かわいいわがまま『お誕生日おめでとうございます。まだ寒くなる日もある様です。お身体に気をつけてお過ごしください』
0時ピッタリに送られたメールに気がついたのは、仕事が一段落ついた頃だった。いくつか同様のメールが来ていたがピッタリに来ていたのはそれだけ。高塔雨竜からだった。
ありがとうと伝えたくて、電話をかける。コールが鳴ってから、もう眠っていたかもしれないと思ったが今更切るのもおかしいかとしばし待つ。
「…もしもし?」
3回ほどコールが鳴って、雨竜が出た。
「遅くにすまない」
「いえっ…あの、まだ、起きてたので…」
そうは言うものの、いつもより少し穏やかな口調で心なしか眠そうに聞こえる。
「そうか。……手短に話そう。…メールありがとう。まさか、覚えていてもらえると思ってなかった」
覚えていたとしても、こうして祝ってもらえるとは、全く思っていなかった。
「……ふふ、一番のりでしたか?」
「あぁ。……起きて待っていてくれたのか?明日も仕事だろう?」
「そわそわして…全然眠れなかったので……」
そう言いながら、あくびを噛み殺しているのだろう。くわりと吐息が聞こえた。
「そうか…。祝おうと思ってくれただけでうれしい…ほら、もう仕事に差し支えるから、寝たほうがいい」
出来ればもう少し話したいが。雨竜がきつい思いをするのは避けたい。うううと、小さく唸る声とともに「もうちょっとだけ」と消え入りそうな声が聞こえた。甘えた幼い声に、昔の姿が瞼に浮かぶ。
傷つけないように、どう電話を切ろうかと悩んでいるとラウンジの方から、自分を呼ぶ颯の声が聞こえた。慌ててスマホのマイクを手で覆ったがどうやらその声は雨竜にも聞こえてしまっていたようで。
「…宗雲さんのほうがお忙しかったですよね…すみません。わがまま言って」
しゅんと眉を下げる顔を思い出す。
「いや、俺が声を聞きたかったんだ。また連絡する。…必ず」
語気を強めて紡ぐと、一層嬉しそうに「はい」と大きな声がした。興奮して眠れなくならないと良いが。そう思いながら。またなと、宗雲は電話を切った。