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    🏀🦔⸒⸒
    SD仙越小説倉庫です。
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    2024.7.6
    仙越ウェブオンリーで公開しました!
    予選敗退後の仙越の日常です。
    やることやってるけど付き合っていない...!
    会場でお読みくださりありがとうございました!
    ⚠️作中の太宰の話は史実と少し変えています。

    #仙越

    よひらのおわりに 紫陽花の花終わりは夏の始まりだ。
     たとえバスケ部にとっての夏は事実上終わってしまったとしても、だ。
     仙道は、花後の剪定をされた紫陽花を眺め、これから落とされるであろう田岡の雷と、最近どこか俯くことが多くなった越野の姿を目に浮かべ、晴れ渡る早朝の空を見上げた。
     
     
    「あ、ここもボウズにされてら」
     港町の鎮守神社は相模湾を望む岬の最先端に鎮座する。参道のド真ん中をノシノシと歩む仙道の言葉に、端を歩く越野は首を傾げる。駱駝のように濃く長い睫毛を持つ視線の先には花を落とされ枝葉だけのさびしい紫陽花の姿があった。
    「落とした花は捨てちまうのか?」
    「落とされても最期の役割があるんだよ」
     ほれ、と越野の指が先にある手水舎に向かう。昨日か今日、落としたのだろう。未だにみずみずしいが少し退色を始めた花だけがところ狭しと手水鉢に盛られている。
    「芋洗い…」
    「花手水と言え」
     風情に欠ける男はモテねぇのになんでこいつはこんなにモテるの?
     この世の不条理を噛み締めて、越野は今日も禊を落とす。
     
     
     例大祭を控えた夜、仙道が越野に連れてこられたのは境内にある見晴台。明日は七夕だが港町は織姫伝説よりも毎年行う隣町との行合祭りの方がおおごとらしい。普段はひとけの無い夜の境内に、法被姿の大人たちがちらほらと集まっている。七夕らしい飾り付けは小さな駅に見合った小さな笹の立木と園児たちの大きな夢が詰まった短冊だけだ。
     
     
    「そろそろなんだけどなー」
     日が落ちた空と腕時計を見比べながら越野が言った。
     
     
     その時。
     空へと突き抜ける上昇音が遠くに聞こえた。
     光の尾っぽを引きずりながら、地上五百五十メートル上空で導火線から熱を受けた火薬が直径三百メートルに広がり色とりどりに爆発した。
     
