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    いさおか

    短編小説置き場

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    いさおか

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    ホラー映画を観ていたと思ったらいつの間にかえっちなことになっていたさこみつ。現パロ。R15くらい。

    こわいこわいも好きのうち 年下の上司が我が家に転がり込んで来るようになったのはいつからだっただろう。
     上司と言っても気を遣うような間柄ではなく、彼はいつでも左近、左近、と俺の名前を呼んでは、人懐っこい仔犬のようにころころと俺にまとわりついていた。もっとも、気に入らない相手にはツンとした高飛車な猫のような態度を取ることから、彼は職場で犬のようで猫のようでもある狡猾な狐だと言われているのだが。
     兎にも角にも、俺にとっては非常に愛くるしい存在であるこの上司は、今日も我が物顔で俺の所有物であるソファの中央を陣取り、端に追いやられた俺の腕に自分の腕を絡め、テレビに流れる映像を凝視していた。
     まるでカップルだ。
     だが俺たちは決してそんな関係ではない。
     画面の中で女がキャーと甲高く叫んだ。それにつられ、俺の腕に絡みつく男もギャアと小さく叫び声を上げ、ぐいぐいと俺の方へと身を寄せた。
     俺はまた少し、彼との間に隙間を作るように体を横へと移動させる。そんなことを繰り返しているうちに、俺はいよいよソファの最端まで追い詰められ、さてどうしたものか、これ以上は逃げられない。物語はクライマックス、映像の中では主人公の女が得体の知れない化け物に追い詰められていた。俺と同じだな、と謎の共感を示しながら、ついには俺の体ごと両腕でホールドし始めた上司の、緊迫した横顔を見つめる。
     怖いなら見なきゃいいのに。
     テレビに流れているのは巷で話題のホラー映画だ。
     もとより映画好きだと言うことは聞いていたが、近頃の彼はホラー映画にハマっているようだった。寄りにもよって、怖がりなくせに。
     初めてうちに泊まりに来た日もそうだ。一人暮らしの自宅でホラー映画を見ていたら、怖くて一人では眠れなくなった、と夜遅くに俺のもとを訪ねてきた。俺は追い返すことも出来ず、しぶしぶ彼を家に泊めた。寝室のベッドを彼に貸し、自分はソファで寝るつもりでいたのだが、怖いから一緒に寝て欲しいと彼にねだられ、決して広くはないベッドに男二人、ぎゅうぎゅうと身を寄せあい眠りについたのだ。そこらのB級ホラー映画も驚きのなんとも異様な光景。俺たちは家族でもなけりゃゲイでもなく、ただの年下の上司と年上の部下の関係。何が嬉しくて同じベッドで眠らなければならないのか。だが俺は彼にはいっとう甘かった。むずむずと擦り寄ってくる彼を可愛いとすら思った。もし彼が女だったのなら、果たして一線を越えていただろうか。否、男であろうと相手が彼なら一線を越えられるのではないだろうか。
     それに気付いた瞬間、もやもやとした感情が胸の奥で渦巻いた。

     そしてその日から、彼は暇さえあれば俺の家で映画を観るようになった。
     彼に言わせると、俺の家のテレビは画面がでかく、音響も良いのだとか。確かに画面は比較的大きなものをと思い選んだが、音に関しては特別こだわりがあったわけではないので、詳しいことは分からない。
     だが興奮気味にこの臨場感が堪らないと熱く語る彼の姿を見て、まあ良い買い物をしたのだろうと思う。
     カーテンを閉め、電気を消し、テレビの明かりだけが灯るリビング。柔らかな布張りのソファに腰掛け、ポップコーンを片手に、映画館さながらの体勢で映画を観ることを彼は好んだ。
     けれど、ホラー映画となれば途端にこれだ。
     俺の体にぴたりと張り付き離れようとしない。
     特に今日は台風の影響で大気は大荒れ。時折風が強く吹き、窓をガタガタと揺らした。その音にすら彼は肩を跳ねさせ、外に何かいるのではないか、と怯えた顔をした。
    「そんなことより三成さん、お風呂」
     ホラー映画にありがちな後味の悪い結末のあと、エンドロールが流れる中でようやく緊張の解けた彼は俺から少し身を離し、怪訝そうに俺を上目で見つめる。
    「こんな時に、一人で入れというのか」
    「当たり前でしょう」
     だから先に入れと言ったのだ。
     ほんの数時間前、怖い映画を観る前に入った方がいいんじゃないですか、という俺の進言を、彼は後で入るからいい、と一蹴してみせた。
     そらみたことか。俺は心底呆れ、ため息をつく。
    「幽霊に襲われたらどうする」
    「幽霊なんてこの世には存在しません」
     お前は夢の無いことを言うのだな、と不貞腐れた顔が言う。
     外では風がびゅうと吹き、ガシャンと何かが崩れる音がした。
     それを聞き、彼は飛び上がって俺に抱き着いた。
     そして俺の肩口に顔を埋めた彼が、小さな声でぼそりとこう呟いたのだ。
    「怖いから、一緒に入って欲しいのだよ」
     マジか。というのが率直な感想である。
     頭がフリーズしたように白くなり、すべての思考が停止する。
     考えるな、感じろ、とは誰のセリフだったか。
     そして次の瞬間には「わかりました」と答える自分がいた。



