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    6mns3

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    片頭痛持ちのアルハイゼンの話目が覚める。
    いつもの朝より部屋が薄暗い。雨でも降っているのかと体を起こせば、ズキリと頭が傷んだ。

    「…っ!」

    アルハイゼンは幼い頃から、天気が悪い日は頭痛になりやすかった。それが片頭痛というものだと知ってからも、体質は変わらなかった。

    こういう日は寝ている方がいいのは分かっているが、仕事机の上に重なる未処理の書類を思い出して溜息をつく。繁忙期に休めるほど、教令院の書記官は暇じゃない。

    気怠い体を叱咤して身を起こし、朝食の準備をする。簡単なピタを作り、コーヒーを入れる。
    いつも通り読書をしつつ、朝食の時間を過ごす。
    騒がしい同居人は、数日の間留守にするとメモを残して帰ってきていない。
    どうやら大きな仕事が入ったと、前に話していたから、きっとその関係だろう。

    カーヴェがいないだけで、部屋が広いように感じた。祖母が亡くなってからは、一人で暮らしていた。
    だから、これが本来のあるべき生活のはずなのに。

    本のページを捲る音がやけに大きく聞こえた。






    朝食を食べ終え、身支度を整える。時々頭は痛むが、動けないほどではない。
    外に出れば、やはり空はどんよりと曇っていた。今にも雨が降りそうだった。

    教令院での仕事は、基本的にルーチンワークだ。それでも、処理件数が急激に増加すれば繁忙期というものになる。

    昼休みをつげるチャイムの音で、アルハイゼンは手に持っていたペンを置いた。デスクワークで凝り固まった体を伸ばす。

    防音機能のついたヘッドホンを外せば、土砂降りの雨音がやけに頭に響いた。

    朝からまとわりつく痛みは、ズキズキと刺すような痛みに変わっていた。机の引き出しから鎮痛剤を取り出して服用する。

    薬が効くまでの間、少し仮眠を取る。効率が低下すると分かっているが昼食を取る気にもなれず、そのまま机にうつ伏せになった。





    仕事が終わり、自宅へ帰る。
    昼に飲んだ薬の効果が切れてしまい、歩くたびに頭が刺すように痛む。

    家に着いて、灯りをつける。
    照明が妙に眩しく感じて、くらりと眩暈がする。灯りを消すと、ふらふらと倒れるようにカウチに横になる。あまりの強い痛みに若干の吐き気を催す。

    着替えなければ、薬を飲まなければとやるべきことが頭に浮かぶが、とても動く気にはなれなかった。


    +++


    カーヴェは数日ぶりにスメールシティへと帰ってきていた。
    久々に大規模な建築の依頼があり、泊まり込みで現地視察をしてきたのだ。

    依頼主は気難しいところはあるが、非常に芸術性の鋭い人物だった。最初は意見がぶつかることもあったが、徐々に打ち解け、思っていたよりも長居させてもらうことになってしまったのだ。

    こんな時間に帰ったら、またアルハイゼンに嫌味を言われそうだと、カーヴェは小さくため息をつく。

    しかし、旅路の途中で泊まれるほど手持ちに余裕がないのも確かだった。

    「ただいま…」

    玄関を開けると、小声でそう言いながらドアを開ける。
    部屋の中は真っ暗だったので、カーヴェは足音を立てないようにしながら、照明をつけた。
    すると、カウチでアルハイゼンが寝ていることに気づく。

    「あれ、珍しいな…こんなところで寝るなんて」

    不規則な生活をしがちなカーヴェと違い、アルハイゼンは決まった時間に寝起きしている。だから、こんなところで寝ているのは違和感がある。

    「アルハイゼン…?」

    軽く肩を揺すりながら声をかけると、アルハイゼンは小さく呻いて手で頭を押さえている。

    「おい、大丈夫か?」

    「…っ、いたい…」

    「頭痛がするのか?」

    アルハイゼンのそばにしゃがんで、そう声をかければ、こくりと頷く。

    「とりあえず、ベッドに移動したほうがいい、歩くのは…厳しいよな」

    カーヴェはメラックの力を借りてアルハイゼンをベッドへと運んだ。体を起こしているのも辛そうなアルハイゼンを介抱しつつ、なんとか部屋着に着替えさせる。

    「薬は飲んだのか?夕飯は?」

    「…昼に鎮痛薬を…夕飯はまだ…」

    小声でそう答えるアルハイゼンに、小さくため息をつく。この様子だと、昼も食べたのか怪しいところだ。

    「分かった、ちゃんと寝てなよ」

    カーヴェはアルハイゼンにそう声をかけて部屋を出ていく。薬を飲ませる前に、消化の良いものを食べさせた方がいいだろう。

    台所にある野菜を細かく切って、スープを作る。アルハイゼンが弱っているところを見るのは初めてで、少し調子が狂ってしまう。
    たまには先輩風を吹かせてもいいだろう。


    +++

    「分かって、ちゃんと寝てなよ」

    そう声をかけられて、カーヴェが部屋を出ていく。ズキズキと治らない痛みに耐えながら、おかえりの言葉もしっかりと言えてなかったことに気づく。

    うつらうつらとしながら、遠くからトントンという料理の音が聞こえる。

    そういえば、幼い頃に頭痛で寝込んでいると、祖母がいつも野菜スープを作ってくれたことを思い出す。頭痛で眠れないと言ったら、眠りにつくまで頭を撫でてくれた。

    そんな遠い記憶を思い出しながら、意識は微睡んでいった。

    「…ぜん、アルハイゼン?」

    肩を軽くゆすられて目を覚ます。

    「…カーヴェ」

    「薬を飲む前に、少しスープ飲めないか?無理はしなくていいから」

    カーヴェに支えられながら、ゆっくりと身を起こす。相変わらずズキリと痛みが走る。

    渡されたスープには、細かく切った野菜が入っていた。スプーンを受け取り、ひとくち口にする。

    「…どうかな?悪くはないだろ?」

    「…ああ、おいしい」

    なぜだろうか、ただの野菜スープだと分かっているのに、妙に胸が詰まるような気持ちになる。スープを飲み終えると、カーヴェは嬉しそうな顔をして器を受け取る。

    「…大丈夫か?どこら辺が痛いんだ?」

    カーヴェの手がおそるおそるといった様子で頭を撫でてくる。

    「…あ、アルハイゼン…?」

    「…どうした?」

    「君、泣いてるのか?そんなに痛いのか?」

    「…え…」

    そう言われて、初めて自分の頬に涙が伝っていたことに気づく。

    「いや、何でもない」

    そう言って顔を背ければ、カーヴェがくすりと笑ったような気配を感じた。

    「薬と水はここに置いておくからな」

    そう言って、カーヴェは部屋を出て行った。
    情けないところを見せてしまった羞恥心で、アルハイゼンは顔が熱くなるのを感じた。









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