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    光忠視点のラブコメ模様

    春うらら 春うらら。
     そんな穏やかな天気ではあったが、連日の出陣で疲れ切っていた僕らは部屋でのんびりと過ごしていた。僕ら、というのは、まあ、いつもながらに伊達に縁がある四振りのことだ。
    「伽羅坊ー。俺にもくれよ」
    「やらん」
    「伽羅坊のけち」
     ひとりお菓子を食べていた伽羅ちゃんは、伸びてくる鶴さんの手から逃れるように背を背けた。うちの本丸の伽羅ちゃんは結構食い意地が張っている。食べさせる方からすればたくさん頬張る姿は微笑ましいが、鶴さんは不満そうだ。まあ、このお菓子も伽羅ちゃんの誉のご褒美だしね。鶴さんも伽羅ちゃんが断ることをわかっていて、戯れるための言い訳のようなものだろう。
    「ああ、良い天気だなあ」
     こたつもそろそろ片付けなければならないが、まあ、今度でいいだろう。頭は疲れ切っていて、一歩も動ける気がしなかった。
    「そういえば、光坊と貞坊に話があってなあ」
    「うん?」
     代わりにと貞ちゃんがくれた抹茶のチョコレートを食べながら、鶴さんが口を開いた。
    「俺と伽羅坊って、付き合って長いだろ」
    「うん……?」
     確かに、鶴さんと伽羅ちゃんは付き合いが長い。伊達の家で暮らしていたときもそうだし、この本丸が開かれてから比較的すぐにふたりは顕現したので、十年くらいになるだろうか。僕はそれよりも半年近く遅くやってきて、貞ちゃんはさらに数年遅い。だからこの中で一番長い付き合いというのなら、鶴さんと伽羅ちゃんだろう。
     ただ、なんだろう。言い回しに引っかかるところがあって僕は首を傾げた。
    「ま、本丸も開かれてそれなりだし、昨日も伽羅坊が誉を取ったし。あと良い天気だしで、良い機会だと思ってな。俺と伽羅坊、祝言を挙げることにしたんだ」
     チョコレートの包み紙でカエルを作ってぴょこぴょこ跳ねさせている鶴さんは、なんてことのない口調で重大発表をした。あ、そこ鶴じゃなくてカエルを折るんだな、と僕はどうでもいいことを考えた。
    「祝言」
     同じくポカンとした顔で貞ちゃんが鸚鵡返しする。
    「俺は別にやらなくてもいいんじゃないかって言ったんだけど、伽羅坊がなー。堅苦しいだろ。今更だし」
     けらけらと鶴さんが笑うのに、伽羅ちゃんがむっとした顔をする。
    「形にしないと示しがつかないだろう。特に、三条の連中には」
    「いや、あいつらが気にするかな。きみが気にしすぎだろ。今時、餅がどうこうとかやるやついないぜ」
     伽羅ちゃんをいじる鶴さんの耳は、けれど少しだけ赤い。照れているのだ。
    「ま、きみたちにも色々気を使ってもらったしな。一番に報告したくてさ。このあと、主のところにも行ってちゃんと言ってくるさ。やっぱ、祝言ともなると色々やらなきゃいけないことあるだろうしな。きみたちにも引き続き面倒を掛けるとは思うが」
    「よろしく頼む」
     鶴さんと伽羅ちゃんが珍しく揃って頭を下げるのに、僕と貞ちゃんは慌てて手を振った。
    「いいや、別に、そんな。迷惑だなんて。ね、貞ちゃん!」
    「そうそう。めでたいことなんだから。な、みっちゃん!」
     僕と貞ちゃんはお互いに目配せした。言いたいことはよくわかっていたが、今は言ってはいけないこともわかっていたのだ。僕たちは格好良く、そして空気が読める刀だった。
     そうか、と鶴さんと伽羅ちゃんがほっとした表情をする。
    「じゃ、早速主のもとへと行ってくる。ほら、伽羅坊も食べ切ってしまえ」
     鶴さんに催促されて伽羅ちゃんが持っていたどら焼きを大きな口で食べ切ってしまう。その口の端についていた食べかすを、くすくす笑いながら鶴さんが指先で取った。心底愛おしくて堪らないという顔だ。
     部屋を出ていくふたりを笑顔で見送ったあと、僕と貞ちゃんは表情を消しお互いに向き合った。
    「貞ちゃん」
    「みっちゃん」
     もしかしたら貞ちゃんはなにか知っているかもしれない。そんな一縷の望みに賭けてみたが、残念ながらそううまくはいなかった。いや、ここで貞ちゃんが知っていたとしたら僕だけが蚊帳の外だったってことで、それはそれでショックではあるんだけど。
     貞ちゃんの瞳は真剣だった。真剣に、どうしようか、どうするべきか考えていた。僕と同じように。
     僕らは同じ問題に直面している。未だかつてない大きな問題だった。
    「あのふたり、いつから付き合っていたの……?」
     そう、僕らは、鶴さんと伽羅ちゃんが付き合っていることなど微塵も知らなかったのである!
     
