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    douronokani

    @douronokani

    ほぼスグアオ🔞置き場

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    douronokani

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    彼氏と別れた話を酒の席で愚痴るアオの話


    何やかんやあってスグに慰められるうちに、友だちだからって最初から対象外にしてたけどめちゃくちゃいい男だな………好きだな……?って気付いていく話にしたかったです!!!でも無理でした

    これ没ったから俺にすればいいのにってセリフから始まる漫画を前に描きました

    酒の席スア「俺にすればいいのに」

     遠慮のない笑い声や手のひらを叩く音、グラスを突き合わせる音に箸が食器に触れる音が入り混じった喧騒の中で、紛れるようにスグリが呟いた。
     スグリの視線は依然として目の前のゴーヤチャンプルに向いたままだったので、わたしも視線を手元のジョッキへと戻し、7対3の完璧な比率で注がれた黄金色の液体と泡を流し込んだ。
     普段であればここ、チャンプルタウンの名物である宝食堂の料理とビールの滑らかな口当たりを味わっていたのだが、生憎今はそんな気分ではなかった。
     久しぶりに訪れたのに勿体ない気もするけれど、と思いながらわたしはまたビールを口に含む。

    「スグリは優しいなー、もう!優しいからこれあげる」

     頼んだ焼きなすをスグリのお皿に置こうと箸で掴んで持ち上げれば、スグリがそのまま焼きなすを口に入れた。餌付けみたいになってちょっとたのしい。
     段々と沈んだ気持ちが元に戻るのを感じて、わたしはスグリの優しさに感謝する。

    「アオイにだけだべ」
    「うっそだー。でもありがとね」

     わたしは今日、彼氏と別れた。
     理由は単純で、彼氏の浮気である。職場で彼氏が他の女性とキスしている姿を目撃してしまったのだ。
     別にしっかりとした恋愛感情を抱いて付き合っていたわけではない。告白されて一度は断ったけど、付き合ってたら好きになるかもしれないからって言われたからそうかもって思って付き合った。それだけ。
     好きにはならなかったけど、告白されて意識したばかりのところで浮気現場を目撃なんて、お酒を飲まないとやってられないと思う。
     そもそも職場でそんなことしないでほしい。わたしの存在に気付いていたのに、自分が選ばれたのだと見せ付けるようにキスをした相手の女の人もいやだった。チリちゃんに怒られてしまえ。
     その後お酒で全てを忘れるためにスグリを飲みに誘ったのだけど、急な誘いであったにも関わらずスグリは快く頷いてくれた。その上こんな愚痴を聞いてくれるのだから、スグリには頭が上らない。
     俺にしとけばと口にしたのもわたしを元気付けるための軽口であって、本当にスグリには気を遣わせてばっかりだ。そう考えると、じわじわと申し訳なさが込み上げてくる。

    「いやほんと、スグリごめんね……いろいろ……」
    「もう酔ってる?アオイ」
    「よってなーい………。はあ、しばらく恋人はいいや……」
    「酔っ払いの情緒だべ完全に」

     店員さんにビールを追加でお願いしようとすれば、もうやめておけと言わんばかりにスグリがわたしの口へゴーヤを押し入れた。

    「おいしーい………」
    「んだなあ。ほら、もう一口」

     スグリは大人しくゴーヤを咀嚼するわたしを見ながらビールを飲んでいる。
     スグリはわたしと同じかそれ以上のペースで飲んでいるはずなのに、酔っている気配が全くしない。今までも酔ったスグリの姿を見たことがないのだから、スグリはとてもお酒が強いのだと思う。スグリが酔ったらどんな感じになるんだろうなあ。
     スグリと違ってお酒にそれほど強いわけでもないわたしはビールを諦めて、焼きおにぎりをひとつ注文した。

    「アオイはその男に未練さあんの?」

     スグリの一声によって、話題が元に戻る。
     スグリから手渡された水を飲みながら、スグリの指し示す"その男"についてわたしは思考を巡らせた。
     わたしよりも少し年上で、わたしのことをすきだって言ってくれた黒髪の男のひと。バトルが強いところもすきだって言ってくれた。浮気したけど。

    「未練はないと思う、けど」
    「けど?」
    「けどー………」

     スグリがわたしの言葉を復唱しながらビールを飲み干す。気付けばカウンターに並んでいたお皿の中身も空になっていた。

    「バトル断られるきもちってこんな感じなのかなあ。ネモのきもちわかったかも」
    「それは流石に違う気もすっけど」
    「ねえ、バトルしよーよ」
    「また今度な」

