いろづくまえに 夏が始まる。
例年よりも長く続いた梅雨が明け、学生達の待ちに待った夏休み。
陵南史上初の県大会ベスト4の成績をおさめた男子バスケットボール部は今季より他校から練習試合の申し込みが殺到した。目的は天才ルーキー仙道彰。どの高校も仙道攻略に余念が無い。
今日は市内の市民体育館で練習試合。スクールバスから備品を運ぶ一年生とレギュラー落ちした二年生も、夏を迎える前に監督田岡の課す厳しい練習内容に付いていけず半数以下になっていた。
窮屈な座席な上に同じスタメンの上級生から五月蝿く絡まれて少しばかり荒んだ気持ちでバスを降りた仙道の目の前に、小さな身体で大容量のウォータージャグを抱え持つ越野がいた。同級の植草と部内でいちばん小柄なチームメイト。だが誰よりも、それこそいけ好かないスタメンよりも負けん気だけは強かった。仙道はいつも、気付けばその姿を探していた。なぜかしら、どこか放っておけなくて、持つよと声をかけるが越野はそれに首を振った。
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