指折り数えていた結末など、もういくつあったかなんて覚えていない。ジョーカーしかないババ抜きなんて最初からゲームも選択肢も与えられていないも同然だった。それでも、醒めることのない悪夢を見続けていたのだと思う。
はじめってどこだったっけ。おわりってなんだったっけ。忘れることって、どんなことだったっけ。
「……あー……」
目の前には、見慣れた鮮血が広がっている。嫌というほど記憶にある、最早この瞼の裏さえ赤色に染まっているに違いない。やったのは誰なんだ、と視線を揺蕩わせれば、鮮血の溜まりの端で知らない顔の男が倒れていた。腹から万能ナイフの柄をちらつかせて、もうきっと黙した後のようだった。
鈍った思考の中で、とりあえず人を呼ぶべきかと気付く。どうせ数時間後には『なかったことになる』とはいえ、流石にそのままにしておきたくはないと血溜まりの中で靴裏を蠢かせると、誰かが呻いた声がした。
「ふ、わ、く……?」
零れた音は、もちさんのものだった。
「もちさん」
「ああ、あ……ぶじ、」
「……ん、俺は無事だよ。大丈夫」
「よか、った」
どう見たって一番無事じゃないのは自分のはずなのに。ひゅうひゅうと風穴の空いた喉で、もちさんが笑う。なんでだよ、なんて言葉がかけられるわけがない。救えなかったのは俺の方だから。
「……大丈夫よ、もちさん。全部夢やから」
「……ゆめ、」
「そう、夢。やから、ゆっくりおやすみ」
薄まった黄緑の光が、徐々に色を失いながら閉じられていく。生が喪われていく。何もできやしない俺の前で、無力さをまざまざと見せつけながら。
嘘しか吐けない男に思い出をくれた人々が死んでいく。じゃあ、俺は何も返せないまま独りを嘆くことしか出来ないのか。──その答えは否だった。薄い情だけで息ができるほど、俺は生きることが上手でなかった。
だから覚えなどなくなるほど、それでも忘れることもかなわないほど、俺はまたここを起点に繰り返す。もちさんを、社長を、甲斐田を生かすための明日を探すために。
「俺が死ぬ分には構わんのになぁ」
百点の取れないテスト用紙。足りないあと一点が自分だと気付くには、まだ時間がかかりそうだった。