     バトルできたら最高だったのになー、と口にすればスグリに"今のアオイじゃまともに指示できないべ"と言われてしまい、何も言い返せず唸る。

    「ほんとにね、すきだったわけじゃないんだよ」

     スグリに胸の内を伝えるための言葉を探す。
     わたしが早くあのひとのことすきになれなかったから浮気したのかなーって思うと、逆に申し訳ないなーってなったし。早くすきになれてたら違ったのかも。でもさー、意識はしてたんだよ。たぶん。すきって言われたらそりゃ意識するよ。あ、もうスグリのまないの?ふーん。まだなんか頼む?焼きおにぎりたべるからいい?それわたしが頼んだやつ!
     頭がふわふわとするくらいには酔いが回り出して、言いたいことがまとまらずわたしは思ったままを口にする。
     わたしがぼんやりと水の入ったグラスの水滴を眺めている間に、スグリがタイミング良くカウンターから出された焼きおにぎりのお皿を受け取った。

    「アオイは好きって言われたら意識すんだ」
    「んー……うん。すきって言われたらうれしいし」
    「好きだ、アオイ」
    「雑すぎない?」
    「だめかー」

     お皿に乗った焼きおにぎりをひとつ頬張る。レモンが添えられた焼きおにぎりは表面が焦げていて香ばしく、絶品だ。学生時代はただおいしいなーって食べてたけど、大人になってからシメに丁度合うことを知った。
     これわたし以外だったら冗談だろうと言質とられそうだなーと考えていたところで、ふとスグリがなんで恋人を作らないんだろうという疑問が沸き上がる。恋人が全てってわけでもないことなんてわかってるけど、あれだけ女性から好かれてて人気なのになんでだろうって。

    「……俺に恋人いないこと気になんの、アオイは」
    「あ、声にでてた?」
    「うん」

     焼きおにぎりを完食し、ちらりと視線を横に向けると、スグリはじっとわたしの方を見つめていた。穴があきそうってこういうことなのかな。

    「俺は本当に好きな人としか付き合いたくないから」
    「おっ、まるでわたしがそうじゃないみたいな言い方!」
    「だってそうだべ」
    「なんだとー」

     付き合っている間に相手のことを知って好きになることだってある、と思う。それに付き合わないとわからないことだってあるじゃん、というのがわたしの意見である。付き合う前にデーティング期間を設けるにしても、色んな地方から人が集まってるからデーティング文化自体を知らない人だっているし。

    「付き合ってるうちにすきになるかもしれないよ?」
    「それはないべ」
    「言いきるってことは」

     すきなひとがいるってこと、なのでは。
     学生時代からずっと一緒にいるわたしが知らない誰かがスグリのこころにいるのだと思うと、少しだけ寂しさに襲われた。
     もうこうしてふたりで飲む機会も減るのかもしれないと考えるとお酒を煽りたくなるが、我慢してわたしは既にぬるくなってしまった水を口に含んだ。

    「スグリの恋人がみれるのはいつだろうなあ」
    「アオイまでねーちゃんみたいなこと言わんで」
    「貴方たち付き合っていなかったんですか?」
    「つきあってないよー………あれ」

     横から聞き覚えのある声がして、わたしはそちらの方へと顔を向ける。

    「どうも」
    「アオキさんだー、おつかれさまです」
    「……お疲れさまです。アオキさん」
    「お疲れさまです」

     そこにはいかにもお疲れの顔をしたアオキさんが立っていた。
     いつも定時上がりのはずなのに今日は遅かったのかな。トップに仕事を押し付けられてしまったのかもしれない。でもアオキさんがお叱りを受けてるのに寝てたりして、罰として仕事させられてただけの可能性だってあるなこれ。宝探しでジムを巡っていた時はアオキさん大変なんだなートップも優しくしてあげたらいいのになーって思ってたけど、社会人になり同じ職場で働く身となってからは、トップの気苦労を察したのだ。

    「……どうされました?」
    「いやあ、トップもたいへんだなーって思って」
    「何故今トップのことを……」

     アオキさんが眉をひそめた。そんな反応を見て、これはトップに仕事させられてたんだな、とわたしは確信を得る。何にせよおつかれさまです。
     隣のスグリが立ち上がって挨拶するのが見えてわたしも立とうとすれば、アオキさんから"大丈夫ですよ"と声を掛けられたのでお言葉に甘えて座ったまま軽く会釈をする。

    「ああ、すみません。お邪魔する気はなかったのですが……思わず」
    「ぜんぜん大丈夫ですよ!もう食べ終わったし、ここの席あけますねー」
    「……いえ、そうではなく」

     ここ定位置ですもんね!と言ったわたしの声に、アオキさんがゆるく首を振った。
     じゃあどういうことなのだろう、と止まりかけたわたしの腕をスグリが引っ張る。流石にひとりで立ち上がるくらいできるのにと思いつつも、わたしはそのまま大人しくスグリに支えられて立ち上がった。

