを見渡せば、まだ昼休憩は始まったばかり。人もまばらでお昼をいつもここで食べる若い女性グループも、今日は外で食べているのかここにはいない。
     美術品は多くから選ばれ、飾られ、そして皆に称賛されるのが仕事。でも今日はその賞賛する人々はあいにくいない。だから今は美術品も美術品の周囲も沈黙で保たれている。ならばと御手杵は気になっているとあるものをこっそり覗こうと思った。
     彼はいつもまるで彼女が作ったかのように繊細で手の込んだ弁当を持って来ている。御手杵も彼の春巻きや、照り焼きが入った弁当を見るだけで、よだれが滴るほど凝視したこともある。今日もそうだと思い、彼のテーブルをちらと覗き込んだ。
     するとどうだろう。御手杵から見れば豪華に見えたその弁当がなく、なぜか彼の目の前には妙に口の広い水筒のようなものがある。御手杵がいつでもつまみ食いしたいと思っていた味の濃いおかずもそこにはない。それに小さな木のスプーンを突っ込んで、その薄い唇にお上品に運んでいる。わざわざ水筒にスプーンを突っ込んで中の飲み物を飲む奴がいるだろうか。御手杵がそう不審に思い、凝視しているとそれに気付いた燭台切が声を掛けて来た。
    「あ、御手杵君もお昼かな?」
    「お疲れ様でーす。そうです。今日はコンビニでパスタゲットできたから、ここでご相伴に預かろうかと」
    「どうぞどうぞ。でもそんな年も変わらないんだし、敬語はやめてよ。御手杵君」
     燭台切は向いの席を勧めてくれた。別の席に座るのもおかしいと思った御手杵は、その手に勧められるまま燭台切の向いの席へと座った。
    「それならありがたく。にしても燭台切さん弁当じゃないんだな」
    「ああこれね、実は僕のお弁当なんだ」
     御手杵は目を瞬く。水筒が弁当になるなんて初耳だ。
    「へっ、これ水筒じゃないのか?」
     いつもの見ているだけでよだれが出そうな弁当ではなく、ただの水筒があるようにしか御手杵には見えない。混乱する御手杵を前に燭台切は訳知り顔でふふふと笑う。
    「そう見えるよね。保温できるから機能は一緒だね。スープジャーって知ってるかい?」
     赤い色をした水筒らしきものを指差しながら燭台切は嬉しそうに話し出す。
    「いや、聞いたことないなあ。それ珍しい形の水筒だなあとは思ったけど」
    「ふふふ、温かい料理を温かいまま、冷たい料理を冷たいままに持ち運べる。それがスープジャーなんだ。だから魔法瓶の水筒と機能は一緒だよ。もとはと言えば、作ったスープを温かいまま運ぶために作られた魔法瓶の一種なんだけど……あ、こんな説明は退屈だったよね」
     うっかりしゃべり過ぎてしまったと口をつぐもうとする燭台切に、御手杵はとても好奇心をそそられた。打てば響くように話してくれるさまに気にならない方がおかしいのだ。別に燭台切に苦手意識を抱いていたわけではない。確かに近寄りがたさは感じていたが、今までその機会がなかっただけのこと。この機会に気になることは聞いてしまえと御手杵は口を開いた。
    「へえ、俺知らなかった。そんな便利なものあるんだな」
     素直に話を聞く御手杵に悪い気はしなかったのか、燭台切もそのまま御手杵の顔色を伺いつつ、ぽつぽつと話を続ける。
    「そう、今日はね。中華がゆテイストで作って来たんだ。ちょっと好奇心で海苔をいれてしまったから見た目はよくないけど、乾燥エビが入っていて美味しいよ」
     ほらと食べていたスプーンを置き、容器を傾けて御手杵に見せてくれた。確かに海苔が入っているため見た目はよくないが、所々に散らばる赤い乾燥エビの姿に少しそそられる。
    「おぉ! うまそうなおかゆだなぁ」
     自分で買って来た弁当も勿論美味しいとは思っているが、それとは別に人の物を素直に喜べる。それは御手杵のいいところなのかもしれない。そんな御手杵の顔色を見て安心したのか、燭台切は口火を切るように話し始めた。