     夜天に大輪の華が咲いた。
     
    「本当に上がった」
    「ラッキーだったな!」
     越野はご満悦だ。
     不定期な上に数分程度の打ち上げ花火に前情報は一切無い。曖昧で不確かなものだったが、静寂の夜を彩る華は海への鎮魂と慰霊の想いを込めた港町に相応しかった。光り輝く遠景の島は、今頃突発的な打ち上げ花火に場が沸いているのだろうか。
     それとも、越野と仙道のように、指を絡め、互いの存在を確かめながら静かに見上げているのだろうか。
     炎色反応によって色を放つ光が越野の顔を染めている。
     仙道の視線を受けた越野は、俺じゃなくて空を見ろ、と言わんばかりに顎を上げた。
     打ち上がりから数分、そろそろおしまいの頃に越野は照れたようにつぶやいた。
    「せっかく連れてきたのに空振りだったらおまえに怒られるとこだった」
    「怒るわけないだろ」
     心外な、とでも言うような低い声が出た。
     越野の視線を花火から奪い、目にかかる前髪を一掴みする。
    「伸びたなぁ」
      困ったように、穏やかに言った。
    「…モイチにも言われた」
     部活終わり、ひとり呼び出されて細かな指摘を受ける中、そろそろ散髪してこいと、聞き分けのない子どもを諭すように田岡に言われた。越野は前髪が目にかかるとすぐに床屋へ行く。以前、小遣い節約の為に仙道に頼んだが大惨事になったので、面倒でもきちんと美容師の手で切ってもらうのが常だった。そのまま仙道の大きな手が越野の額をあらわにする。
     ──富士額って言うんだっけ
     流れるように顔を寄せ、顰めっ面の逆さ富士に口付けた。
    「…またやったな!」
    「こんな絶好のロケーションを逃す男はそうそういない」
    「絶好のロケーションねぇ…」
     視線を下げると境内にいた法被姿の大人たちがこちらを眺めて笑っていた。若いねぇ、なんて、呑気に。
    「ここ、見晴台っていうくらいだからな」
     丸見えだった。
    「………」
    「おまえ県予選終わってから遅刻するわサボるわで全然やる気ねぇからまだ落ち込んでんのかと思って元気付けようと連れてくれば普通に元気だし手もはぇーしなんなの」
     くどくどと越野の説教が始まり、ばつの悪い顔で仙道が言い返す。
    「俺は、ただ」
    「ただ?」
    「越野の方がまだ引き摺ってんのかと思って…」
    「……」
    「好きなもんでも食って、俺と寝て、そんでまたバスケすれば」
     いつものように、元気で、強気な、越野に笑顔が戻るのかなって、さ。
    「だからおまえに美味い魚でも食わせる為に毎日釣りしてた」
    「…怒るに怒れねぇじゃん…」
     監督に遅刻の理由をそのまま言えんのか。と言いかけ、こいつなら言いそうだな…と思い直した。
     
    (勘は良いけど)
     
     ──ばかなやつ
     本当に、天才なのはバスケだけ。
     一歩外に出たら、もうただの高校生。
     
     そう、まだ高校生なのだ。俺たちは。
     
    「…まぁ、美味い魚は食いてぇ。もうおまえとはやらんが」
    「ちぇ」
      仙道は越野の顔を覗き込んだ。
    「越野は落ち込んでねぇのな?」
    「そんな暇あるか!新部長様はこんなだし福田は言うこときかねーし植草は食えねぇ顔で部長の座を狙ってきやがるし合宿の準備だっておれひとりでやってるし!」
     やぶ蛇になってしまった。
     それにしても、だ。
    「顔を寄せただけで真っ赤になってたあのコシノ君が…」
    「何度もされたら慣れるに決まってんだろ!」
    「逞しくなっちまった…」
     あーあ、と仙道は笑った。
     少し嬉しそうなのが癪に障る。
    「…おまえ、俺と心中できる?」
     物騒な単語に仙道の眼が丸くなる。
    「ここ、太宰が女と飛び込んだんだぜ」
     だざい、と口に出してから昭和の文豪を思い出す。
     駆け出しの頃の、まだ無名だった頃の青年時代。婚約者がいるのにもかかわらず、たった三日前に知り合った女給と駆け落ちした。今の越野と仙道のように、指を絡めて、日の出とともに落ちていった。仙道が身を乗り出して崖の下を覗く。境内の大人たちが少しこちらを気にする素振りを見せた。越野は仙道の手をしっかりと握り、落下防止の柵からその身を引き離す。
     
    「うそだよ、ばーか」
     
     何が嘘?太宰の話?心中の話?
     
    「帰ろうぜ、俺、蚊にくわれた」
     
     越野に手を引かれて見晴台から降りると、大人たちは安心したように「気を付けて帰れよ」と声を掛けてくれる。ありがとうございます、と返事して、夜の参道を後にした。
     
     
     花火が終わり腰越港も夜の静けさを取り戻す。
     暗い海を眺め、繋いだ手は離さずに。
    「越野、うち来いよ」
    「やだよ」
     越野は蚊に刺された部位が痒くて仕方ない。空いた手で引っ掻いているとその手を取られて腕に仙道が口付ける。
     強く。
    「全身虫除けしてやるからさ」だからおいで、と、そそのかす。
     とんでもなく甘い面して、とんでもないことを平然と宣うのだ。
     仙道彰という、この男は。
     
