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    グリーンカーテンの話

    #くりつる
    reduceTheNumberOfArrows

    語らぬ赤き星 鶴丸の部屋の外には赤い星が流れている。
     その星の名を、縷紅草というらしい。

     そもそもの始まりは——そう呼ぶには大仰だが——数年前、鶴丸が顕現した年の夏まで遡る。

     本丸にある各自の部屋には元々空調設備が整っている。鶴丸が顕現したのはまだ雨が続く梅雨のことで、じめじめとした気候にうんざりしていた鶴丸は、なるほどこれはいいものだなあと除湿機能のありがたさを知ったのである。
     だがしかし、冷房は駄目だった。鶴丸とはとことん相性が悪かったのである。
     冷房を稼働し続ければ寒すぎるし、電源を消せば今度は暑い。人工的な風は長時間浴びていると具合が悪くなる。扇風機ならばそんなこともなかったので空調を切り扇風機の利用を続けたが、風だけで暑さを凌ぐことはできなかった。鶴丸が熱中症で倒れるのも仕方のないことである。
     そういう老人いるよなァと太鼓鐘がうちわで鶴丸をあおぎつつ笑ったが、不本意である。鶴丸も流石に懲りて夏の間は羽織を肩にかけて極力直接身体に空調の冷たい風が当たらないようにすることで決着がついた。これだと微妙に暑いのだがわがままは言っていられない。
     せめて朝くらいは自然の風で過ごせればなぁと布団の上でぐったり横たわる鶴丸を見兼ねてか、次の年に大倶利伽羅が用意してくれたものがあった。
     緑のカーテンと呼ばれるそれは、つる植物を支柱に絡ませて作るらしい。鶴丸の部屋の前で黙々と作業する大倶利伽羅になにをやっているのかと首を傾げたが、どうやら直射日光が鶴丸の部屋に当たらないようにとの気遣いのようだった。
     初めの年は、朝顔だった。初めて咲いたのを見たとき、鶴丸は感嘆の声をあげて大倶利伽羅を呼びに行った。
     枯れて役目を終えたときは寂しかったが、種子は回収し、一部は薬研が薬にしたいとのことなので渡した。次の夏には鶴丸もプランターで朝顔を育てた。
     朝顔の次に大倶利伽羅が育てたのはツルムラサキで、時折光忠が葉を回収しておひたしを作ってくれた。小さな花はなんとも愛らしかった。せめてなにかの礼になればと、果実の汁で染めた布で作った巾着を大倶利伽羅へ贈った。
     そんなふうに、大倶利伽羅は毎年鶴丸の部屋の前に緑のカーテンを作ってくれた。
    それを見てなのか本丸でも同じように緑のカーテンを作る連中が出てきたが、鶴丸の部屋の緑のカーテンは毎年大倶利伽羅が作ってくれているのである。

    「去年のゴーヤも面白かったが、今年の花は可愛いな」
     つん、と星の形をした花をつつきながら鶴丸が笑みを零す。
     昨年のゴーヤは最終的にゴーヤチャンプルーになったのだ。
    「今年もありがとな」
    「また倒れられても困る」
     ぶっきらぼうに大倶利伽羅は答えるが、こうして手間をかけてくれているのだから優しい。
     毎年違うものを植えるのも、驚きを求める鶴丸に合わせてくれているのだろう。「きみの色だな」
    「……そうか?」
     大倶利伽羅は首を傾げる。そうさ、と鶴丸は答える。
     どこまで自覚的で、どこからが無自覚なのやら。
     縷紅草には、白い花もあるらしい。赤い花が咲いたとき、白い花じゃないんだねと乱がほかにも種類があることを教えてくれたのだ。思い返せば、花の色が複数あるものについては白か赤を大倶利伽羅は選んだが、その両方があるときはなぜか赤い色を選ぶのだ。
     縷紅草なんて名前だから赤い花しかないと思っていたが、白とピンクのものと混ぜて育てることも珍しくはないのだとか。
     大倶利伽羅の首筋に流れる汗を拭ってやりながら、鶴丸は再び笑った。

    「本当に、愛らしい花だよ」
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    PROGRESSセンチネルバース第三話 進捗報告 後半も書き終わったらまとめて推敲してぴくしぶにあげます
    忘れ草③進捗 耳を劈く蝉の鳴き声、じめじめと肌に纏わりつく湿気、じりじりと肌を焼く灼熱の陽射し。本丸の景色は春から梅雨、そして夏に切り替わり、咲いていたはずの菜の花や桜は気付けば朝顔に取って代わられていた。
     ここは戦場ではなく畑だから、飛沫をあげるのは血ではなく汗と水。実り色付くのはナス、キュウリ、トマトといった旬の野菜たち。それらの世話をして収穫するのが畑当番の仕事であり、土から面倒を見る分、他の当番仕事と同等かそれ以上の体力を要求される。
    「みんな、良く育っているね……うん、良い色だ。食べちゃいたいくらいだよ」
    「いや、実際食べるだろう……」
     野菜に対して艶やかな声で話しかけながら次々と収穫を進めているのは本日の畑当番の一人目、燭台切光忠。ぼそぼそと小声で合いの手を入れる二人目は、青白い顔で両耳を塞ぎ、土の上にしゃがみ込んでいる鶴丸国永だ。大きな麦わら帽子に白い着物で暑さ対策は万全、だったはずの鶴丸だが仕事を開始してからの数分間でしゃがんで以来立ち上がれなくなり、そのまますっかり動かなくなっていた。燭台切が水分補給を定期的に促していたが、それでも夏の熱気には抗えなかったようだ。
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