    「もしかして今日ってエイプリルフール」
    「いや、鶴さんはともかく伽羅はこういう冗談は言わないだろ」
    「そう、そうだよね……。出陣の時差ボケでまだ頭が四月一日なんじゃないかと疑ってみたけどそんなことないよね……」
     どうしよう。本気で困ってしまった。
     あのふたりは、僕らが鶴さんと伽羅ちゃんと関係を知っている前提で話をしてきた。ところがどっこい、僕らは彼らが付き合い始めたという報告をそもそも受けていないのである。伊達の家にいたころからの付き合いならば僕が知らないということもあり得るがしかし、貞ちゃんも知らないとなると本当にいつから付き合い始めたのかがわからない。
     鶴さんは先ほど、「付き合って長いだろ」と語っていたが、その長さというのはどのくらいの期間なのだろう。伊達からの付き合いならば当然長いといえるが、本丸で顕現してからの付き合いだとしても顕現してから十年ともなればそれだって長い。鶴さんのことだからお付き合いして一年でも長いと判断するかもしれない。どうだろう。
    「どっちかが、俺らに付き合っているって報告したと思ってるんだろうなあ」
    「かも。ふたり、結構抜けたところあるし」
     祝言の報告だってこんなふうにするくらいだし。
     僕と貞ちゃんは頭を抱えて悩んだ。
    「なんか、知らなかったって言い出せなくなっちゃったよね」
    「俺ら、最初の反応間違っちまったかもな」
    「素直に驚いておけばよかったのに呆気に取られちゃって」
     きっとふたりは祝言を挙げるという報告に驚いたと思っているだろうが、僕らはそもそもふたりが付き合っていたことを今更知って驚いていたのだ。
    「どうしよう。こうなったらほかの本丸のふたりに恥を忍んでいつから付き合っているのか聞きにいく? 当の本人たちにはなんだか言い難いし」
    「やめとけやめとけ。これでほかの本丸のふたりが付き合ってなかったら藪蛇だぜ」
     貞ちゃんが慌てて僕の案を却下する。それもそうだ。
     僕らが唸っていると、部屋の外から声がかかる。
    「燭台切に太鼓鐘。少し話、いいだろうか」
     この声は三日月さんだ。こんなふうに遠慮がちに話しかけてくるだなんて珍しい。首を傾げながら僕らは彼を迎え入れた。
     三日月さんは常にない神妙な面持ちで腰を下ろした。
    「恥を忍んでふたりに聞きたいことがある。鶴丸国永と大倶利伽羅のことだ」
     なんだか嫌な予感がしてきたな。
     僕と貞ちゃんは本日何度目かの心の声が一致した気がした。
    「あのふたり、いつからそういう仲なのだ」
    「え、えーっと」
    「先ほど、縁側で茶を飲んでいるとふたりが通りかかってな」
     団子が数本余っていたから、ふたりもどうだと誘ったが断られたのだという。
     珍しいこともあるものだ。案外、大倶利伽羅は食い意地が張っているからこういうときに断らない。まあ、世間話も右から左に聞き流して食べ終えたらさっさといなくなるのだが。
    「俺たち、主に祝言を挙げさせてほしいって言いにいかなきゃならんからさ。そうそう、三条って今日ほかに誰かいるか」
    「……いや、俺だけだが」