    「そうでしょう! しかもこれ、スープジャーの中で生米からお粥にまで調理できるんだよ」
    「え、これ燭台切さん自分で作って来たんですか!」
     驚く御手杵に燭台切は何の気なしに笑って言う。
    「そうだよ、僕料理作るの好きなんだ」
    「ということは今までのあのうまそうな弁当も自分で!!」
     カリカリして具のたっぷり入った切り口の綺麗な春巻きも、色濃く照りのついた照り焼きも。燭台切の美しい彼女が作ったわけではなく、本人が。その事実だけで食欲旺盛な御手杵には神様のように見えてきた。
    「そうそう。何でだろうね、そう言うといつも皆びっくりするよね」
     ふふふと笑って何事でもないように燭台切さんは言った。
    「でも最近仕事が忙しくて残業増えちゃったから朝作る時間なくなっちゃってね」
     燭台切はイケメン面ではなく素を見せるように眉を垂らし、困ったように笑う。そう言えば最近燭台切さんの部署は多忙なのか、帰りが妙に遅かった。具体的に言えば御手杵が帰るよりも前に燭台切さんが帰るところをみたことがないほどだ。
    「そういえば最近帰り遅いよなぁ」
    「新人君も入ったし、面倒な仕事も来たし、まあ理由は色々あるけど仕事だから仕方ないよね。でもお弁当くらいは作りたいなと思っていたら、知り合いがこのスープジャーのことを教えてくれてね。それからお弁当がとっても楽になったんだ」
    「へえ、でもスープジャーでどうやってお粥にするんだ?」
     燭台切が自分で作って持って来たということも気になるが、そもそもスープジャーという容器だけでどうやってお粥を作るのかということも気になるところだ。門外漢の御手杵には火を使わないで料理など出来るものかと想像もつかない。そんな素朴な疑問に燭台切は丁寧に答えてくれる。
    「これは言った通り魔法瓶だからお湯を入れておけば一定の温度を保つことができるんだ。それを利用して朝持ってくる時に生米とお湯と具をスープジャーの中に入れておけば、お昼ご飯の時にはお米がお粥になっているっていう寸法さ」
     すごいでしょう、とまるで他人をほめるかのように燭台切さんは笑って言う。それを作って来たのは燭台切さんのはずなのに。
    「へえ、今時そんなことも出来るんだぁ」
     御手杵は自分の買って来たパスタを食べながらも興味深く話を聞く。聞けば聞くほどよっぽど誰かに話したかったのか、はにかむように嬉し気な様子をみせて燭台切は話してくれる。その様子をみるといつもの美術品のように整えられた彼の姿は途端に氷解する。近寄りがたさというものなんて今は感じない。この変わりぶりは何だろうと思う。御手杵には難しいことは分からない。でも本当に嬉しそうに話すなということは嫌でも感じられたし、こちらの燭台切の方が圧倒的に好感を持てた。
    「そっかそっかあ。そりゃよかったな」
     前まで弁当を食べている時は確かに凝った弁当ではあった。しかしその顔には楽しさを感じられず、整った美術品の奥底に感情を閉じ込めているような底のなさがあった。
     今の燭台切は確かに忙しそうにしてるし、簡単に作れる弁当に切り替えてはいる。でも前の何を考えているか分からない感じはしない。それに弁当は相変わらず美味しそうだ。
     楽し気にスープジャーのことを話し出す燭台切を見て、御手杵は言う。
    「俺、今の燭台切の方が好きだなぁ」
     その瞬間だった。御手杵は何故か背中にゾクリとするものを感じる。一般的に寒気がするというものだろうか。御手杵は物分かりは悪いかもしれないが動物的な勘は鋭い方だと思っている。
    「そうかい。君にそう言われると何だか嬉しいな」
     スープジャーの話が認められたことが嬉しいのか、燭台切は綻ぶように微笑む。けれど御手杵は感じる。そのたびに周囲の温度が冷えていくことに。
