『また』なんて無いままで『また』なんて無いままで
貴方は幸せになってください
マグマフィールドからARフィールドが解けていくのがわかる。
CNo.の攻撃されたダメージ分の痛みのせいか、それとも紋章の力が切れたからか。立ち上がれずにいた。凌牙にあの時の罪や責任を全て自分にあると、恨むなら自分を恨んでくれと悔悛した。立ち膝をつき、地面に右手をつき、紋章に力を展開させる。
懇願のようなことを凌牙に言う。自分ではなく、凌牙ならトロンを止められると。トロンが選び、俺を倒した凌牙ならきっと。
凌牙に負けて、紋章の力でワープして戻ったはいいものの。
戻ったら戻ったで、WDCの決勝が始まる前に寝てしまったⅢに加え、Ⅴも寝ていた。
Ⅴも寝てしまったのかとかカイトに負けたのかとかトロンのことなど色々考えてしまうが、二人の顔を見て体は安心して力尽きて、目覚めたらベッドにいた。
それはⅢやⅤも同じ状況だったようで、いつの間にベッドで寝ていたんだと兄弟揃って同じような反応をしていた。
目覚めたら、トロンはおらず復讐は成功したのか、今どこにいるのかなどわからない事だらけで不安になっていたが、Ⅴの一声でとりあえず、ベッドから降り、支度を始めた。
生まれたままで寝ていたため、このままではたとえトロンが見つかったり、探しにいくとしても外には出られないためだ。
支度を終え、これからどうするかと三兄弟で話し合って、ひとまずWDCの会場に向かい、トロンを探すこととなった時、紋章の力でワープしてきたトロンが目の前に現れた。
トロンは記号のように付けた名前ではなく、バイロン・アークライトの頃に優しい声色で愛おしいもののように呼んでいた俺たちの本当の名を呼んだ。Ⅲ…ミハエルは泣き出して崩れるように父の名を呼ぶ。
父は泣き出したミハエルの頭を撫で、俺と兄貴を手招きするようにこちらにおいでと言われ、自然と足が動き、トロンの元へ向かう。
抱きしめてきたトロンからあの頃の優しさが感じられた。
トロンに謝られ、ゆっくりと口を開いて俺たちが眠ったあとを話し出した。
トロンは遊馬に負けたようで、その後スフィアフィールドに遊馬もとい、ゼアルと閉じ込められ遊馬を助けるために自ら犠牲となり、目が覚めたら崩壊している会場で倒れるように寝ていたようだった。
その後、紋章の力でここまで戻ってきたと。
WDCが終わり、トロンのDr.フェイカーへの復讐もトロンの中では終わったようだった。
トロンの復讐が終わったことによってハートランドにいる理由がなくなった。
心機一転ということで、ハートランドシティから別の場所に拠点を移すことになった。
ハートランドシティには様々な思い出がある。
苦い思い出も、辛い思い出も、楽しい思い出も。
トロンの言うことならとⅢもⅤも賛成で、俺も同じように頷いた。
最後にと、トロンがハートランドシティを一望できる場所に行こうと、紋章の力で移動した。
ハートランドシティが一望できる場所は夕焼けがハートランドシティを照らしていた。
ふと騒がしい方へ目を向けると広場には人が多く集まっており、遊馬とカイトの事実上の決勝戦をやっていた。
カイトがデュエルをサレンダーしようとする姿に兄貴は眉を潜めつつ、何も言わなかった。
遊馬がカイトを説得する。カイトは納得したような気持ちを入れ替えた顔をして、そこからデュエルが再開した。
広場に集まっている人を見るが、凌牙の顔はどこにもなく、最後に彼の無事な顔が見たかったなんて傲慢な考えをすぐに消した。
俺は凌牙と凌牙の妹を傷つけて一生償っても償えないような傷を負わせた。凌牙の俺に対する復讐が終わったかどうか分からないが、一生許されようとは思わない。
だからきっと会わないほうが彼にとって幸せだから。
『また』なんて無い方がいい。どうか貴方は私のことを忘れて幸せになってください。
そう願って自分の名を呼ぶ父の方を振り向き、ハートランドシティを後にした。