これが地獄なのだとそう悟った。人間世界とバリアン世界とアストラル世界の均衡が壊れ始めた。俺は凌牙を取り戻すために、デュエルをした。
そして負けた。分かっていたのだ。運命とは皮肉なものだ。
「先に地獄で待っているぜ」
そう彼に別れを告げ、自分は死んだはずだった。
目を開けると、見慣れた街並みが視界に入る。それはバリアン襲来により、失われたものだった。
もし生きていたのなら自分の体はデュエルのダメージとRUMと紋章の力を使って、CNo.にランクアップさせたせいで、ボロボロであったはずだ。
それに俺は目の前で遊馬のために挑んで行った仲間が光の粒となってバリアンが生み出した光のタワーに吸収され、死んでいったのを見た。
だから、もしそうであるのならこれが地獄であるしかないのだ。
自分が地獄へ行く人間だと分かっているから。
ここがそうならば、当たり前のハートランドシティの街並みが想像していたものとの差に驚きを隠せない。
動揺してその場から動けずにいると、
「Ⅳ」
と名を呼ばれ、思わず振り向く。声の主を俺は知っていたから振り向かざるを得なかった。
「りょ……うが?」
そこにいたのは逃れられない運命に身を投じるために、自分と闘いバリアンとして生きる道を決めた男であった。
そして俺が取り戻そうとして取り戻せず、運命に身を投じるために自分を利用した男。
彼がここに来るのは、早すぎるしいささか彼の様子はどこかおかしい。外見も最後に見た人間の姿であるが、やはりどこか違う。
自分が知っている”神代凌牙”ではない気がしたのだ。彼は俺に対して愛おしいものを見る目をしない。俺を見つけた時の顔とか声がまさしくそうだ。まるで彼の態度が愛おしい恋人に対して接しているみたいだ。
「Ⅳ」
そういう彼は本当に俺が愛おしい恋人のように見えているようで、俺の頬を優しく触れてくる。左頬を右手で触れて、親指の腹でデュエルする際に色が変化する左目の目元に触れている。
「本当に……タチが悪い。」
そう呟いて目を瞑った。唇に柔らかなものが当たった。