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    toncyanginchan

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    マダホラ お題「手袋」 全年齢版

    ____お前、本当に……わかりやすいな。

    目の前で大粒の汗をかいている相手を眺めて、マーダーは心中でつぶやいた。いや実際のところ、お前本当に「サンズ」か?俺たち「サンズ」は常に変わらぬスカルスマイル、たまの変化と言えば真っ暗な眼窩に瞳孔があるなし程度ってのがお決まりかと思ってたが。

    だがそれも仕方のないことかもしれなかった。マーダーの目の前にいるのは確かに同じ「サンズ」だが、内面はともかく、その見た目からして他と大きく違っていたのだ。頭蓋は大きく割れ、そのギザギザの割れ目からはぽっかりと暗い空洞がのぞいている。そしてその眼と言えば、片方は赤く、もう片方はきれいにくりぬかれたように穴が空いているだけなのだ。その見た目は、それだけ凄惨な過去を語っている、ともいえた。

    魔力を使えば「眼球」なんてものはあってもなくても視力に大きな影響はないが、そう単純なことでもないのか、たったひとつの瞳は失われたもう片方を補うように落ち着きなく変化し、持ち主の感情までも露わにしてしまうのが常だった。気の毒なのは自分ではそれに気づいていない、ということだ。

    「お前、俺の手袋を知らないか」だからマーダーがそう言った時、その瞳は口を開くより先にすぐさま小さく揺れ動き、こう告げていた。

    “手袋?なんで……どうして俺に?”その瞳孔は不安げに惑い、小さく揺れる。

    「……知らない」だが一拍置いて大きく息を吐くと、ようやく口を開いた。

    「この辺に置いたんだが……見なかったか」マーダーがさらに言葉を継ぐと少し安心したのか、その瞳はやや緩んだように細められた。

    「あ、ああ……見てない……と思う。俺……」そう言いながら、つい空っぽの眼窩を掻きむしろうと伸びる右手をすんでのところで抑え込み、持て余したあげくポケットに勢いよく突っ込んだ。そんな姿をマーダーは黙ってじっと見ている。

    なるほど。“と、思う”……か。だろうな。お前はよく記憶が飛んじまうから自信がない、と言いたいんだな?だが俺は知ってるんだよ、ホラー。

    何をかって?お前がときどき俺の手袋を部屋に持ち帰っていることをさ。持ち帰ってどうしてるかまでは……推測の域を出ないけどな。忘れた頃に、気づけばその辺に置いてある。綺麗に洗濯されてな。まさか、塵を洗ってやろうって親切心からじゃないだろう?俺が気づかないと思ってるのか、それとも気づくのを待ってるのか。可哀そうで可愛いな、お前。

    「そうか……ならもし……“見つけた”ら……」マーダーはじっと相手の眼を見つめた。瞳孔がぎゅ、と大きくなり、こころなしか潤んでいるその眼を。

    「そのまま、俺の部屋に持ってきてくれ」マーダーはそう言うと、振り返りもせずその場を立ち去った。

    ____その日、深夜

    真っ暗な部屋のドアが音もなく開いた。廊下の明かりを背に受けた特徴的なシルエットの中ではっきりとみえるのは、赤く輝くたった一つの瞳だけ。期待と不安、情欲と羞恥、興奮と恐れ……荒い息と共にそれは入れ替わり立ち代わり、まるで万華鏡のように隻眼を彩る。

    ああ、やっとだ。それが、その眼が見たかったんだよ、ホラー。本当は最初から気づいてた。その後は「わざと」何度も手袋を置き忘れて……そうだ、早くドアを閉めろ。一歩、また一歩……ベッドへと近づいてくる足音。俺の手袋を震える手で握り締めてやってきた獲物は、すぐそこだ。さあ、早く来い。

    ___もう逃がさない。

    自ら喰われにきたやつを見逃すほど、俺は優しくない。お前がその手袋をはめてしていたことを……俺がしてやる。望みどおりにな。その時、お前のその眼がどんな揺らぎを見せてくれるのか……楽しみだよ、ホラー


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    toncyanginchan

    TRAININGクリスマスのダスタード 第二部 「シリアス哀しい涙の聖夜」
    指輪の行方時は深夜……

    「う、あ……ぐ、ぐああっ、うっ?……ああぁっっ、ひっ、ぐっ、あっあああ?………うわぁあああああっっ!!やあああぁあっっ!!うあぁっっ!!」

    うす暗い部屋の中に突如として悲鳴が響き渡った。だがそれはすぐにぴたりと止まり、後は、はっ、はっ、と荒い息遣いのみ。時折、激しく蹴りたてられたシーツがピリピリと裂ける乾いた音がする。

    「おい、おいっ!!しっかりしろっ、サンズッ!おい……っ?!サンズッ!!」

    そこに、低く静かではあるが奥底に不安と焦りをにじませた声が続く。それをわずかに聞き取ったのか、サンズの眼窩にぼんやりと白い瞳孔が浮かび上がった。それでもまだ息を荒くし、焦点の合わない目をさまよわせているその頬をフェルは軽く手の甲で叩く。その固い骨の感触に、悪夢の中から自分を現実へと連れ戻してくれた相手に気づき、サンズは我にもなく泣きたくなるような気持ちでフェルを見つめた。今も逃げ場のないソウルが切り刻まれるような悪夢の中にいた。まだこの手の中に感触すら残っているようだ。最近では減ってきたものの、時々こうして“忘れるな”とでもいうように、不意打ちで悪夢に襲われる。サンズは自分の体が嫌な寝汗でじっとりと濡れ、震える手は目の前のセーターをちぎれんばかりに握りしめていることに気がついた。
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