第0xxxxx目 剣持刀也 ぽつり。
光源は薄く体感も出来ないような空気の流れへ呼応するように、その橙色の背を伸ばしたり縮めたりしながら揺れている。既にスタッフたちは別室へと移動していた室内では、見慣れたメンバーが蝋燭を取り囲むように膝を突き合わせていた。
導入と説明だけを別撮りした後、組まれたセットでもある百物語の舞台へ座り込んだ四人は、お互いの顔を見合わせて無言を漂わせている。それもそうだ、今まで数々の企画をやってきた経験は幾度となくあるものの、こんなかたちはかつてなかったのだ。この中では一番長いはずの剣持でさえ、異様な雰囲気を醸し出す今の状況のような経験なんてなかったのだから。
少しばかりの静寂の中でさえ、影はほのかにその縁をぼやかしながらもゆらめている。濃く深く、黒を更に塗り潰したような一寸先は目を凝らしても見通すことなど出来ず、自分たち四人以外にもその影の隅には何かが潜んでいるような心地さえ感じられる
ただきっとそれは、この異様な空気感が及ぼすまやかしだということも往々に理解は出来ているわけで。
意を決するかのように、剣持は膝の上でゆるく握っていた掌をもう一度握り込み、背筋をしゃんと伸ばした。公正なるじゃんけんの結果で、このおかしな企画の一番槍を務めることになった少し前の自分を若干恨めしくも思いながら、その口を少しばかり開く。
「じゃあ、始めますよ」
短い一言に、三人は居住まいを正してからこくりと頷く。声もなく、ただ剣持が吐き出した呼吸の音に合わせて、四人の真ん中に据えられた蝋燭がゆらり、とかたちを歪ませた。
「……昔、まだ僕が小さかった頃の話なんですが、」
切られた口火は、どこに転じるのだろうか。それは物語を始めてしまった剣持にさえ、未だ分からないことだ。