    「んじゃ、きみでいいか。なんだか伽羅坊が格式張ったやり方でしたいらしくてな。でも、俺の実家筋をどうするかっていう話でさ。五条の縁で三条に色々頼みたくて。伽羅坊はやっぱり、伊達の方で光坊と貞坊に頼むことにしたからな。な、いいだろう」
    「……それは、まあ、構わんが」
     三日月さんの反応を置いて、鶴さんは構わず話し続けたらしい。三日月さんは普段からまいぺーすを豪語しているから、多少反応が鈍くても気にしなかったのだろう。
    「よかったよかった。伽羅坊は、きみたちが反対するんじゃないかって気にしていてな。な、大丈夫だったろ」
     そう鶴さんは伽羅ちゃんに微笑みかけ、ふたりは仲良く手を繋いで主の元へ向かったとのことである。
     語り終えた三日月さんの表情は暗い。
    「恥ずかしながら俺は、ふたりがいつから付き合い始めたのか知らなくてな。もしかしたら、報告されたのを聞き逃してしまったのかもしれん。本人たちに直接聞くには申し訳なくて、こうしてふたりのもとへ来たというわけだ」
     三日月さんはまるで戦場に取り残されてしまったかのような絶望的な表情を浮かべ、助けを求めるかのように僕たちを見た。
     残念ながら、僕らは彼を救ってあげることができない。三日月さんの肩に手を置いて、僕は首を横に振った。
    「実は、僕たちも知らないんだ」
    「そんな、まさか」
    「ていうか知っていたら、僕と鶴さん、伽羅ちゃんと貞ちゃんっていう部屋割りにしないよね……!」
     なんなんだろうこの部屋割り。しかも、言い出したのは確か鶴さんからのはずだ。もともと鶴さんと伽羅ちゃんが同じ部屋だったのを、夜戦編成のことを考えるなら伽羅坊と貞坊が一緒の方がいいんじゃないかと言い、伽羅ちゃんもそうだなと頷いた。そこから部屋割りが変わったのだ。おかしいよあのふたり。鶴さんも鶴さんだし伽羅ちゃんも伽羅ちゃんだよ。僕のことを信頼しすぎだよ。まあ僕、ふたり付き合っていたこと知らなかったんだけれど。変なことをするどころか毎日夜更かしする鶴さんを布団に放り投げて翌朝布団から転がり落として起こしていたんだけど。まるで母親かな。
    「三日月さんも知らないんじゃ、もうこの本丸で知っている人なんていないんじゃないかな。正直、僕らを差し置いて知っている人がいたらショックすぎて数日寝込む自信があるよ」
    「そんなに」
    「だって顕現してから付き合い始めたなら、教えてくれたら僕だって赤飯炊いてお祝いしたし! とびきりのご馳走作ってあげたし! ね、貞ちゃん!」
    「お、おう……」
     なんでそこで引くのかな。
    「いや、しかしだな。これを機に盛大に祝ってやることはな、確かに、できるというわけだ。知らない間に祝言を挙げていたことになっていたら流石の俺も折れるくらいの衝撃だったからな」
    「そうだね……」
     そうならなくて本当に良かった。こうなれば、祝言に向けて準備をしなければならない。とびっきりのご馳走を用意しよう。それから、衣装のことも考えなければ。やらなければならないことがたくさんだ。やりそびれてしまったことを、これを機にやってしまう。なるほど、良い考えだ。
    「そういえば僕ら、さっき驚きすぎてお祝いの言葉を忘れちゃったよね」
    「ま、あとでたっぷり聞かせてやろうぜ」
     落ち込む僕の背を貞ちゃんが叩いたとき、本丸に響き渡るくらいの悲鳴が聞こえた。
     