     情緒も風情も無い誘い文句にふらふら付いて行く自分も自分。
     
     越野は、仙道のアパートの庭先から飛び出している剪定された紫陽花を眺めて、また来年な、と小さく笑った。
     
     
    (お読みいただきありがとうございました!)
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    775

    DOODLE2024.8.7
    ひらブー
    1年生の仙越未満です。
    ⚠️少し嫌な先輩がいますが説明だけで出てきません。
    【お題】
    ななこさんには「夏が始まる」で始まり、「素敵な色になれたらいい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以上でお願いします。
    いろづくまえに 夏が始まる。
     例年よりも長く続いた梅雨が明け、学生達の待ちに待った夏休み。
     陵南史上初の県大会ベスト4の成績をおさめた男子バスケットボール部は今季より他校から練習試合の申し込みが殺到した。目的は天才ルーキー仙道彰。どの高校も仙道攻略に余念が無い。
     今日は市内の市民体育館で練習試合。スクールバスから備品を運ぶ一年生とレギュラー落ちした二年生も、夏を迎える前に監督田岡の課す厳しい練習内容に付いていけず半数以下になっていた。
     窮屈な座席な上に同じスタメンの上級生から五月蝿く絡まれて少しばかり荒んだ気持ちでバスを降りた仙道の目の前に、小さな身体で大容量のウォータージャグを抱え持つ越野がいた。同級の植草と部内でいちばん小柄なチームメイト。だが誰よりも、それこそいけ好かないスタメンよりも負けん気だけは強かった。仙道はいつも、気付けばその姿を探していた。なぜかしら、どこか放っておけなくて、持つよと声をかけるが越野はそれに首を振った。
    1244

    775

    DOODLE2024.6.7
    仙越SS ひらブー用 仙(→←)越
    高校二年の仙越未満。
    トンビにアジフライ そのかっぱらいは仙道の好物を光の速さで持ち去った。
     ピーヒョロロロと、あえなく。
     
     
     駅沿いの国道から浜に降りると早朝から散々走り込まされた記憶がよみがり、みめよきともっぱら評判の仙道もこれには苦い顔になる。江ノ島を背に七里ヶ浜まで約1キロ半。これを数往復した後はサーファー横目にラントレ三昧。出勤前に波乗りとは、なんて贅沢な時間の使い方。自分も登校前に堤防釣りとでも洒落こみたいものだ、なんてぼんやりしつつもノルマをこなし終えた時には膝が笑っていたのはもう数時間も前の話。今は三浦半島を背にだらだら向かう先は隣駅の腰越港。部活が休みの放課後は、二人か四人で何処か連れ立って遊びに行くことが多かった。船揚場が見えてきて、今日は何が揚がったのかな、なんて予想し合う。仙道は、ここの直売所で売られるアジフライが好物だ。一人で訪れる時は白飯持参でそのまま店内で食べてしまうが、今日は皆で持ち帰りにしてもらい仙道の部屋でBリーグファイナルを観ながら晩飯前の腹ごしらえだ。ホワイトボードのお品書きに目当ての魚と価格を見とめると、いつもより安値が付けられていて顔がほころぶ。保存容器に入れてもらい店をあとにして、行儀悪いとわかっているがまぁまぁひと口、と齧ったところでこんなに大きなアジフライは久しぶりだと思い立ち、高波に挑む勇猛果敢なサーファーたちを背景にスマートフォンで記念にひとつ。
    1536

    775

    DOODLE2024.4.17
    高校三年生の仙にょ越です。
    『それは、クラゲだけが知っていた』の続きです。
    ⚠️越野くんが女の子になっていますがあんまり女の子らしくないので普通に読めると思います。
    診断メーカー【あなたに書いてほしい物語】
    ななこさんには「海に向かって叫ぶ夢を見た」で始まり、「どうかお幸せに」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以上でお願いします。
    いぬもくわない海に向かって叫ぶ夢を見た。
    「ばかセンドー!!」
    あれ、こんなに高かったかな、声。


