Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    🌸🌸🌸

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 43

    🌸🌸🌸

    ☆quiet follow

    夢遊病ぎみな鶴丸の話

    ##本丸軸なふたりの話
    ##くりつる

    呼び声「部屋の下から声が聞こえてくる気がする」

     目の下にくっきりと隈を浮かべているのでどうしたのかと尋ねると鶴丸はそう答えた。
    「なにを言っているのかは聞き取れなかったが」
     鶴丸の部屋は顕現してから数年、ずっと変わっていない。動物か何かが入り込んで音を立てているのかもしれないが、ここ一週間ほどずっと声のようなものが聞こえているらしいから、動物とも違うのかもしれない。
     試しに畳を上げてみたり、床下を確認してみたものの、やはりなにかがいた形跡はなかった。
     寝不足ですっかり神経質になってしまった鶴丸は、枕を片手に今日はここで寝ると大倶利伽羅の部屋へ突撃してきた。平時であれば追い返すものの、ここ数日の様子を見ていたので、しぶしぶと鶴丸の部屋から布団を持ってきてやって並べて敷いた。流石に布団一組で秋の夜はやり過ごせない。
     夜もすっかり深まったころ、となりの布団で動く音がする。鶴丸が厠にでも起きたのだろうかと薄目で眺めていたが、鶴丸が向かった方角は厠の方角ではなかった。大倶利伽羅は起き上がり、部屋を出て鶴丸を追いかける。鶴丸が向かっているのは明らかに自室だった。
     腕を引いた。鶴丸が振り返り大倶利伽羅を見るが、こちらを見ているようで見ていない。明らかに様子がおかしい。どうした、と問う。声が、と返ってきた。
    「声が、呼んでる」
     耳を澄ませてみたが、聞こえるのは虫や鳥の鳴き声、風の音くらいで、やはり声のようなものは聞こえない。
    「来いって言ってるんだ」
    「呼ばれたからといって行く必要はない」
    「でも」
    「……俺と見知らぬ声と、どっちを優先するんだ」
    なんだか童のような言葉になってしまったが、鶴丸はくすりと笑った。
    「それもそうだ」
     腕を掴んだまま大倶利伽羅の部屋に戻り、結局一組の布団でぎゅうぎゅうに横になる。鶴丸の身体は夜風に当たったせいか、緊張からか、ひんやりとしていて、まるで死体のようであった。
    「なあ、伽羅坊。子守唄を歌ってくれよ。そうしたら声も聞こえないし、よく眠れる気がするんだ」
    「わがままを言うな」
    「けち。じゃあ俺が歌ってやろう」
     鶴丸が小さく調子外れの子守唄を歌っていると、次第に体温が戻ってくるのを感じる。時折戯れに掴む腕に力を入れてみたりすると、鶴丸は笑った。
     結局それからも鶴丸は大倶利伽羅の部屋で寝起きするようになった。相変わらず声は聞こえるようだったし夢遊病のように部屋へ戻ろうとすることもあったが、そのたびに連れ戻した。
     目の下の隈が消えたころ、鶴丸は一週間の長期遠征へと出かけることになった。流石に時空を越えてまで声は聞こえないと信じたい。
     さて、と大倶利伽羅はスコップを持って鶴丸の部屋へ向かった。鶴丸を長期遠征へ行かせるように主へ頼んだのは大倶利伽羅である。そうでなければできない仕事があったからだ。
     畳を上げ、床下を確認する。やはり動物などがいた形跡はない。更に下、地面へと、大倶利伽羅はスコップを突き刺した。手応えがあったのは掘り始めてから数十分経過してからのことである。
     発掘したそれらを主へと見せると、主は卒倒し始まりの一振りは主は繊細なんだからと怒り始めた。刀剣男士の感覚と人間の感覚はすっかり違っていたことを忘れていたのでそこは素直に反省する。
     鶴丸の部屋の床下から掘り出されたのは骨である。奇妙なことに、明らかに男の物、女の物、子供の物が入り交じって、どれも中途半端な数にしかならない。並べてみればてんでばらばらな「ひとり分」が出来上がるのかもしれないが、主のことを慮って、止めておいた。
     発見された骨は政府へと引き渡された。この本丸が開かれる前、別の本丸がいたのではないかという疑問をぶつけたが、そんなことはないという。完全な更地にこの本丸は開かれたそうだ。ではこの骨は一体どこからきたのか。埋められたのは、随分昔のようだった。
     念のため、お祓いをし、鶴丸にはこのことを黙っていようという話となった。誰だって自室の床下から遺体が発掘されて良い気分にはならないだろう。
     結局のところ、大倶利伽羅にとって真相とはどうでもいいものである。遠征から帰還した鶴丸は相変わらず大倶利伽羅の部屋で寝起きしているものの、もう声は聞こえないとほっと胸を撫で下ろした。夢遊病のような症状も、ぱったりと消えた。
     困ったのは鶴丸が毎晩大倶利伽羅に話しかけるため、なかなか寝入ることができなくなってしまったことである。これでは鶴丸と立場が逆転してしまっただけだ。たまに甘えたように布団の中にたまに潜りこむことがあったが、大倶利伽羅が追い出さないことに味を占めたようだった。


