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    手帳の話

    #くりつる
    reduceTheNumberOfArrows

    文具沼住人大倶利伽羅くんと本の虫な鶴丸さん④ 夏の始まりに燭台切が麦茶を量産するように、夏の終わりが近づくと大倶利伽羅が作り始めるものがある。
     鶴丸はごろんと寝転がりながら大倶利伽羅の作業を見守っていた。手には先日の非番に手に入れたばかりの本があったが、出陣の疲れが溜まってかどうにも瞼が重くなってしまう。鶴丸が大倶利伽羅の部屋へ入り浸るのはいつものことで、勝手に座布団を丸めて転がっても大倶利伽羅は内心どう思っているかはわからないが文句を言うことはなかった。
     普段から寡黙な男であるが、作業しているときは余計に口を開かなくなる。鶴丸としても作業を邪魔するのは望まないため、重い瞼に邪魔されながらもただ大倶利伽羅が作業を終えるのを待っている。
     革を切り、その革になにやら塗り、磨く。穴を開け金具を通し、ネジを締める。
     ふむ、と納得しているのかしていないのか、大倶利伽羅が顎に手を当て首を傾げる。それから引き出しの中から取りだした紙を作ったばかりのそれに挟み、何度か開いたり閉じたりを繰り返しようやく満足がいったのか道具を片付け始めた。
     それは誰に頼まれた分なんだい。
     鶴丸が尋ねると、大倶利伽羅は短く、乱だと答えた。本人は決して認めやしないだろうが、大倶利伽羅と乱は顕現時期が近いだけあって親しい仲なのだ。
     
     大倶利伽羅は文具沼の住人だ。決して広いとはいえない部屋に手作りの棚を作り、そこにありとあらゆる文具の類を保管している。器用で凝り性なのだ。よく部屋に入り浸る鶴丸ですら、大倶利伽羅がいったいどれだけの文具を保管しているのか把握しきれていない。
     鶴丸としては微笑ましい限りである。この、優しいが寡黙な男が打ち込める趣味があると知れたのは嬉しい。しかしそんな鶴丸であっても、年末近くに大倶利伽羅が万屋で五冊も手帳を買ったときには、いくらなんでもそんなに手帳はいらないだろうと口を挟みたくなったものである。当然、そんなことはしなかったけれども。しかし視線から言いたいことに気がついたらしい。まんすりーとうぃーくりーの違いだとか、同じうぃーくりーでもレフトだとかバーチカルだとか、それでなくともサイズが違う、用途も違う、と普段の寡黙さはどこへいったのやら、大倶利伽羅は語ったのだった。
     なるほど、全然わからん。
     しかし大倶利伽羅にとっては大事なことだったらしい。本丸に帰ってから実際に買ったばかりの手帳を開いて改めて説明を受けるとなんとなくわかってくる。しかし大倶利伽羅ひとりで五冊も手帳を使い切れるのだろうか。
     なんと、綺麗に使い切った。使い切ったどころか、翌年には更に手帳を増やしていた。さすがに主に使う手帳は限られているが、自分で買ったペンの書き味を試したり、手に入れたインクの種類を書き留めたりと、夜寝る前は必ず文机に向き合い手帳と向き合っている。
     そんな大倶利伽羅が手帳を手作りするようになったのは顕現して何年目のことだったか。
     最初はカバーを作る程度だった。それでももともと凝り性な大倶利伽羅は自分が納得するまで作業を続けた。今鶴丸が手にしている本に掛かっているカバーも、大倶利伽羅が手帳カバーとして作ったついでに貰ったものだ。数年使っていると味が出てくるので、鶴丸も気に入っている。
     それが今度は金具を使いシステム手帳とやらも作り始めた。中身は買うこともあれば、自分が今まで大量に購入した紙に穴を開けて作ることもあった。毎年毎年、年末に近づけば大倶利伽羅は翌年使う理想の手帳を作り始めるのである。
     大倶利伽羅が「文具沼の住人」とやらであることは別に隠されていない。基本的に本丸のみんな、それぞれ趣味には寛容だ。本の虫と呼ばれる鶴丸の部屋に本を借りに来る者もいるし、大倶利伽羅が手帳を作っていると知って自分のものも作って欲しいと頼む者もいた。大倶利伽羅としては自分の趣味の一環だからとはじめは断ったものの、やがて根負けして彼らに手帳を作ることになったのだった。作ってみたけれど完成してみるとしっくりこなかったものを渡したり、ある程度リクエストを聞いたりすることもある。鶴丸が「予定を書く欄は最小限でいいが、読んだ本のタイトルと本の年代、読み終えた日を書けるようなものがほしい」と注文したところ、面倒だという顔をしながらもちゃんと作ってくれたのだった。それから鶴丸は毎年大倶利伽羅に手帳を作ってもらっている。
     きみが楽しそうでなによりだ。
     眠い目を擦りながら鶴丸は笑う。鶴丸の言葉をからかいと判断したのか、大倶利伽羅はなにも返さなかった。けれど本心である。
     鶴丸には大倶利伽羅の趣味はちいとも理解はできなかったけれど、尊重はしたい。誰かのために手帳を作っている姿は微笑ましくもある。
     今年の俺の分を作ってもらったら、伊達のみんなで遊びにいく予定を立てよう。最近はなかなか、四人揃った非番など偶然できないものだから、事前に申請しなければならないのだ。まだまっさらな手帳にはじめになにを書くのか、鶴丸はいつも決めている。
     楽しみだなあと思いながら、鶴丸は今度こそ眠気に耐えきれずに目を閉じた。