    遊泳禁止の七里ヶ浜は波が高く泳ぎには適さないが、サーフィンやヨットといったマリンスポーツを楽しむ者たちには隠れた名所として人気がある。右手にはライトアップされた江ノ島のシンボルタワー、左手には三浦半島。マジックアワーの幻想的な空。そんな絶好のロケーションにそぐわない罵倒の叫び。
    「浮気者ー!!今度こそ別れてやるー!!」
    これは夢だ。そして先程から叫んでいるのは自分であると越野は理解していた。だが、それにしては声が高い。そして何よりも、
    『なんでスカートはいてんだ』
    スカートどころかセーラー服なのだが。
    「はっ?!」
    海面に浮上したかのように唐突に意識が戻った。
    1935

    775

    DOODLE2024.4.14
    高校一年生の仙越未満です。
    ⚠️仙道さんに適当に遊んでいる女性がいます(説明だけで出てきません)
    診断メーカー【あなたに書いてほしい物語】
    ななこさんには「小さな嘘をついた」で始まり、「本当は知っていた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以上でお願いします。
    それは、クラゲだけが知っていた 小さな嘘をついた。
     ほんの出来心。
     引き止めたくて出た、咄嗟の苦し紛れのそれ。


    「事故物件?!」
     作文用紙に走らせたシャーペンの先がボキリと折れた。夏休みも終盤を迎える八月下旬、越野が仙道の部屋で課題の読書感想文を終わらせるべく奮闘していた時だった。あらすじと結末部分しか読んでいない本の感想を捻り出すのは容易では無く、うんうん唸っている時にそういえばさぁ、とひどくのんきに仙道が話し始めた。
    「うわ、ほんとだ……」
     越野はスマホで事故物件を集めたサイトを開き、少し緊張しつつ住所を入力して検索をかけると見事にこのアパートが引っ掛かった。
    「よく決めたな」
    「母さんにも言われたよ」
     田岡の熱心なアプローチのおかげで陵南へ進学を決めた仙道は、物件探しに父親と鎌倉へ訪れた。そこで案内された曰く付きのアパートは、築年数はそこそこ経っているがこの部屋だけはリフォーム仕立ての新築同然の内装で、しかも賃料は他の部屋に比べて驚きの格安物件だった。高校からも最寄り駅からも近く何より安い、おまけにリフォーム仕立てとくれば特段に断る理由は無かった。その場で諸々の契約書を交わし、東京へ帰る前に海岸沿いの定食屋で湘南名物のしらす丼を食べながら「掘り出し物件だったなぁ。母さんも喜ぶぞ」と笑っていた父だったが詳細を聞いて角を生やした母に雷を落とされていた。
    2037

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    DOODLE2024.4.14
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    ⚠️仙道さんに適当に遊んでいる女性がいます(説明だけで出てきません)
    診断メーカー【あなたに書いてほしい物語】
    ななこさんには「小さな嘘をついた」で始まり、「本当は知っていた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以上でお願いします。
    それは、クラゲだけが知っていた 小さな嘘をついた。
     ほんの出来心。
     引き止めたくて出た、咄嗟の苦し紛れのそれ。