    「気にしないでください。ほらアオイ、立てる?」
    「たてるー」

     スグリがカウンター越しに店員さんへお会計と声を掛ける。いいのかな話遮っちゃって。でもアオキさん何も言わないし、まあいっか。

    「また今度おいしいお店紹介してくださいねー!」
    「はい。次の出張先で良い店があればまた」
    「やったー!ハイタッチしましょー」
    「……遠慮しておきます」
    「こら、アオイ。すみません、かなり酔ってて……。それじゃあ失礼します」

     スグリが申し訳なさそうにアオキへ頭を下げる。
     支払いを済ませ、店員さんにおいしかったですってお礼を伝えた後、わたしはアオキさんに手を振って宝食堂を出た。ちなみにアオキさんから返ってきたのはお辞儀である。

    「風きもちーねー」
    「寒くない?アオイ」
    「ぜーんぜん」

     外に出ると、ひんやりとした夜風がわたしの全身を包んだ。熱のこもった頬が外気に触れる。

    「すぐタクシーさ呼ぶから」
    「なにからなにまでありがとうございます………」
    「社会人が板に付いてきたなあ、アオイも」
    「えへへー」

     スグリの下ろしている前髪が風に吹かれ、内側の紫が顔を出した。スグリが目にかかった髪を払うように顔を振る。あ、おでこ。
     いくつか学年が上がった段階で、スグリは伸びすぎた前髪を切った。それから後ろでまとめられるほどの長さがなくなったようで、前髪を下ろし、邪魔な横髪はそこだけ後ろで軽く結ぶようにしていた。所謂ハーフアップである。どの髪型もスグリに似合っていると思う。
     わたしの視線に気付いたスグリが一瞬何か悩むような素振りを見せた後、口を開いた。

    「アオキさんがさっき言ったこと、覚えてる?」
    「怒られてる時にねてトップに残業させられた話?」
    「違うべ。そんなことさ言ってたっけ……」
    「これわたしの想像だったかも」
    「確かに想像できっけど……そうじゃなくてな」

     説教中に眠るアオキさんを脳内で思い浮かべたのか、スグリがゆるく笑う。かと思えば、真剣さを宿した瞳でわたしを見た。

    「付き合っていなかったんですかって話」
    「してたっけ、そんな話」
    「してたべ」

     先ほどの会話を思い出すように、わたしは目線を左上に向ける。そういえばそんな話もしていたような気がするが、詳細を思い出せない。
     その間唐突に落ち葉を持ち上げるほどの強い風が吹き、わたしは思わず身震いする。耳と顔だけは熱いままなのに、指先は温度が下がり冷えを感じた。
     そういえば顔がお酒で赤くなるのってなに反応って言ったっけ。これこの前の飲み会でアオキさんに教えてもらったんだっけなー。いやチリちゃんだっけ。フラ、フレ、レーシングなんとか。ていうかチリちゃんそんなこと知ってるかなあ、なんて失礼なことを頭の中で考えていると、スグリが不意にジャケットを脱いだ。
     あ、と思った時にはもうスグリのジャケットがわたしの肩に掛けられていた。先ほどまでスグリが身に付けていたおかげで、内側から温もりが伝わる。

    「風邪引くから」

     こういうところが付き合っていると勘違いされるのかもしれない、と思った。スグリが誰にでも、なかでも友だちには特段優しくて、わたしがその優しさに甘えているからなのだと。

    「……いつもありがとう」
    「ううん」

     空飛ぶタクシーが到着したところで、はたと気付く。
     もしかして、手のかかるわたしがいるからスグリは恋人を作れないのでは?と。
     わたしが浮気するような男に引っ掛かったりしてバトル以外でだめな部分が多いから、スグリは自分のことに集中できない可能性が脳内で浮上して、頭を抱えたくなった。というか抱えた。

    「アオイ大丈夫?」
    「大丈夫じゃない……………」
    「えっ、一旦水飲む?」
    「酔ってきもちわるい、とかじゃなくてね……」

     心配するような目つきをしたスグリが目睫の間に迫る。
    空飛ぶタクシーに揺られながらスグリがわたしの背中を擦るが、今のわたしには逆効果だった。

    「わたしね、もうね、しばらく彼氏つくらないから」

     だからスグリに今日みたいに迷惑掛けないし、わたしのことは大丈夫だよ。そう言って、わたしは顔を上げて自分の膝からスグリの方へと視線を移す。
     わたしの言葉を聞いたスグリは大きく目を見開いた後に、小さく"そっか"とだけ呟いた。

    「そもそも浮気されたばっかりだしね!」

     わたしは自嘲するように笑って言う。相手をすきではなかったとはいえ、やはり浮気されたというのは堪えるものがあるのだ。
     もう浮気されたくないなあ、もしも次に付き合うとしたらわたしのことがすきで一途なひとがいいなあ、なんて考えながらわたしはタクシーの上からまばらに光が散らばった夜景を眺めた。
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