     狭いわけではないが、特別広いわけでもない浴室は、それなりの体格をした男二人を収めるには不向きである。
     狭い、と言う彼に、文句があるならお一人でどうぞ、と言えば彼は途端に黙りこくった。
     彼はシャンプーをしながら、目を瞑ると怖いから何か話せと、先に湯船に浸かる俺に言う。そのわがままに付き合い、他愛もない話を続けながら、俺は彼の裸体を盗み見た。艶々とした白く滑らかな肌。濡れたうなじから、背に、肩に、腕に、玉となった水が流れ落ちる。
     俺はごくりと生唾を飲んだ。
     初めて同じベッドで眠った日、彼となら一線を越えられるかもしれないと思った相手。
     そんな男の裸体が目の前にあるのだ。それに触れてみたいと思うのは当然のことだろう。
    「そうだ、せっかくだから体を洗って差し上げますよ」
     彼が頭を洗い終えたタイミングで俺は湯船から上がり、バスチェアに座る彼を無理やり立ち上がらせる。
    「べ、別にそこまでしてもらわなくとも」
     戸惑う彼を、いいから遠慮せず、と言いくるめ、手のひらでたっぷりと泡立てたボディソープを彼の濡れた肌に塗りつける。
     肩から腕を往復し、鎖骨をなぞり、胸元、脇腹、鼠径部へ。
     ひくりと彼の腹筋が動いた。
    「……ふっ、くすぐったいぞ、左近、やめろ」
     もういい、と俺の手を止めようとする彼を無視し、脇腹から再び胸元へ。するりと手のひらを滑らせ、そこにある二つの小さな粒を親指の腹で捕えた。円を描くように擦ってやると、彼の肌が粟立つのと同時に粒はぷくりと立ち上がり硬くなる。
    「なっ、や、ッ……さこ、……!」
    「三成さん、この世に亡き怨霊が最も忌み嫌うものはなんだと思います?」
    「な……に……?」
    「生を感じられるものですよ」
     くりくりと親指の腹で乳首を転がされ、息を乱した彼が、訳が分からないというふうに俺を見上げる。
    「端的に言えば、性的な事象」
    「……せい、てき……?」
    「つまり、幽霊さんはえっちなものを見れば、たちまち逃げ去ってしまうのです」
     こんなふうにね、と俺は彼の腰を片手で抱き寄せ、もう片方の手で彼の陰茎を握った。そのまま泡に塗れた手で、ぬるぬると擦ってやる。
    「ん、あ! や、やめっ、ァ、やだ、やッ……!」
     乳首への刺激ですでに半勃ちになっていた彼の陰茎はすぐに硬さを増し、先走りの液を垂らし始める。
    「はぁ……っ、ン、あ、あ、さこッ……!」
     快楽を逃したいのか、それとも求めているのか、かくりかくりと彼の腰が前後に揺れる。
     そして体勢を変えようとした彼が足を一歩後ろへ引いた瞬間、足元まで流れ落ちた泡にずるりと滑り、彼は咄嗟に俺の首に腕を回した。
     密着した体勢のまま、彼はさこん、さこん、とうわ言のようにつぶやき、俺の体に泡だらけの肌を擦り合わせる。自ら快楽を追うような彼の痴態を目にし、俺は自らの下半身にも熱が溜まっていくのを感じた。
     半ば勃ち上がった自分のものと彼のものを纏めて握り、一思いに扱き上げる。
    「ッ……! 三成さん……!」
    「うあ! や、あ、さこ、もう、もう、いッ、だめっ……イク!」
     びくんと体をしならせ、彼は呆気なく精を吐き出した。俺はなんとか耐えたが、その分、彼の中に入りたいという欲望が際限なく沸き上がる。
