きみとお揃い◎きみとお揃い
3年に進級した司くんはブレザーを着るようになった。カーディガンも、今まで着ていたものとは違う、落ち着いた色合いのものを着用している。カーディガンに関しては、僕も新調したものを着ているけれど。
司くん曰く、風紀委員になったからには身なりもしっかりしないといけないとな、ということらしい。
こういう、形から入ろうとするところは実に司くんらしくて、好きなところだ。それに、ブレザーを着ている司くんは新鮮で、見ているこちらとしても目の保養になる。ふふ、司くんは何を着ても似合ってしまうんだね。
そんな、ブレザー姿の司くんに絆されている日々のとある日。
「そういえば、類はブレザーを着ないのか?」
いつものように屋上で二人でお昼を取っている最中、司くんがふと尋ねてきた。購買で購入したコッペパンを片手に、上目遣いでそう聞いてくる司くんはなんとも可愛らしかった。
確かに、言われてみればブレザーを着ようと思ったことがなかったな。そもそも、ブレザーはどこにあるのだったかな。口に含んだたまごサンドを咀嚼しながら自分の部屋の全体図を思い浮かべてみるが、全く思い当たる節がない。
「うーん...実は、ブレザーをどこにしまっておいたか見当がつかなくてね...多分、捨ててはいないと思うのだけれど。だから、着たくても着れないという状況なんだよねえ」
「ぬ...つまり、お前のあの部屋のどこかに埋もれているというわけか...まったく、日頃から掃除をしないからそういうことになるんだぞ」
「ふふ、心配はいらないよ。特に、ブレザーを着ようと思ったことは無いからね。まあ、気が向いた時にでも探しておくよ」
「む...そうか。まあ、ブレザーを着ることを無理強いするものでもないしな...」
司くんはどこか寂しげそうだった。
これは...僕がブレザーを着る気が無いということが、司くん的には残念だった...ということなのだろうか。
え。待ってくれ。それはつまり...いや、そうか。司くんがそもそも興味が無ければ、僕にブレザーを着ないのか、なんて聞いてこないだろうし。
「ひょっとして司くん...僕がブレザーを着たところが見たかった、とかなのかい...?」
そういうことだと、思った。
それは図星だったようで、司くんは目を見開き、分かりやすく焦った表情を見せた。
「な、なぜ分かった!?」
「司くんが分かりやすすぎるんだよ?ブレザーを着る気が無いといったら露骨に残念そうな顔をするから。ふふ、でも嬉しいな。司くん、僕のブレザー姿が見たいんだねえ」
「お前のブレザー姿、一度も見たことが無いからな...類がブレザーを着たら、どんな雰囲気なのだろうと気になってしまってな。それに...」
「まだ、何か理由があるのかい?」
「これまでは、オレも類も、シャツにカーディガンという格好で過ごしてきただろう?別に、示し合わせたわけではなかったし、色は違ったが...お揃いだった。だから、その...もう、お揃いではなくなるのだなと思ったら...少し、寂しいと感じたんだ」
気恥ずかしそうにそう吐露する司くんに、今度は僕が目を見開く番だった。
ど、どうしよう。司くん、これまで制服が僕とお揃いだと思ってくれていたんだ...。しかも、僕が「ブレザーを着る気が無い」ことに寂しさを感じてしまうくらいに、それが嬉しかったということなのかな。
それに比べて僕は、制服だからとあまり気にしてこなかった。司くんと色違いのカーディガンかな、とは思ったことはあったが、それだけだった。司くんがブレザーを着だした時も、ブレザーの司くんも可愛いな、新鮮で良いな、としか思わなかった。
お揃いだなんて、そんなふうに思っていなかった。
今頃ながら気付く。司くんとお揃い、そんなのは嬉しいに決まっているじゃないか。
く...僕はなんて薄情者なのだろうか。
「ああ、でも別にいいんだぞ。さっきも言ったが、ブレザーを着る事を強いているわけではないし、オレがそう思ってしまっただけで...すまん、なんだか、わがままを言ったようになってしまったな。気にしないでくれ」
「分かったよ司くん」
自嘲気味に、困ったような笑顔をこちらに向ける司くんの手を取る。こうなったら、僕がやることはただ一つ。
「頑張って、ブレザーを探すよ。そして、お揃い制服コーディネートをしようじゃないか」
「え...」
司くんは驚いていた。
まさか、僕があの部屋の中でブレザーを探す気になるとは思わなかった...という感じだね。
ふふ、僕は司くんのためならいくらでも頑張れてしまうんだよ。確かに片付けや掃除は苦手だけれど...司くんと、お揃いになるためなら。
「いいのか?...ならばオレも手伝うぞ!一人より二人だ!それにお揃い、ということであれば...もし見つかったら、まずはオレだけに見せて欲しい。類のブレザー姿をな」
「おや...それは、ブレザー姿の僕を独り占めしたいということかな。意外と独占欲があるんだねえ司くん」
「い、いいだろうこれくらい...!オレは、類の恋人なのだからな!好きな人のいつもと違う姿というのは真っ先に見たくなるものだろう」
「ふふ、そうだね。僕も、まずは司くんだけに見せられるというのが嬉しいけれど...ああ、無事に見つかるといいなあ...」
思わず、天を仰ぐ。先ほど自分の部屋を思い返してみて、全く心当たりが浮かばなかったのが先行きが不安というものだった。
これは...司くんがさっき言っていた、「日頃から掃除しないから」というのがじわじわと効いてくる。
でも、嬉しいね。
制服一つで、司くんからの独占欲を感じられるだなんて。
久しぶりに、部屋の片付けに精が出そうだ。