     スープジャーの中のスープは保温されているから温かいままのはず。なぜかそのまわりの空気に異様に寒気を感じるのだ。やっぱり今日はツキがないのだと御手杵は項垂れる。
    「じゃ、じゃあ俺もう行くな。話してくれてありがとな」
     見えない何かを感じ、そう言って立ち去ろうとする。すれば燭台切は食べ終わったから僕も机に戻るよとついてきてくれる。どうやらまだスープジャーのことについて話足りないようだ。
     御手杵には好意を示してくれる人を無下にするほど、冷たい心は持ち合わせていない。困ったような笑みを浮かべ、あーと頭を掻いて狼狽える御手杵の姿も見ずに燭台切はテーブルの上を片付けていく。食べ終わった赤いスープジャーも丁寧に片づけ、持って来たランチバックにしまう。そしてそれを大切そうに抱えて持った。そのさまを見て大事にしているんだなと御手杵は思った。
     それと同時に何となく、燭台切さんの持つスープジャーの色が気になっていた。落ち着いた色合いは確かに燭台切さんにぴったりなのだが、赤い色というのが気にかかる。洒落た言葉で言えばワインレッドというのだろうか。職場での燭台切さんは落ち着いた色合いやシックな色。例えば黒とか白とかそういう色をお洒落に着こなすイメージがあった。そこに妙に目立つ赤色は似合わないとは言わないのだが、燭台切さんの物ではないように感じてしまう。違和感といった方がいいのだろうか。
     席に戻る道すがらだからか、もう例の寒気はしない。腑に落ちない心地はどこか落ち着かないが、休憩時間はもうすぐ終わりだ。そろそろ仕事に向けて切り替えなければと、そこで御手杵は考えるのを止めた。
     そして御手杵の席の途中、燭台切の席までくると燭台切はあ、と声を上げる。
     視線をその先へ向けると、燭台切の机の上に彼らしくない何かがある。それは随分と大きなおにぎりだった。ラップで包まれたそれは凝った弁当を作る燭台切さんからしてみれば、随分と不格好な形をしていた。握れば何でもおにぎりだろう、とでもいうような風貌で一応おにぎりとしての体裁を保つためか海苔はついている。燭台切さんが驚きの声をあげていたからきっとこれを作ったのは燭台切さんではない。でも驚いたのちに燭台切さんは嬉しそうにふわりと微笑む。さっきの綻ぶようなものとは比べ物にならない、満開を迎えた花のような笑み。
    「じゃあ、俺も席に戻るな。またな」
     邪魔しないようにそっと声を掛け、御手杵は席に戻る。一応手は振ってくれたものの、燭台切さんは目の前のおにぎりとやらに目線は釘付けだ。
    「燭台切さんがあんな風に笑うところ、はじめてみたなあ」
     御手杵は席に戻る道すがら先程の光景を思い浮かべる。美しく整えられた彼の隙間を見た心地がした。美術品のような彼が素顔を見せたかと思えば、よく分からないこともその分増えた。
     美しい男にはきっと謎があるのかもしれない。それを無理に暴こうとは御手杵は思わない。けれどその謎が彼をより美しくみせているのかもしれない。そう御手杵は静かに思った。
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    kuusui

    TRAINING本丸で光忠のお兄ちゃんの歓迎会が開かれ、そこで日本号との回想が繰り広げられて、それを大倶利伽羅が目撃したというIFくりみつ。光忠回想も合わせて目撃しています。
    梅の木で逢いましょうのお話の続き。
    拗らせ大倶利伽羅さんがその特別に気付いちゃったお話。

    ※ちゃん呼びを最初は嫌がっていたという捏造を含みます。
    ※同室くりみつのいるとある本丸設定のお話。
    梅の木で逢いましょう 04 俺の好きな奴には、その両手で抱きしめるほどの世界がある。
     朝起きておはようの声とともに、腹の減るような米の匂いがする。飯椀を無言で押し付ければ、にこやかな笑顔とともに炊き立てのご飯がこんもりと返って来る。アイツが洗濯物を干せば、調子の外れたよくわからない唄を口ずさむ。あまりにも楽しそうなのでそれを茶化すものもいない。