    「えー! ふたり、付き合ってたの!」
     
     主の声である。
     流石の主、僕たちにできないリアクションができる。これが人間というわけか……と僕は感心しながら主のもとへと駆けつけた。こっそりと。
    「え、え、えー! 知らなかったよ! 言ってくれればよかったのに!」
    「え、あれ。言ってなかったっけか、伽羅坊」
    「お前が言ったんじゃないのか、鶴丸」
    「どっちも教えてくれなかったんですけどー!」
     主ときたら、衝撃のあまりに床を転がり回りそうな勢いだった。すごい、ここまでの反応、僕らにはできなかった。
     あはは、と鶴さんが頭を掻く。
    「いやあ、すまんすまん」
    「で、で、ふたりっていつから付き合ってんの? 伊達の頃から? この本丸に来てから?」
     これだ。
     僕はこれを聞きたくてこっそりここにきたのだ。
     僕だけじゃない。貞ちゃんも、三日月さんも、廊下の影で固唾を飲みながら三人の様子を見守った。
     鶴さんと伽羅ちゃんはお互いに目を合わせ、それから少しだけ恥ずかしそうに人差し指を口もとへと当てた。
    「恥ずかしいから、秘密だ」
     恥ずかしいかー。それなら仕方がないなー。
     仕方がないな……。
     陰から見守っていた僕らは揃って膝をついた。完敗だ。いや、勝負はしてなかったけれど。
     
     はあ、と溜め息のような笑みのようなものが口から溢れた。
     仕方がない。こうなったらふたりがいつからのお付き合いなのかということはもう忘れて、本丸中でお祝いをしよう。これまでのことを知らなくとも、これからのことはお祝いできる。それもやはり、素晴らしいことなのだ。
     ひとまず、彼らに祝福の言葉をたくさん、浴びせてあげようと僕たちは決めたのだった。
     
     
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    silver02cat

    DONEくりつる6日間チャレンジ2日目だよ〜〜〜〜〜!!
    ポイピク小説対応したの知らんかった〜〜〜〜〜!!
    切望傍らに膝をついた大倶利伽羅の指先が、鶴丸の髪の一房に触れた。

    「…………つる、」

    ほんの少し甘さを滲ませながら、呼ばれる名前。
    はつり、と瞬きをひとつ。 

    「…………ん、」

    静かに頷いた鶴丸を見て、大倶利伽羅は満足そうに薄く笑うと、背を向けて行ってしまった。じんわりと耳の縁が熱を持って、それから、きゅう、と、膝の上に置いたままの両手を握り締める。ああ、それならば、明日の午前の当番は誰かに代わってもらわなくては、と。鶴丸も立ち上がって、その場を後にする。

    髪を一房。それから、つる、と呼ぶ一声。
    それが、大倶利伽羅からの誘いの合図だった。

    あんまりにも直接的に、抱きたい、などとのたまう男に、もう少し風情がある誘い方はないのか、と、照れ隠し半分に反抗したのが最初のきっかけだった気がする。その日の夜、布団の上で向き合った大倶利伽羅が、髪の一房をとって、そこに口付けて、つる、と、随分とまあ切ない声で呼ぶものだから、完敗したのだ。まだまだ青さの滲むところは多くとも、その吸収率には目を見張るものがある。少なくとも、鶴丸は大倶利伽羅に対して、そんな印象を抱いていた。いやまさか、恋愛ごとに関してまで、そうだとは思ってもみなかったのだけれど。かわいいかわいい年下の男は、その日はもう本当に好き勝手にさせてやったものだから、味を占めたらしく。それから彼が誘いをかけてくるときは、必ずその合図を。まるで、儀式でもあるかのようにするようになった。
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