不完全な完璧(寿月)「……いつか、俺のことも忘れるんやろか」
「……絶対忘れない、とは言えないな」
それのきっかけなんて些細なもので、洗濯機を回しっぱにしたとか、お土産を何処かに置いてきたとか、同じ本を買ってきてしまったとか。
「月光さんでもそんなうっかりするんやね」
最初はそんな風に笑ってたのに、鍵を閉め忘れて、鍋を火にかけたままで、よく通う道や、親戚の名前が思い出せなくなっていった。
診断を受けて、薬もらって、次回の予約をした。
お医者さん、月光さんが落ち着いとるからえらい淡々と話してた。説明を受けているときに震えてしまうもんで、手を繋いだ。月光さんは何も言わんで、ましてや振り払ったりもせんでいてくれた。
その状態のままの帰路、道に伸びる影はまるで買い物帰りみたいだ。
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