     そのあたたかな、郷愁すら呼び起こしそうな温もりのあるやさしい世界。それはアイツにはよく似合っていると心から思う。光忠はそんな世界に必要とされている。
     だから――そんなお前の、”世界”を取り上げることができたらなんて。
     俺は一体、何度その傲慢を思い描いて来たことだろうか。
     
     
     活気のある宴会部屋を離れ、縁側の廊下を伝って静かな自室へと帰って来た。
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    kuusui

    PROGRESSスープジャーのくりみつ02
    保温できるスープジャーはいいぞ!という番宣の影に匂う現パロ会社員くりみつのお話。大倶利伽羅さん本人は出て来ないので燭台切呼び。続き物で今回は光忠さんと新入り天江戸組のミネストローネと豆乳スープのつけめんのお話。ミーハー水心子君と観察者清麿君。
    ※ スープの具とか味描写が後で書きなおす時に変更される可能性があります。
     清麿は人の観察が好きである。特に水心子のような人の心の観察が好きだ。
     会社で同僚でもある水心子は、純朴だと清麿は思っている。志が高く自分をいつも律していて硬い表情が目につくかもしれない。そして生真面目で気位が高い嫌いもあるが、彼が頑張っている背中を清麿は好んでいる。反面、その中身はとてもミーハーだ。理想の自分であらねばと願うばかりに、それを体現している存在に非常に弱い。
     例えば職場の先輩、燭台切さんがそうだ。入社したばかりで一通りのレクレーションが終わり、同じ部署に運よく水心子と配属された。そこの教育担当として面倒を見てもらっているのが燭台切さんだ。
     最初は頑なだった水心子ではあったものの、彼の性格に合わせて先輩はうまく自分を曲げて接してくれた。そのおかげで今はその背筋の通った格好良さに憧れを抱き、半ば崇拝者のように慕っている。自分ではひそかに気付いているものの、水心子の心にはまだ柔軟性がない。だからそれを持つ先輩に憧れ、慕っているのだろう。自分にないものに対してそれを得たいと憧れ、それに嫉妬するのでなくただ尊敬の念を向ける。それは相手へのリスペクトを感じると清麿は思う。
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    kuusui

    PROGRESSスープジャーのくりみつ01
    保温できるスープジャーはいいぞ!という話の影に匂う現パロ会社員くりみつのお話。大倶利伽羅さん本人は出て来ないので燭台切呼び。続き物で今回は光忠さんと御手杵君と乾燥エビと海苔のおかゆ(中華がゆテイスト)のお話。
     会社には色々な人が集まる。それは仕事が出来る出来ないに関わらず、仕事という山を乗り越えるごとに見えて来る素顔のようなものかもしれない。
     御手杵はこの会社に勤めて数年経っているが、大抵の人とはすぐ打ち解けられる性質を持つ。御手杵自身は大して仕事はできないと思っている。けれど気安く怒られたり、また困った時に拝み倒したりといったことを繰り返すうちに、元々の気質もあってそういうタチになってきたのかもしれない。けれど同じフロアにいる違う部署の二枚目の先輩、燭台切さんとはいまいち馴染めない。
     燭台切さんは美術品のように整った顔を持つ、いわゆるイケメンという奴だ。青鈍色を纏う美しい黒髪がその右目を隠しており、浮世離れした美貌からどこか近寄りがたさを御手杵は勝手に感じてしまう。けれど彼とたまたま目が合ったりすれば、人好きのする顔で気持ちのよいほどよく笑ってくれる。だからきっと普通にいい人なのだと思う。問題はその後だ。
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