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    mito_0504

    PROGRESSセンチネルバース第三話 進捗報告 後半も書き終わったらまとめて推敲してぴくしぶにあげます
    忘れ草③進捗 耳を劈く蝉の鳴き声、じめじめと肌に纏わりつく湿気、じりじりと肌を焼く灼熱の陽射し。本丸の景色は春から梅雨、そして夏に切り替わり、咲いていたはずの菜の花や桜は気付けば朝顔に取って代わられていた。
     ここは戦場ではなく畑だから、飛沫をあげるのは血ではなく汗と水。実り色付くのはナス、キュウリ、トマトといった旬の野菜たち。それらの世話をして収穫するのが畑当番の仕事であり、土から面倒を見る分、他の当番仕事と同等かそれ以上の体力を要求される。
    「みんな、良く育っているね……うん、良い色だ。食べちゃいたいくらいだよ」
    「いや、実際食べるだろう……」
     野菜に対して艶やかな声で話しかけながら次々と収穫を進めているのは本日の畑当番の一人目、燭台切光忠。ぼそぼそと小声で合いの手を入れる二人目は、青白い顔で両耳を塞ぎ、土の上にしゃがみ込んでいる鶴丸国永だ。大きな麦わら帽子に白い着物で暑さ対策は万全、だったはずの鶴丸だが仕事を開始してからの数分間でしゃがんで以来立ち上がれなくなり、そのまますっかり動かなくなっていた。燭台切が水分補給を定期的に促していたが、それでも夏の熱気には抗えなかったようだ。
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    silver02cat

    DONEくりつる6日間チャレンジ2日目だよ〜〜〜〜〜!!
    ポイピク小説対応したの知らんかった〜〜〜〜〜!!
    切望傍らに膝をついた大倶利伽羅の指先が、鶴丸の髪の一房に触れた。

    「…………つる、」

    ほんの少し甘さを滲ませながら、呼ばれる名前。
    はつり、と瞬きをひとつ。 

    「…………ん、」

    静かに頷いた鶴丸を見て、大倶利伽羅は満足そうに薄く笑うと、背を向けて行ってしまった。じんわりと耳の縁が熱を持って、それから、きゅう、と、膝の上に置いたままの両手を握り締める。ああ、それならば、明日の午前の当番は誰かに代わってもらわなくては、と。鶴丸も立ち上がって、その場を後にする。

    髪を一房。それから、つる、と呼ぶ一声。
    それが、大倶利伽羅からの誘いの合図だった。

    あんまりにも直接的に、抱きたい、などとのたまう男に、もう少し風情がある誘い方はないのか、と、照れ隠し半分に反抗したのが最初のきっかけだった気がする。その日の夜、布団の上で向き合った大倶利伽羅が、髪の一房をとって、そこに口付けて、つる、と、随分とまあ切ない声で呼ぶものだから、完敗したのだ。まだまだ青さの滲むところは多くとも、その吸収率には目を見張るものがある。少なくとも、鶴丸は大倶利伽羅に対して、そんな印象を抱いていた。いやまさか、恋愛ごとに関してまで、そうだとは思ってもみなかったのだけれど。かわいいかわいい年下の男は、その日はもう本当に好き勝手にさせてやったものだから、味を占めたらしく。それから彼が誘いをかけてくるときは、必ずその合図を。まるで、儀式でもあるかのようにするようになった。
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