Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    バム🌰

    @vnight6_6 のポイピクです
    気軽になりたくて使ってみてます

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 💕 🌟
    POIPOI 9

    バム🌰

    ☆quiet follow

    クリスマス精神街にクリスマスの雰囲気が漂う12月、赤、緑、金色できらめくこの時期は、理鶯にほんの少し古郷を思い出させる。いつ聞いても懐かしいキャロルに心がときめく。まるでサンタクロースを待っていた少年時代のように。毎年12月になると、母は降臨節のカレンダーを買ってきた。チョコレートが毎日一個ずつ食べられるような仕組みだった。理鶯も他の子供と変わらず、一日で全部食べつくしてしまいたかったが、サンタクロースにバレると欲しいプレゼントがもらえなくなるため毎日我慢していた。降臨節カレンダーのチョコレートもあと5個以下になってる頃には、父の車に乗って近い山まで行く。もみの木を取りに行くのだ。母はいつもコストコで売っている安い偽物を使えと言っていたが、父は毎年、頑なに生きてるもみの木を使いたがった。今考えてみると、彼はクリスマスツリーにこだわっていたわけではなく、おそらく年に一度、息子と共有できるマッチョイズムがとてつもなく楽しかっただけだろう。まるで今の理鶯みたいに。もみの木に厳しいことを言う母も、オーナメントにだけは人一倍気合い入れていた。20年も前の家族写真が飾られているものや、理鶯が初めて作ったオーナメント、手先が器用な隣人からもらったものなど。親戚みんなで飾るクリスマスツリーは、ただの人工美溢れるもみの木ではなく、美しい形の家系図だった。完成されたツリーの下には、メイソン家の子供たちのためのプレゼントが用意されている。キッチンからは七面鳥を焼く匂いー理鶯の音のない回想がここまで来た時、後ろから人の足音が聞こえた。

    「凍え死んでないか心配できてやったぜ」

    相変わらず薄着の左馬刻がニヤッと笑いながら姿を現した。これは彼なりの「元気かい?」。

    「凍死はしない。小官の越冬計画は完璧だ」
    「あっそ」

    一々過激な反応をする銃兎との会話に慣れてる左馬刻は理鶯のドライな返事に気が緩むような、ちょっとつまんなさそうな中途半端な顔をして理鶯のキャンプファイヤーの前に座った。木が燃焼される時の甘い香りがする。火の熱で硬直してた顔や姿勢が解け、まぬけな顔になっていく左馬刻に、先ほどの回想がまだ胸のどこかに残っている理鶯が声をかける。

    「左馬刻もクリスマスを楽しんでるか」
    「クリスマス?」

    突発的な理鶯の質問に、左馬刻は神経質に声をトーンをあげる。呆れたような表情をしながらポケットからタバコを取り出し、2回くらい振っては口に咥え、火をつける。煙を吐くテンポに合わせて「んなの娑婆の奴らでもあるめぇしよぉ」と短いがわかりやすく答えてくれた。

    「左馬刻と銃兎になにかプレゼントをしたい」

    「あ?」

    思わずぽろっと本音が出てしまい、一番びっくりしたのは理鶯本人だった。左馬刻は吸っていたタバコの煙を吐くことも忘れ、唖然とした顔で理鶯を凝視している。

    「俺様はそんな甘ったるいものは要らねぇけどさ、銃兎なら喜ぶぞ」
    「銃兎が喜びそうなもの、左馬刻は知っているか」

    ちょっと考えた左馬刻はこう答えた。
    「銃兎は、人の不幸が好きだな」

    理鶯はちょっと目を細めながら同意できかねそうな表情を浮かべた。だが左馬刻は銃兎とは長い付き合いだし、一旦否定はしないでおく。

    「小官が不幸になればいいとのことか」
    「バカ、ちげぇよ、奴がキライなやつのことだ。
    仲の悪い奴が死ぬほど苦労したり、努力が実らなかっり、理不尽で、ややこしくて、面倒くさい目にあうのが銃兎には最高の喜びなんだよ」
    「確かに、銃兎はそういうところあるな」
    「だろう」

    ではその「仲の悪い奴」とは誰だ。二人はちょっと考えて、目が合った。

    「俺様じゃん」
    「小官もそう思う」

    チキショウ!と叫びながら左馬刻は吸殻をキャンプファイヤーに投げ捨てた。暗くなった周りのせいで余計にオレンジ色に光る火の中に痕跡もなく焼却されていく。左馬刻と銃兎は互いの小さな不運を生きがいにして生きているが、理鶯自身がそれを望んでいないため、左馬刻を不幸にさせることはない。そんなことを考えていたら、左馬刻の「腹減った」の声が聞こえた。理鶯はその声に現実に戻ってきた。キャンプファイヤーの中に長い木の棒を入れて、丸い何かを取り出している。その奇妙な動作を左馬刻はぼおっと眺めていた。火の中から出てきた黒くて丸いもの。理鶯はそれを転がして左馬刻の前に置いた。

