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    YaguchiSumi

    @YaguchiSumi

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    YaguchiSumi

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    ジョン・スミスはだれ?

    イアシキ(ミステリ)小説になる予定。序盤。書けたところから足していきたい。
    ※真エンドクリア済み閲覧推奨

    #BMB

     ディスプレイを眺める男の目はひどく濁っていた。
     今日も一人、人間が死んだ。正しくは男が死に追い込んだのだが。死んだ人間の名前は「ジョン・スミス」名無しとして警察の名簿に載ったことを確認すると、鼻から笑いが漏れた。人間の存在など所詮その程度のものだ。データ、書類、人の記憶、媒体が何であれ記録されたものはいとも容易く更新できてしまう。男はそれをおかしいと思わなかった。自分にはそれができたからだ。そんな男自身もしばらく本当の名前というものを呼ばれたことがない。
     名無しのジョン・スミス。
     自分もそうなのかもしれない。



    「いい加減に休みを取れ」
    「取ってるよ。そこで」
     常人なら平伏してしまいそうな高圧さでイアンに見下されたシキが、何の感慨もなく指差した先は部屋の隅にぽつんと置かれた二人掛けのソファだ。ディスプレイを見続けながら返事をするシキに「こっちを向け」と言っても効果がないのはもはや分かりきっている。この会話をするのも実は初めてではなく、お互いがお互いの言い分にうんざりという顔を隠さなくなってきた程度には回数を重ねているのだった。
     ここ二週間ほど、シキは家に帰っておらず、満足に睡眠も食事も取っていない。イアンがそれを知ったのは一週間前で、つまり一週間このやり取りを続けているわけだが、全く会話は平行線を辿っていた。とある事件の当事者として、そしてある意味被害者として、シキは昼夜を問わず調査を続けていた。
    イアンにはよく分からない領域だが通常業務も同時に行っているというのだから、普通の人間ならとうに限界が来ているだろう。だがしかしシキの集中力と物事を追求する行動力は、一般という枠からかけ離れているのだった。普段なら常に黄色信号を発しているような体力ですら、その並外れた能力によって底上げされているとでもいうのか、依然として尽きる様子を見せない。
    とはいえ二週間である。そろそろ実力行使をしてでも休息を取らせねば、とイアンが眉間を揉んでいると、シキが珍しく振り返りおずおずと口を開いた。
    「その、イアンがボクを心配してくれてるのは、分かってる…」
     でもこれはボクの問題だから、と続けられてしまえばイアンもそれ以上口を挟むのは難しいのだった。自分には手を出せない領域であることも頭では理解している。だが、それ以上にイアンはこの目の下に隈を作ってディスプレイの前から動こうとしない青年が心配なのだ。
    ディスプレイに表示されている膨大な「ジョン・スミス」の名前を前に、イアンは今日も小さく肩を落とすのだった。


     事件はナデシコの言葉から始まった。
    「ジョン・スミスが死んだ。シキ、調べてくれ」
    日々のルーティンであるミカグラ島に新たな犯罪組織が発生していないかチェックする仕事が一段落したタイミングだった。見計らったようにシキの居城となっているメインPCルームにノックと同時に入室したナデシコが、何枚か綴りの書類をシキに手渡す。
    「誰…?」
     “ジョン・スミス”といえば所謂”身元不明人”を指す名前だ。だが、身元不明人の身元を調べてくれという案件にしては、何か臭った。シキがもともと犯罪組織の中枢にいたという経験が、犯罪の臭いというものに敏感にさせているのかもしれなかった。
     恐る恐る、だが素早く渡された書類に目を通す。交通事故の被害者の男性の死亡診断書だ。死んだ事故自体に事件性はなく、酔っ払って車道に出たところを車に轢かれ、轢いた車はそのまま逃走。身元を証明するものを所持しておらず、身元不明人、ジョン・スミスとして処理された。
    「この人の身元と轢いた車を探せばいい、ってこと?」
    「いや、全部だ」
    「それって…」
     どういうこと?というシキの視線を受けナデシコは話し始める。曰く、ただのひき逃げ事件として警察内で捜査したところ、このジョン・スミスの名前も住所も入国記録も見つけられなかったというのだ。そして部下の報告を受けた刑事部長が警視総監であるナデシコ及びナデシコが率いるチームに協力を依頼してきたという経緯らしかった。
    「この男が警察とグルで犯罪に関わっていてそれを隠している、というわけではなさそうでな。警察も最近は随分とクリーンな組織になったものだ」
     冗談なのか本気なのかよく分からない台詞に、シキは無反応という反応を返しながらキーボードを叩く。男の顔写真を監視カメラの認証システムに登録し該当者を探す傍ら、事件現場付近の監視カメラの映像を確認し、該当の事故を発見した。
    路地からおぼつかない足取りで表通りに出てきた被害者が、右手からスピードを落とさず近づいてきた乗用車にはねられている。乗用車のナンバーを更に検索すると、持ち主はミカグラ島に住む人物であることが判明した。だが、問題はそこからだった。
    「車の持ち主の名前が、ジョン・スミス…?」
    「なに?」
     シキの呟きに反応したナデシコが、ディスプレイに表示されている車両登録書に目をやる。
    「これは、偶然とは思えんな」
    「ボクもそう思う…」
     ジョン・スミスという名前の人間がたまたまジョン・スミスを轢き逃げた。そう考えるにはあまりに不自然だった。
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    YaguchiSumi

    MAIKINGジョン・スミスはだれ?

    イアシキ(ミステリ)小説になる予定。序盤。書けたところから足していきたい。
    ※真エンドクリア済み閲覧推奨
     ディスプレイを眺める男の目はひどく濁っていた。
     今日も一人、人間が死んだ。正しくは男が死に追い込んだのだが。死んだ人間の名前は「ジョン・スミス」名無しとして警察の名簿に載ったことを確認すると、鼻から笑いが漏れた。人間の存在など所詮その程度のものだ。データ、書類、人の記憶、媒体が何であれ記録されたものはいとも容易く更新できてしまう。男はそれをおかしいと思わなかった。自分にはそれができたからだ。そんな男自身もしばらく本当の名前というものを呼ばれたことがない。
     名無しのジョン・スミス。
     自分もそうなのかもしれない。



    「いい加減に休みを取れ」
    「取ってるよ。そこで」
     常人なら平伏してしまいそうな高圧さでイアンに見下されたシキが、何の感慨もなく指差した先は部屋の隅にぽつんと置かれた二人掛けのソファだ。ディスプレイを見続けながら返事をするシキに「こっちを向け」と言っても効果がないのはもはや分かりきっている。この会話をするのも実は初めてではなく、お互いがお互いの言い分にうんざりという顔を隠さなくなってきた程度には回数を重ねているのだった。
     ここ二週間ほど、シキは家に帰っておらず、満 2126

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