     射精の余韻からか俺に抱きついたまま惚けた顔をしている彼の頬にひとつ唇を落とし、俺は彼の尻たぶに手を回した。
    「もう少し我慢してくださいね」
     尻たぶを左右にぐいと開き、泡を纏わせた指を窄まりへと這わせる。泡の滑りのせいか、そこは思ったよりもすんなりと俺の指を呑み込んだ。
    「ア、あ、ああっ! ゆ、ゆび、が、ぁ……!」
     弛緩していた体に一気に力が入り、痛いほどに指が締め付けらる。こんな狭さで俺のものが入るのだろうかと少し心配になる。
    「三成さん、力を抜いてください」
    「んぅ、う、やっ、ぁ、こわい……!」
     強い締め付けを解すように指をぐるりと回す。確か男にも泣き所があったはずだ。どこかで仕入れた知識を頼りに、俺は指を折り曲げ内部を探る。そしてそのしこりを押し上げた瞬間、彼はより一層甲高い声を上げた。
    「あああっ! あ! そこ、や、だめっ! いやだ! さこん! こわい!」
     彼はしきりにこわいこわいと啜り泣くように声を上げる。
     俺が無理やり体を開こうとすることに恐怖を感じているのだろうか。俺は一度指の動きを止め、後孔から指を引き抜いた。
    「幽霊よりも、俺の方が怖いですか?」
     それなら逃げてくれたっていいんですよ? そう問いかけるが、彼はゆるゆると首を振る。
    「じぶんの、からだが、おかしくなってしまいそうで……こわいのだ……」
     彼はしばらく下を向いたまま浅く息を繰り返す。そしていくらか落ち着きを取り戻したのか、もう一度首を横に振り、顔を上げ、俺の目をまっすぐ見つめてこう続けた。
    「いや、いい、左近、お前の好きなようにしてくれて構わない。俺は、きっと、いつかお前と、こんな関係になることを望んでいた」
     彼は俺の頬を両手で包み込み愛おしそうに撫でると、顔を近付け、唇にちゅっと触れるだけのキスをした。
     俺は、ハッ、と息を吐き捨てる。
     このまま自身を突き入れ、思うがままに彼を犯し尽くしてしまいたい。
    「三成さん、俺はあなたが一番怖いですよ」
     結局、俺はいつだって彼の手のひらの上で転がされているのだ。本人に自覚があるのかは分からない。おそらくは無自覚なのだろう。
    「俺がこわい?」
     そう言ってきょとりと俺を見つめる瞳は純粋そのものだ。
     だからこそ余計に恐ろしい。
     俺はシャワーのコックを全開まで捻った。二人の頭上から勢いよくシャワーの湯が降り注ぐ。
    「う、わっ……!」
     驚く彼を他所に、泡に塗れた体は綺麗に洗い流されていく。
    「続きはベッドで」
    「へ……?」
    「ほら、寝室にも幽霊がいるかもしれないですからね、俺たちがラブラブしてるところを見せつけてやらないと!」
     濡れた体をそぞろに拭き上げ、二人で寝室へと縺れ込む。
     彼が怯えていたはずの暴風雨の音は、いつしか彼自身の嬌声で掻き消され、翌朝にはカラリとした青空が広がっていた。



     その日を境に
    「左近、今日は寝室に幽霊がいる気がするのだよ」
     ちょいちょいと俺のシャツを引っ張るあざと可愛いお誘いをするようになった彼に、今度はまたとびきり怖いホラー映画を見せてやろう、と俺は意地悪く誓うのだった。




    20220802
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