飲み会眠りから目が覚めたら、二十年も時間が過ぎていた。
当時まだ二十代だったわたくしも四十過ぎ、という奇妙な現実を辛くも受け止め。
すっかり大きくなった甥とコミニュケーションを取り。
兄を殺すという自分の目的と合致した、とある条件を飲み。
そして『あの子』と再会するに至った。
「飲みに行かんかね」
コールドスリープから覚め、はやくも一週間が経った頃。
飲みに誘われた。
「行かぬのです。さらばー」
「にベも無さすぎぃ。もうちょい優しくしてくれんか、幼馴染なんじゃから」
「プルーンの苗木むしったりですかー」
「わしの髪はプルーンちゃうよ?」
ミフネくん。
昔そう呼んでいた、歳下の子……だった、現中年男性。
当時陰気だった、尖ったナイフのようだった彼が、どうしたことだろう。
ものすごくにこにこ穏やかになっていた。
ジョブチェンジだろうか?と、からかおうとしてやめた。
「ダメかい?いい店知っとるんじゃがのー。料理の美味いとこ。大人様ランチとかあったっけの」
「行きますです」
わたくしは即答した。大人様ランチ。
ハンバーグ、エビフライ、チキンライス……あとはなんだろう、ケチャップスパゲティとかだろうか?
なんでもいい、食べたい。
そんなこんなで好物に釣られ、わたくしはまんまと誘いに乗るのだった。
ーーーーー
「美味いかの」
「うまいのですー」
正面に座ってにこにこしているミフネくんをよそに、わたくしは大人様ランチのエビフライを頬張る。
ハムスターもびっくり。ちなみに大人様ランチにひまわりの種はない。
「水、まだあるかい」
「む。ありませんです」
「ほうか、なら飲物でも頼むかの?」
見せびらかすようにメニューを掲げるミフネくん。
指し示すは、当然のごとくアルコール類のコーナー。
せっかく大人様ランチを食してご満悦だったのに、そこに滲む意図に勘づいて、わたくしは気分が一気に冷める。
「君のことを警戒しているからいりませんのです」
「ほう。それは男として見られているという事かのう」
「悪い意味で正解ですー」
大人様ランチを食べ進める手を止め、ミフネくんをじっと見つめた。
柔和な笑みではあるが、彼は『男』の眼差しだった。
「君、ずいぶん大人になりましたね。わたくしの方が歳上なのに生意気なのですー」
「まあ、四十じゃし」
「女の肌で寂しさを紛らわそうとするとこがです」
ミフネくんの笑顔がひきつる。
「みーくんに聞きましたよー。君、ずいぶん人を誑かすのが上手くなったんですねー?」
「さあ。どういう意味かの」
「相槌打つだけで女をお持ち帰りするスキルが高いそうでー」
「それがどうしたという」
「別にー。ただ、昔の君とは違うなーと」
わたくしが知っているミフネ少年は、卑屈でも人の気持ちを弄ぶような人間ではなかった。
野良犬のようながら、心は純朴だった。
けれどもミフネくんは、この男は、そういう大人に成長してしまっていた。成り下がったのだ。
「失敗と苦労が詰まった人生の末に得たスキルじゃ。放っといておくれ」
「言われなくても。君が闇堕ちしてもわたくしには関係ない話なのですー」
半分残ったハンバーグをさらに切り分けているわたくしにどこか白けたような笑みを向け。
不意にまだ数口しか飲んでいなかった酒をひと思いにあおるミフネくん。
あれ、この子アルコール飲めるのか?
「ふにゃあ」
「あーら、まあまあ。潰れちゃったのですー?」
止めるまもなく、ミフネくんはテーブルに頭突きし一瞬にして酔い潰れた。
酒に弱いのになぜわざわざ飲むのだろう。
自分の羽織った赤色の着物をミフネくんに掛けてやる。
いびきをかいているから聞こえてないだろうが、こう言った。
「そんなに寂しいのは、一人じゃなかった頃があるからでしょー」