    「事故物件?!」
     作文用紙に走らせたシャーペンの先がボキリと折れた。夏休みも終盤を迎える八月下旬、越野が仙道の部屋で課題の読書感想文を終わらせるべく奮闘していた時だった。あらすじと結末部分しか読んでいない本の感想を捻り出すのは容易では無く、うんうん唸っている時にそういえばさぁ、とひどくのんきに仙道が話し始めた。
    「うわ、ほんとだ……」
     越野はスマホで事故物件を集めたサイトを開き、少し緊張しつつ住所を入力して検索をかけると見事にこのアパートが引っ掛かった。
    「よく決めたな」
    「母さんにも言われたよ」
     田岡の熱心なアプローチのおかげで陵南へ進学を決めた仙道は、物件探しに父親と鎌倉へ訪れた。そこで案内された曰く付きのアパートは、築年数はそこそこ経っているがこの部屋だけはリフォーム仕立ての新築同然の内装で、しかも賃料は他の部屋に比べて驚きの格安物件だった。高校からも最寄り駅からも近く何より安い、おまけにリフォーム仕立てとくれば特段に断る理由は無かった。その場で諸々の契約書を交わし、東京へ帰る前に海岸沿いの定食屋で湘南名物のしらす丼を食べながら「掘り出し物件だったなぁ。母さんも喜ぶぞ」と笑っていた父だったが詳細を聞いて角を生やした母に雷を落とされていた。
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    DOODLE2024.8.7
    ひらブー
    1年生の仙越未満です。
    ⚠️少し嫌な先輩がいますが説明だけで出てきません。
    【お題】
    ななこさんには「夏が始まる」で始まり、「素敵な色になれたらいい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以上でお願いします。
    いろづくまえに 夏が始まる。
     例年よりも長く続いた梅雨が明け、学生達の待ちに待った夏休み。
     陵南史上初の県大会ベスト4の成績をおさめた男子バスケットボール部は今季より他校から練習試合の申し込みが殺到した。目的は天才ルーキー仙道彰。どの高校も仙道攻略に余念が無い。
     今日は市内の市民体育館で練習試合。スクールバスから備品を運ぶ一年生とレギュラー落ちした二年生も、夏を迎える前に監督田岡の課す厳しい練習内容に付いていけず半数以下になっていた。
     窮屈な座席な上に同じスタメンの上級生から五月蝿く絡まれて少しばかり荒んだ気持ちでバスを降りた仙道の目の前に、小さな身体で大容量のウォータージャグを抱え持つ越野がいた。同級の植草と部内でいちばん小柄なチームメイト。だが誰よりも、それこそいけ好かないスタメンよりも負けん気だけは強かった。仙道はいつも、気付けばその姿を探していた。なぜかしら、どこか放っておけなくて、持つよと声をかけるが越野はそれに首を振った。
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    DOODLE2024.6.7
    仙越SS ひらブー用 仙(→←)越
    高校二年の仙越未満。
    トンビにアジフライ そのかっぱらいは仙道の好物を光の速さで持ち去った。
     ピーヒョロロロと、あえなく。
     
     
     駅沿いの国道から浜に降りると早朝から散々走り込まされた記憶がよみがり、みめよきともっぱら評判の仙道もこれには苦い顔になる。江ノ島を背に七里ヶ浜まで約1キロ半。これを数往復した後はサーファー横目にラントレ三昧。出勤前に波乗りとは、なんて贅沢な時間の使い方。自分も登校前に堤防釣りとでも洒落こみたいものだ、なんてぼんやりしつつもノルマをこなし終えた時には膝が笑っていたのはもう数時間も前の話。今は三浦半島を背にだらだら向かう先は隣駅の腰越港。部活が休みの放課後は、二人か四人で何処か連れ立って遊びに行くことが多かった。船揚場が見えてきて、今日は何が揚がったのかな、なんて予想し合う。仙道は、ここの直売所で売られるアジフライが好物だ。一人で訪れる時は白飯持参でそのまま店内で食べてしまうが、今日は皆で持ち帰りにしてもらい仙道の部屋でBリーグファイナルを観ながら晩飯前の腹ごしらえだ。ホワイトボードのお品書きに目当ての魚と価格を見とめると、いつもより安値が付けられていて顔がほころぶ。保存容器に入れてもらい店をあとにして、行儀悪いとわかっているがまぁまぁひと口、と齧ったところでこんなに大きなアジフライは久しぶりだと思い立ち、高波に挑む勇猛果敢なサーファーたちを背景にスマートフォンで記念にひとつ。
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