ショタは正義 「⋯⋯どうして、こんな事に⋯⋯」
呆然と見つめる先に居るのはシンだ。しかし、その姿はいつものそれでは無い。
「⋯⋯ぁぅ?」
首を傾げるシンは、恐らく1歳くらいの可愛らしい姿になっていた。
【ショタは正義】
何故こうなったのか。記憶が確かなら、ある物をシンが飲んだ後だ。
確かラクスがキラに飲んで下さいと持たせてくれたもので、暫く飲まずに置いていた物だったが、シンが喉が渇いたと訴えた為、良かったら飲んでと渡した。そして現在に至る。
『あらあらー。まさかシンが飲んでしまうとは予定外でしたわ』
困った様に微笑むラクスにキラは脱力した。
「なんでシンが小さくなっちゃったのか説明して? 後ちゃんと元に戻る?」
現在のミレニアムは以前のような多忙さは無いが、いつコンディションレッドが発動するか分からないのだ。その時にシンが動けないと少し困ってしまう。
『大丈夫ですわ。効果は1時間程度ですから』
「1時間⋯⋯その間の記憶は残るの?」
『そうですわね⋯⋯実験では残らなかったと思いますわ』
いったい誰に実験したのか聞けなかったが、一時的なものならいいかと流す、
「けど、なんで僕に飲めって⋯⋯」
元々はキラに飲んで欲しいと渡された物だ。理由があるのだろうとラクスに聞くと、それは⋯⋯と言葉を濁した。
『わたくしもキラの小さい姿が見たかったのですわ』
「⋯⋯うん?」
『以前カリダさんにキラの小さい頃の写真を見させて頂いたんです』
「母さん⋯⋯」
『ですから、どうにか生で見たいと思ってしまいまして⋯⋯ターミナルにいるアスランとも意見が一致しましたの』
「アスラン⋯⋯なにしてんの⋯⋯」
『カガリさんも見たいと太鼓判を押されましたので、体に害の無いように研究を進めまして、ザフト、オーブの技術を結集して出来上がったのがあれですわ』
「⋯⋯まさかのカガリもか⋯⋯」
何故みんな自分の小さい姿を見たがるのか分からない。
「うー?」
「あ、シン。ごめんね」
キラが抱っこしているシンが、つまらないと言わんばかりに暴れる。
『あらあら。シンはヤンチャですわね』
「うん。凄く元気だよ」
ラクスに通信を繋げるまでに小さくなったシンと少し遊んだが、きちんとまだ立てなかったり話せなかったりで癇癪を起こす事があってなかなか大変だった。
「まぁけど、そろそろ元に戻る頃だろうから大丈夫かな」
気が付けばシンが小さくなって1時間が経とうとしていた為、この癒しの時間も残り僅かかと少し残念な気持ちになる。
『キラ、すっかり小さなシンにメロメロですのね』
「うん。可愛いよ。こんなに小さな子と関わった事は無かったから、初めは戸惑ったけどね」
そう言ってシンを抱き締めると、ふわっと小さな子ども特有の匂いが鼻を掠めた。
「あ、うー!」
ぺちぺちとシンの可愛い手がキラの頬を叩いてきて、本当に可愛いと頬が緩む。
「あれ? シン。何持ってるの?」
頬を叩く反対の手が何かを握り締めていて、なんだりう?と首を傾げると、シンがんっ!とその手を突き出してきた。
手の中を見るとそこには小さな飴玉があり、シンが食べなくてほっとした。
「僕にくれるの?」
「あぃ!」
キャッキャッと喜ぶシンがあまりにも可愛くて、持っていた飴玉を受け取ると自分の口に含んだ。
『あら? キラ、その飴玉は⋯⋯』
画面越しにラクスが呟いた瞬間。
ボフンッと何処からともなく煙に包まれる。
「⋯⋯え?」
驚いた顔をしたシンが現れた事で、薬が切れたのだと分かったラクスが説明する。
『⋯⋯ということでしたの』
「⋯⋯な、なるほど? えーと、じゃあもうひとつ説明をお願いしたいんですけど⋯⋯この子はまさか⋯⋯」
シンの腕の中には3歳くらいの小さな子供がいた。特徴のあるアメジストの目はうるうると涙を蓄えて今にも泣きそうだった。
『⋯⋯はい。その子はキラですわね。とっても可愛らしいですわ』
そう。今度はキラが小さな子供になってしまったのだ。
「言ってる場合ですか! え!? ちゃんと戻りますよね!? あと記憶とか⋯⋯」
『大丈夫ですわ。きちんと元には戻ります。ただし、シンが飲んだ物とは違って少し時間は長くなりますし、記憶は小さい間はありませんわ』
あっさり言い切ったラクスにシンは脱力した。
「⋯⋯ちなみに、どのくらいで戻るんですか?」
『そうですわね。丸1日でしょうか』
にっこりと言い切った総裁にシンは驚くしか無かった。
その後艦長にキラの状態を伝えると、小さな准将見たいと集まったクルー達に、可愛いと撫でられたり声を掛けられたキラが怖がってしまい、ギャン泣きしてしてシンから離れなくなった。
「やぁぁっ!」
いやいやと首を振って嫌がるキラが可愛いと思いつつ、シンから離れないキラに口元が緩んだ。そんなシンを見たアグネスから「気持ち悪いわよ、山猿」と言われたのは心外だったが、他もシンと同様に小さなキラにメロメロだった為、仕事にならなかったのは仕方がないだろう。
その後元に戻るまではシンがキラの世話をする事になった。妹で育児の手伝い経験済みのシンは小さなキラの世話を完璧に行い、ミレニアムのクルー達の誰よりも懐かれたのは言うまでもない。
後日談として、何処から情報を得たのかアスランがメイリンと共にミレニアムにやって来て、小さくなったキラに抱き着こうとしたが、キラからの「やっ!」という渾身の拒絶に打ちのめされて白くなってたのはシンとメイリンしか知らない。
1日経って元に戻ったキラが、クルー達皆からやたら褒められたりして戸惑った姿が確認され、何故か来ていたアスランに無言で抱き締められて訳が分からないと遠い目をしていたのを、シンが説明して納得して直ぐにラクスに通信を入れて「もう変なクスリ作るのやめてね?」と釘を刺した。
『残念ですが分かりましたわ』
残念と言いながら何処か嬉しそうなラクスに首を傾げつつ、分かってくれたならいいかと溜息を付いて仕事に戻ったキラを追いかけようとしたシンをラクスが止める。
『シン。ありがとうございます』
「いいえ。じゃあ俺も機体調整してきますね。では!」
そう言って通信を切った。
ラクスの秘蔵コレクションに、小さなキラの写真が加わった事をキラは知らない。この一件でラクス秘蔵のコレクションを見させて貰える事が出来たシンがますます活躍するようになり、コンパスの活動は平和になった。