    「ジャガイモだ、熱いから気を付けたほうがいい」
    「熱すぎだろ!」

    理鶯がせっかくゲテモノじゃないものを用意してくれたのは嬉しくて涙が出るくらいだが、生憎いま左馬刻が食べたいのはジャガイモではなかった。牛肉が食べたいと言う左馬刻の意見に、理鶯は牛肉は持ってなかったため左馬刻の車に乗って、仕事上がりの銃兎を拾って左馬刻の自宅に行くことにした。銃兎が働いてるヨコハマ署の近くに車を停車して待ちながら肉やお酒を買ってきた。そこでやっと銃兎の姿がみえる。いつものように手を振る左馬刻に銃兎は反応して歩いてきた。大量の食材に狭くなってる後ろの席に銃兎が入ってくるのを確認した左馬刻は手首を捻りエンジンをかけた。その瞬間、銃兎が声をかけた。「ちょっと、ちょっと」

    車窓越しに、ある男が一人立っていた。彼は仕事中に休憩のようで、自動販売機で飲み物を買って少し背伸びをしてはまた建物に入ってしまった。その様子をみた銃兎が彼を睨みながら呟いた。

    「あの野郎、俺のもらうつもりだった賞を横取りしやがって」

    銃兎がチャンスを見逃すなんて、こういうことは滅多にない。だがあったらあったで根に持つのが入間銃兎だ。銃兎は憎しみを隠さず「殺してやる」と怖いことを言っている。

    「本当性格悪いな、お前」
    「うるさい、あの賞を取るためにどれだけの人間の犯罪をもみ消しにして、逆にどうでもいい雑犯を大げさにする二度手間がかかったと思ってんだよ」
    「てめえがもらえないのはもう当たり前すぎんだろ」
    「次の昇級にかかわるってことがわからないのか?石頭が!」
    「なんだとコラ!」

    いつものように左馬刻と銃兎はもめ始める。そしてまたいつものように銃兎の方から呆れた反応をみせ、左馬刻もそこでやっとやめる。銃兎は怒りの原因が左馬刻ではなく先ほどの男であることに気付き、再び車を出発させる左馬刻を阻止させた。「ちょっと降ろせ」と言ってはドアを開けて一回銃兎は車を降りた。理鶯と左馬刻はただその銃兎を見ているだけだった。銃兎は火をつけたタバコを咥えたまま署の関係者専用の駐車場方面に歩いて行った。自分の車に何か忘れものでもしたのだろう。理鶯はバックミラーに映っている左馬刻をチラッと見たが左馬刻もそう思っているようだった。そして、分厚い車体の中でもわかるほどの、鋭くて不気味な音がした。キィイイと鳴り響く音を辿り根元を探してみたら、銃兎は駐車場にポツンと一人寂しく駐車されてる見知らぬ車に十円玉を立たせわざと傷をつけていた。あまりにも驚いた理鶯と左馬刻がやっと気を確かに持ってなにしてんだ!と小さく怒鳴ったら、平穏な顔でこう言った。

    「あいつの車。こうでもしないと俺の鬱憤が治まらない」

    「てめ、ふざけんな、防犯カメラあるだろうがよ」
    左馬刻がウィスパーボイスでそう言った。

    「いいさ、明日早朝俺が直接データ削除する」

    悪徳警官だの、お前とは関係ないだの言いあう二人の声を聞き流しながら、理鶯はキャンプ地で左馬刻が言ったことを思い出した。銃兎は嫌いな人の不幸で元気になる。理鶯は銃兎に、最高のクリスマスプレゼントが渡せそうな気がした。口げんかをしている左馬刻と銃兎を背中にして自分たちの車に戻った。今日焼肉のために買っておいたお酒が数え切れないくらいトランク一杯入っている。その中から一本を取り出して、蓋をあけた。理鶯はお酒を半分くらい捨てて、常に持ち歩いてるシンナーと車に常備されていたガソリンをお酒の瓶に詰めて満タンの状態に戻した。着用していたインナーを脱いで、瓶の口に詰め込む。これで準備は完了だ。

    「二人とも、退け」

    理鶯の低い声に左馬刻と銃兎は我に戻り、続いてなんでそこから退けないといけないかを聞きたがる顔をしていた。「こっちにこい」再び理鶯がそう言うと、左馬刻が先に動き出し、銃兎も十円玉をポケットにしまって素直にこっち側に来てくれた。理鶯は二人が安全距離に入ったことを確認して、銃兎をみて多少緊張した声で、銃兎に言った。