     鶴丸の部屋は、今でも開かずの間となっている。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤👏😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    🌸🌸🌸

    DOODLEドッペルゲンガーだった鶴丸と一振り目の大倶利伽羅の話
    ドッペルゲンガー、恋を知る。第四話 窓辺に吊したてるてる坊主がこちらを見ている。
     鶴丸が顕現した春から季節は過ぎ、本丸には梅雨が訪れた。遠征先で雨は体験していたものの、毎日続く雨には驚きもなくうんざりとさせられる。じめじめとした湿気は気分を憂鬱にさせられるし、気晴らしに外へ出ることもできない。なにより、いつもの習慣であった大倶利伽羅との手合わせができないのは辛かった。道場は手合わせの相手を求める刀剣男士たちでいつもより溢れかえっていて、彼らと一汗流すのもよかったが、やはり大倶利伽羅との手合わせが鶴丸にとって格別なのだというのを再認識してしまうのだった。
    「ええと、これは、美術の棚か」
     書庫の中、鶴丸はワゴンを押す。
     青江の勧めに従って、鶴丸は書庫の管理人となった。司書と呼ぶには知識は足りないので、本当にただの管理人に近い。それでも返却された本を棚に戻したり、今まではなかった貸し出し管理簿を作ったり、やることはそれなりにある。特に、書庫の書籍をリスト化する仕事はなかなかやりがいがあった。鶴丸が顕現するまで本は適当に管理されていたらしいというのは青江から話には聞いていたが、終わるまでにどれくらいの時間がかかるものか。
    31726

    recommended works

    silver02cat

    DONEくりつる6日間チャレンジ2日目だよ〜〜〜〜〜!!
    ポイピク小説対応したの知らんかった〜〜〜〜〜!!
    切望傍らに膝をついた大倶利伽羅の指先が、鶴丸の髪の一房に触れた。

    「…………つる、」

    ほんの少し甘さを滲ませながら、呼ばれる名前。
    はつり、と瞬きをひとつ。 

    「…………ん、」

    静かに頷いた鶴丸を見て、大倶利伽羅は満足そうに薄く笑うと、背を向けて行ってしまった。じんわりと耳の縁が熱を持って、それから、きゅう、と、膝の上に置いたままの両手を握り締める。ああ、それならば、明日の午前の当番は誰かに代わってもらわなくては、と。鶴丸も立ち上がって、その場を後にする。

    髪を一房。それから、つる、と呼ぶ一声。
    それが、大倶利伽羅からの誘いの合図だった。

    あんまりにも直接的に、抱きたい、などとのたまう男に、もう少し風情がある誘い方はないのか、と、照れ隠し半分に反抗したのが最初のきっかけだった気がする。その日の夜、布団の上で向き合った大倶利伽羅が、髪の一房をとって、そこに口付けて、つる、と、随分とまあ切ない声で呼ぶものだから、完敗したのだ。まだまだ青さの滲むところは多くとも、その吸収率には目を見張るものがある。少なくとも、鶴丸は大倶利伽羅に対して、そんな印象を抱いていた。いやまさか、恋愛ごとに関してまで、そうだとは思ってもみなかったのだけれど。かわいいかわいい年下の男は、その日はもう本当に好き勝手にさせてやったものだから、味を占めたらしく。それから彼が誘いをかけてくるときは、必ずその合図を。まるで、儀式でもあるかのようにするようになった。
    1312