    「銃兎、あの程度じゃ貴官には物足りないだろう」

    理鶯が手に持ったものに火をつけて投げようとしている。いや、投げてる。銃兎は短い瞬間だったが思い出した。はるか昔、デモに使われたという「火炎瓶」を。

    「下がれ!」

    銃兎のどこか快感まで感じられる大声量が鳴り響き、誰よりも早く理鶯と左馬刻の肩を引っ張りできるだけ姿勢を低くさせた。大の成人男性三人が丸くなった甲斐もなく火炎瓶はカシャン、と静かに割れては静かに車内で火が広がっていた。左馬刻、銃兎そして理鶯は急いで自分たちの車に乗り、素早くそこから離れた。3分もしない間で大きな爆発音が聞こえた。

    周りに車がないためその車だけ燃えているのが不幸中の幸いだった。遠い距離で火事に慌てるヨコハマ署の警官たちを三人で眺めていた。その群の中に銃兎が大嫌いなあの男がいた。銃兎の口角が上がるのが見えた。

    「銃兎、Molotov Cocktailだ、Merry Christmas」

    照れくさくそう言う理鶯を、銃兎はぼおっとした顔で見つめた。危険性への説教を浴びせられるだろうと誰もがそう予想していた時、聞いたこともない銃兎の目一杯の愛嬌が入った声が聞こえた。

    「最高です!理鶯、こんなに素敵なクリスマスプレゼントは、私、始めてですよ!」

    そう喜んでる銃兎から貰ったのは説教じゃなくてキスだった。
    ミスルトウは車の天井にはついてない、なのに理鶯も銃兎も、とても幸せな気持ちになった。
    クリスマスだから。



    後書き
    二度と小説書くとかふざけた真似しないと誓いました。読んでいただきありがとうございます。メリークリスマス!  バム
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    バム🌰

    PAST
    クリスマス精神街にクリスマスの雰囲気が漂う12月、赤、緑、金色できらめくこの時期は、理鶯にほんの少し古郷を思い出させる。いつ聞いても懐かしいキャロルに心がときめく。まるでサンタクロースを待っていた少年時代のように。毎年12月になると、母は降臨節のカレンダーを買ってきた。チョコレートが毎日一個ずつ食べられるような仕組みだった。理鶯も他の子供と変わらず、一日で全部食べつくしてしまいたかったが、サンタクロースにバレると欲しいプレゼントがもらえなくなるため毎日我慢していた。降臨節カレンダーのチョコレートもあと5個以下になってる頃には、父の車に乗って近い山まで行く。もみの木を取りに行くのだ。母はいつもコストコで売っている安い偽物を使えと言っていたが、父は毎年、頑なに生きてるもみの木を使いたがった。今考えてみると、彼はクリスマスツリーにこだわっていたわけではなく、おそらく年に一度、息子と共有できるマッチョイズムがとてつもなく楽しかっただけだろう。まるで今の理鶯みたいに。もみの木に厳しいことを言う母も、オーナメントにだけは人一倍気合い入れていた。20年も前の家族写真が飾られているものや、理鶯が初めて作ったオーナメント、手先が器用な隣人からもらったものなど。親戚みんなで飾るクリスマスツリーは、ただの人工美溢れるもみの木ではなく、美しい形の家系図だった。完成されたツリーの下には、メイソン家の子供たちのためのプレゼントが用意されている。キッチンからは七面鳥を焼く匂いー理鶯の音のない回想がここまで来た時、後ろから人の足音が聞こえた。
    4148

    バム🌰

    PAST
    都市が眠らない理由東京の雨の日がたいていそうであるように空は陰気な雲を垂らして力のない雨脚を垂らした。帝統はそれが水圧の低いシャワーのようだと思った。夕方が始まる時間、巨大なシャワーヘッドの下に黒い傘が影の下にまた影を作った。下降するシベリア高気圧が小さな人間の懐から温もりを奪っていく。襟を正す、雨を傘で遮る大勢の人々と一緒にスクランブルを通る。向かい側の人達は帝統を避けて歩いて行った。いくら混みあっても雨、風、そして少し汚い人には触れたくないようだ。紅海を渡るモーゼにでもなったような気分で、帝統は渋谷スクランブル通りを斜めに歩いていった。2日3日洗ってない頭の上に雨が降り、濡れた髪を冷たい風が靡いた。自分についている汗、血、ほこり、砂のようなものが雨粒に混じって風に乗って…···遮断された視線、ぎゅっと閉じた襟、固い傘の中に食い込み彼らになにかしら病気になりますように。そんなことを想像しながら歩いて行った。その病気を一層深めることができるかな?と期待しつつタバコに火をつけた。雨の中でなかなか火がつかず、ライターを何度もカチカチと鳴らした。やっとついた火が消えるのが嫌だったので、フードを深くかぶった。
    2984

    recommended works